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狼のタロには、
母の横に浮かぶ肉が見える。
しかし、臭いはしない。
その事を30メートル離れた場所から、
タロに確認した。
現在、タロは、放牧中の牛と一緒に、
柵の中の牛を見張っている。
その為、僕は近付く事が出来ないのだ。
ちなみに、恐竜のゴンは、
柵の近くで眠っていた。
僕と、タロの会話は、
心の声であり、無音である。
しかし、恐竜ドラは、
何かを感じ取った様である。
突然、起き上がると、
母の姿を見付け、
駆け寄って来た。
身長30センチ、
全長60センチ、
ドラが生きていた時よりも、
積極的な行動に思える。
恐竜ゴンには、確認していないが、
ゴンには、母の横の肉が見えていない様である。
もし、確認した場合、
ゴンは、肉の存在を意識する・・・
すると、見える様に成る可能性がある。
その場合、ゴンは、肉を欲しがり、
食べ過ぎる危険性がある。
その為、肉の事は、教えない事にしている。
目の前にあるのに、見えない。
狼タロには、見えるのに、
恐竜ゴンには、見えない。
『なぜ、見えないのか・・・?』
恐竜ゴンは、すでに、僕との会話が出来る。
しかも、回復魔法の影響も受けている。
つまり、僕の無意識は、
恐竜ゴンを、家族と認識しているのだ。
ところが、そのゴンには、肉が見えない・・・
それは、僕にとって、都合が良い、
『無意識魔法には、そんな事も出来るのか・・・』
その事実が、僕に不安を与えた。
現在、僕は、枯れた大地にいる。
その為、山脈上空の台風は、見えない。
しかし、
『僕の無意識には、見えているのでは・・・?』
『台風に影響を与えているのでは・・・?』
僕は、その様な不安を感じた。
確かめたいが、確かめる訳には行かない・・・
僕が行けば、僕の無意識魔法が、
台風の被害を認識してしまう。
結果、この星の気象環境よりも、
僕が、大切に育てた苗木・・・
それを守る為に、
何かを発動させる危険性がある・・・
苗木は、大切だ・・・
しかし、気象環境の方が、もっと大切なのだ。
僕は、その事を充分に理解している。
しかし、目の前で、
大切な苗木が、台風に、破壊された場合、
僕にとって、台風は悪者と認識される。
その為、僕が、
『苗木よりも、台風の方が大切・・・』
などと言っても、
僕の無意識は、その事実を受け入れない。
結果、苗木を守る為、台風に影響を与えてまう。
だから、僕は、山脈には行けない・・・
その為、僕は、恐竜ゴンの所に来たのだ。
気持ちを、紛らわす為である。
他の事に、興味を向ける事で、
僕の無意識魔法が、
台風に影響を与えない様にする。
それが、今回の目的である。
考え過ぎだとは思う・・・
実際、僕の無意識魔法は、
そこまで、僕を裏切らないと思う。
そもそも、僕の無意識魔法は、
僕なのだ。
僕の為に、何かをするのだ。
そんな僕の無意識が、
この世界を崩壊させるとは思えない。
しかし、不安は消えない・・・
僕は、未知のバリアで守られている・・・
僕だけは安全なのだ。
つまり、この星が消滅しても、
僕だけは、無事である可能性がある。
生前、僕は、無知だった。
その為、僕が死んだ瞬間、
僕の無意識魔法も無知だった。
その為、僕の魂を包み込み、
別の世界へと、僕を送り込んだ。
僕の無意識は、
僕には、肉体が必要だと考えた。
だから、津波まで起こして、
必死に探した。
つまり、無意識とは、その様な行動をするのだ。
それが、どれだけの迷惑に成るのか・・・?
そもそも、僕に肉体が必要なのか・・・?
そんな事は、1つも考えない。
条件反射で行動するのだ。
僕が死んで、この世界に来るまで、
僕は、魂だけで移動したのだ。
魂だけて生きていたのだ。
つまり、世界を破壊してまで、
肉体を捜す必要など無かったのだ。
ところが、当時、僕は無知だった。
それが、僕の無意識を暴走させたのだ。
そして、今、僕は、肉体を失っても、
魂だけをバリアで守れる・・・
その可能性を理解している。
全宇宙を消滅させても、
僕だけが無事である可能性・・・
それも理解している。
自分だけ助かる事実を、認識している。
何をやっても、結局、僕だけは無事なのだ。
『僕の無意識は、それを理解している・・・』
しかし、それを実行した場合、
僕には、退屈地獄が待っている。
そんな僕にとって、
守るベキは、
『この星なのか・・・?』
それとも、
『苗木なのか・・・?』
常識的に考えれば、
この星の方が大切なのだ。
しかし、僕は、
生前に見た事がある。
コマ回しの練習会・・・
そこで、1人の少年が、
携帯ゲーム機を、床に叩きつけたのだ。
当然、そのゲーム機は壊れた。
そして、少年は号泣した。
少年は、ゲームに負けた一時的な感情で、
腹を立て、衝動的に、
ゲーム機を床に叩きつけたのだ。
ところが、それによって、ゲーム機が壊れ、
その現実を直視して、
その少年は絶望して号泣したのだ。
それが感情である。
理屈など通用しないのだ。
本当に大切なモノよりも、
目先の感情・・・
人間は、それにコントロールされてしまう。
結果、僕の場合、
苗木を折られた事に、腹を立て、
台風を破壊する・・・
その危険性は、充分に考えられるのだ。
だから、僕は、台風の事は考えたく無い・・・
だから、恐竜ゴンと遊ぶ必要がある・・・
他の事を考えない為には、
恐竜ゴンと遊ぶ以外、
する事が無いのだ。
ゴンは、我々の家族として生きる上で、
家族愛を、学ぶ必要がある。
その為には、家族の役に立つ事への喜び・・・
それを教える必要がある。
その為には、何をすれば良いのか・・・?
それは、棒を投げて、拾って来させる事である。




