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大陸の最南端に、
台風が上陸して2日目・・・
山脈上空を移動している・・・
ハズである・・・
『台風は、今、どこにいる・・・?』
家からは、山脈までは、
徒歩で2日かかる。
その為、台風そのモノは、見えない。
つまり、台風の現在位置は、解らないのだ。
しかし、湿地川の水位は、上昇していた。
普段、水位が10センチ程度の、
湿地川の水が、
30センチにまで上昇している。
『南湖は・・・?』
南の土砂の壁があった場所、
その土砂を取り除いた事で、
元々あった巨大な湖が、復活した。
それが通称・南湖である。
そして、その水位は、
普段、10センチ程度・・・
それが、今、どの程度に成っているのか・・・?
とても気に成る。
しかし、家から、南湖までは40キロ離れている。
その為、実際に行って見ないと、
その様子は解らない。
『見たい・・・』
しかし、見ては、いけない・・・
見た場合、僕の無意識は、
何かを発動させる・・・
その危険性があるのだ。
僕の魔法は、家族が無事なら、それで良い・・・
その様な、単純な発想で、発動する。
その為、南湖が、あふれていた場合、
僕の無意識は、
家族を守る為、目先の判断で、
「何か」をしてしまう。
その「何か」は、
自然環境に良い事とは限らない。
つまり、僕が、台風状況を知る事は、
危険なのだ。
2番山脈と、3人山脈の間には、
通称・山中湖がある。
それは、大量の水を溜め込み、
大雨によって増水すると、
その水は、南湖へと流れ込む。
津波以前の事は、解らないが、
以前3日連続で、雨が降り続いた時、
その現象が起き、
南湖の水位が50センチまで上昇した。
つまり、今回も、
『50センチ程度・・・』
その様にも、考えられる。
しかし、前回の、大雨・・・
その時の激流・・・
それによって、山中湖から南湖までの小川が、
激流で、削られ、大きく成った。
つまり、激流川が完成したのだ。
その為、周囲の雨水も、
激流川に、流れ込み、
以前の大雨の時よりも、
大量の水が、南湖に流れ込んでいる。
ハズなのだ・・・
『僕が、それを見た場合・・・』
『僕が、それを危機と感じた場合・・・』
僕の無意識魔法は、何かをしてしまう。
それが、後々、困る事でも、
家族の安全を、優先してしまう。
そして、それは、洪水よりも危険なのだ。
家族の為なら、非現実的な事を行う。
それが魔法なのだ。
僕は、恐怖を感じていた。
現在、我々の住む場所、
通称「家」から、
1キロ程の位置に、牧草地があり、
そこでは2頭のメス牛が、放牧されている。
2頭目のメス牛も、先日、柵から出したのだ。
その為、現在、柵は空いている。
つまり、次の牛を連れて来る時なのだ。
ところが、牛の大地にも行けない。
先日、牛の大地に行って、
僕は、見たのだ・・・
山菜森に大雨が降り、
牛の大地が、湿地帯に成っている状況を・・・
その時見た光景から予想すると、
現在、牛の大地は、
その多くが、湿地帯に成っている・・・
それが、どの程度「凄い光景」なのか・・・?
その「凄い」が
感動的な光景なのか・・・?
絶望的な光景なのか・・・?
それが解らない。
そして、僕が、その光景に絶望を感じた場合、
僕の無意識魔法は、
牛の安全を、優先してしまう。
牛は、我々の食料なのだ。
多くの子牛が、死んでいた場合・・・
それが、毎年の光景であっても、
僕は、そんな事は知らない。
子牛が死ぬという事は、
我々が困る事なのだ。
その為、目先優先の僕の魔法は、
牛を、我々の牧草地に避難させる・・・
その様な可能性も考えられる。
しかし、突然、牛が20頭増えた場合・・・
タロは、それに対応出来るだろうか・・・?
『牧草は、足りるだろうか・・・?』
冷静に考えれば、対応出来ない。
だから、牛20頭を、
連れて来る事はしない。
僕の考えでは、
その様な事は、
絶対にしないのだ。
ところが、現在の牛の大地の状況は、
全く不明である。
もしかすると、雨が止み、
湿地帯が、無くなっている可能性もある。
しかし、僕の予想を超える被害・・・
その様な光景が、待っている可能性もある。
その光景に驚いた僕が、
冷静に判断出来るだろうか・・・?
