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僕の予想では、
この恐竜の赤ちゃんは、
本来、秋に生まれ、
寒い冬を、乗り越える・・・
その様な体質で生まれて来る。
しかし、そんな恐竜が、魔法の影響で、
真夏に生まれてしまった。
その結果、暑さに負け、
体力が低下している。
つまり、寒い地域に、
連れて行く必要がある。
しかし、突然連れて行った場合、
気温の変化で、体調を崩す・・・
現在、弱っている赤ちゃんにとって、
それは、致命傷である。
では、毎日、少しずつ、
寒い地域へと移動するか・・・?
と考えたが、
毎日、環境が変れば、
そのストレスで、弱ってしまう。
『では、どうするか・・・?』
答えは、単純な事だった。
『バリアで包めば良いのだ・・・』
母の左横に浮かんでいる肉は、
すでに2週間以上・・・
腐る事無く、
その鮮度を保っている。
ちなみに、この肉は、
家族では無いし・・・
家族用でも無い・・・
恐竜の赤ちゃん用である。
しかし、バリアで守られているのだ。
つまり、赤ちゃんも、
このバリアで守れば、
最善最適な気温で、
体力を回復させる事が出来る・・・
もちろん、
この方法は、あくまでも、
赤ちゃんの体調不良の原因が、
気温によるモノ、だった場合ではある。
その為、
それ以外に原因がある場合、
僕は対応出来ない。
つまり、僕に出来る唯一の対応・・・
それは、バリアで包み、
赤ちゃんに、最適な気温を、与える事である。
しかし、この方法には、問題があった。
これを実行する場合、
赤ちゃんは、絶えず、僕の近くに居る事に成る。
つまり、家に連れて帰る事に成るのだ。
『どうする・・・』
僕は、通称・材木置き場に行った。
ここは、山脈から取り除いた倒木が、
放置されている。
その中から、巨木を探し、
大きなバケツ・・・
実際には、
直径50センチの球体を作り、
その中を空洞にして、
直径20センチの出入り穴を開け、
その中に、2匹の赤ちゃんを入れ、
球体ごと、バリアで包み込んだ。
家に連れて帰る事は、問題だが、
死なす訳にも行かない、
現在、母の横には、
首と皮と内臓の無い牛の死体と、
芋100個と、
木製の巣穴に入った赤ちゃんが、
浮かんでい居る。
異常な光景だが、
それは、つまり、
僕は、母、肉、芋、赤ちゃん、
それぞれに、対応したバリアを使い、
それを浮かせて、
瞬間移動まで行っているのだ。
僕は、幼児期の自分を思い出していた。
玩具のゴルフクラブで、過剰な練習を繰り返し、
手が血まみれに成って、
その後、倒れた僕・・・
もし、あの日に戻れたなら、
僕も、生前の父や母や姉の様に、
『僕は、僕を止めるだろう・・・』
『絶対に、止めるベキだ・・・』
魔法は便利である。
しかし、その便利が必要に成ったのは、
僕が、こちらの世界に転生して、
その環境を、壊滅させたからである。
僕は、自分が生きる環境を破壊して、
苦しみ、仕方無く、魔法を使っているのだ・・・
『これを便利と呼ぶのか・・・?』
僕が、この世界に来なければ、
誰も被害を受けずに済んだのだ。
今、僕に助けられている家族は、
僕の犠牲者なのだ。
『僕が、魔法を習得しなければ・・・』
『被害は出ずに済んだのだ・・・』
『過去は、変えられないのだろうか・・・?』
そんな事を考えながら、家に帰ると、
祖母が、母の横に浮かぶ木製の何かに気付いた。
当然である。
直径50センチの球体に、
直径20センチの穴が開いており、
その穴から、恐竜の赤ちゃんが顔を、
出しているのだ。
それを見て、大喜びする祖母・・・
父も、それに気付き駆け寄ってくる。
実の所、我々は、赤ちゃんの事が、
好きなのだ。
しかし、毎日、母の腕が、
傷だらけに成る・・・
そんな姿を見て、
恐竜の飼育の、困難を知り、
苦渋の選択として、
別の場所で飼う事に、納得したのだ。
ところが、その恐竜の赤ちゃんが、
帰ってきたのだ。
当然、うれしい・・・
実の所、僕も、うれしい・・・
そして、この瞬間、
この恐竜の未来は、決まった。
『一生、我々と暮らす・・・』
先程まで、僕が、1人で、
『赤ちゃんは、家族だ・・・』
『赤ちゃんを助ける・・・』
などと、助ける方法を、必死に考えていたが、
それは、結局、パフォーマンスだったのだ。
しかし、現在、家族の喜ぶ姿を見て、
僕の無意識が、
この2匹の恐竜の赤ちゃんを、
家族と認めた・・・
その瞬間、僕には、
赤ちゃんの体調が伝わって来た。
具体的に、どの様に「しんどい」のか・・・
感覚で理解出来た。
つまり、僕の回復魔法が、
赤ちゃんの回復の為に、
発動を開始したのだ。
僕の回復魔法は、
それを、どの様な仕組みで、
回復させるのか・・・?
僕には解らない・・・
結局、凄いのは、僕では無く・・・
僕の無意識魔法なのだ。
『無意識魔法は・・・』
『過去に戻る方法を・・・』
『知っているのだろうか・・・?』
『僕が、何を納得すれば・・・』
『それが発動するのか・・・?』
もちろん、僕の無意識魔法で、
過去に戻れる保障は無い・・・
そして、過去に戻れても、
僕の都合良く、物事が進行する訳では無い・・・
『これから、どうすれば良いのか・・・』
『悩んでいても仕方が無い・・・』
『必要な事を実行する・・・』
『では、何をするか・・・?』
牛の大地から、
『2頭目の牛を連れて来る・・・』
そして、先日まで、
1頭目が使って居た柵の中で、
その新入りを育てる。
しかし、ここにも問題があった。
誰が、牛を見張る・・・?
現在、タロと1頭目のメス牛は、
牧草地で、生活している。
エサの時間、タロは、家に戻って来るが、
その時、メス牛も付いて来てしまう。
つまり、今後、牧草地の牛が、20頭に増えれば、
タロのエサの時間には、
20頭の牛が、家に来てしまうのだ。
『これでは、駄目だ・・・』
『牛は、牧草地に残す必要がある・・・』
『では、誰が、それを行う・・・?』
恐竜の赤ちゃんは、将来、
牧用恐竜に成る・・・
その希望はあるが、
現在、身長20センチ、
しかも、まだ、回復した訳でも無い・・・
つまり、今は、まだ、
牛の見張りは出来ない。
『では、どうする・・・?』
『タロと、メス牛に、新入りを見張らせる・・・?』
現実的に、それ以外の方法が無かった。
そして、タロのエサは、
僕が、瞬間移動で、タロの前に送る・・・
しかし、
『本当に、これで良いのか・・・?』
この方法では、タロは、
家族と離れて生活する事に成る。
牛の柵と、我々の家は、
湿地川をはさんで、1キロ離れている。
1キロ離れた仕事場で、
エサだけが、送られて来る環境・・・
それは、あまりに、残酷である。
そこで、タロのエサの時間には、
母の横に、浮かんで居る牛肉・・・
通称・バリア肉を切り取り、
それを、父と祖母に、
運んでもらう事にした。
こうして、僕は、
新入りを捕獲する為、
牛の大地へと向かった。