『もし、猿人がいたら・・・?』
大雨の山脈から避難した猿人・・・
その子供が居た場合・・・
『僕は無視出来るだろうか・・・?』
猿人と我々原始人とでは、
進化が異なる。
その為、猿人と原始人の間では、
子孫は残せない。
つまり、我々が保護するという事は、
その猿人から、子孫を残す権利を、
うばう事に成るのだ。
数日、育てて、逃がしてやる・・・
通常なら、それも可能である。
しかし、大雨から逃げて来た猿人・・・
それは、弱っている・・・
つまり、僕の回復魔法を受ける事に成る。
結果、賢く成る・・・
僕と、会話が可能に成る・・・
そんな猿人を、その後、
牛の大地に、捨てに行けるだろうか・・・?
捨てるのでは無い・・・
『本来の場所に返してあげるのだ・・・』
この様に、都合の良い、言い訳も出来る。
しかし、僕が保護するという事は、
家族として、受け入れるという事である。
僕の、無意識が、家族と判断して、
猿人を守るのだ。
それを捨てた場合・・・
『何が起きる・・・?』
道徳的には、野生に返す事は、
正しい事である。
しかし、
僕の、無意識は、納得するだろうか・・・?
おそらく、
『何かが起きる・・・』
『何かが発動する・・・』
そのリスクを考えた場合、
僕は、牛の大地に行く事も、出来なく成った。
僕は、怖いのだ・・・
恐れているのだ・・・
以前、恐竜のドラが死んだ・・・
それも突然、死んだ・・・
ドラとゴンは、僕のバリアの守られていた。
僕の回復魔法を受けながら、
眠っていたのだ。
その状態で、なぜ、死んだのか・・・?
その理由が解らない。
しかし、その死が、
不自然である事は、事実である。
母の横に浮かぶ牛肉・・・
それは、バリアで守られ、
解体から数週間経過した今でも、
当時の鮮度と、
その時の温度を守っているのだ。
つまり、僕のバリアは、優秀なのだ・・・
そして、恐竜のドラとゴンは
体調不良を理由に、
僕が保護して、
バリアで守っていたのだ。
結果、ドラとゴンの体調は回復した。
ところが、突然、
ドラが死んだのだ。
優秀なバリアに守られていたのに、
なぜ・・・?
『邪魔だったから・・・?』
『僕の無意識が殺した・・・』
僕の考えでは、
その様な事は、絶対に起こらない。
僕は、家族を殺さない・・・
ハズなのだ。
ところが、ドラは、不自然に死んだのだ。
つまり、
『僕の無意識魔法が、殺した・・・』
その可能性が高いのだ。
つまり、僕の考えなど、
僕の無意識魔法には通用しないのだ。
『では、なぜ、僕の無意識は・・・』
『ドラを殺したのか・・・?』
それは、家族の安全の為である。
ドラも家族だが、
ドラ1匹よりも、
残り5人の安全の方が大切である。
ドラは、元気が良すぎた・・・
自分の力を誇示するタイプだった。
その為、エサを与える母は、
何度もケガをした。
『それが、大人に成ったら・・・?』
身長160センチの恐竜・・・
『それが、元気に動き回ったら・・・?』
その様な事を考えた場合、
ドラの存在は危険であった。
だから、僕の無意識は、
ドラを殺したのだ。
僕の無意識魔法は、
僕の常識・・・
僕の道徳・・・
僕の信念・・・
その様なモノを無視して、
家族の安全を優先したのだ。
つまり、僕が、台風や、
牛の大地の状況を、知る事は、
僕の常識を無視して、
「何か」が起きる危険性が高いのだ。
僕の無意識は、
「赤ちゃん」を殺してでも、
家族の安全を、守るのだ。
もちろん、
『本当に僕が殺したのか・・・?』
それは解らない。
しかし、
バリアで守られたドラが死んだのだ。
状況的に考え、
その犯人は、僕以外に考えられない。
その後、僕は、2週間、家で生活を続けた。
怖くて、動けなかったのだ。




