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我々が育てている恐竜の赤ちゃんは、
将来、牛を狩る恐竜である。
つまり、強いのだ。
また、魔法の影響で、賢く成っても、
それは、恐竜の範囲なのだ。
つまり、本能が優先される可能性があるのだ。
猛獣が、親同然の、飼い主を襲い殺す。
その様な出来事は、実在する。
僕は、その事実を知っている。
その為、
『この赤ちゃんは家族だ・・・!』
と言っても、それは、パフォーマンスなのだ。
本気で、可愛い、大切、
その様には思っているが、
僕には、それ以上に、
優先するベキ存在が居るのだ。
その証拠に、赤ちゃんに対して、
僕の回復魔法が、発動している気配が無い・・・
などと、考えていると、
僕は、単純な事を、見落としている・・・
その事に気付いた。
『あれっ・・・?』
『もしかすると・・・』
『暑いのか・・・?』
現在、季節は夏である。
そして、この恐竜は本来・・・
秋に生まれると、考えられる。
つまり、この恐竜の赤ちゃんは、
本来なら、冬を乗り越える必要がある・・・
その為、寒さに強い身体で、産まれて来るのだ。
脂肪を蓄え・・・
体温を上げる・・・
生まれた直後、
その様な仕組みが機能する・・・
ところが、そんな赤ちゃんが、
魔法の影響で、
真夏に誕生してしまった。
『夏バテ・・・』
僕は、気温を感じないし、
母は、バリアで守られている。
その為、現在、どの程度、暑いなのか・・・?
僕には、その実感が無かった。
しかし、季節は確実に夏である。
つまり・・・
『涼しい場所に連れて行けば・・・』
『赤ちゃんは、回復する・・・?』
しかし、これにも問題がある。
巣穴を引っ越す事で、
赤ちゃんは、再び、家を目指し、
命がけの移動を、開始する危険性があるのだ。
今、その様な事をした場合、
簡単に、死んでしまうだろう・・・
『では、どうするか・・・?』
悩んでいても仕方が無かった。
僕は、2匹の赤ちゃんを連れて、
北へと移動した。
最北端に到着・・・
最北端には、森は無く、
山脈が広がっている。
山脈の上には、まだ雪が残っていた。
『どこで飼育する・・・?』
山脈に連れて行くか、
それとも、山脈の手前の平地で、
飼育をするか・・・
残念ながら、
僕にも、母にも、
その寒さ・・・
それが解らない。
母など、豪雨の中、空中に居ても、
苦痛を感じないのだ。
現在、僕のバリアは、
そこまで進歩しているのだ。
『父や祖母に確認してもらうか・・・』
などと考えたが、
それは出来なかった。
僕がお願いすれば、
2人は、喜んで協力してくれる。
しかし、現在、父は祖母は、
家族の為に、大切な仕事をしているのだ。
それに対し、僕は、
『遊んでいるのだ・・・』
我々にとって、
この赤ちゃんを育てる理由など無いのだ。
僕が、個人的に、僕の将来・・・
つまりは、宇宙の崩壊を防ぐ為、
赤ちゃんを、見殺しには出来ない・・・
その様な理屈で行動しているが、
それが事実である保障は無い。
つまり、現在、僕は、
僕の、満足・・・
僕の、趣味・・・
その為に、大切な仕事を放置して、
遊んでいるのだ。
そもそも、父や祖母に、
「ここ、寒い」と教えてもらっても、
赤ちゃんにとって、最適な気温なのか・・・?
それは解らないのだ。
しかし、問題を感じる・・・
先ほどまで、夏の環境にいた恐竜を、
一瞬で冬の環境に連れて着たのだ。
もし、冬に強い恐竜であっても、
突然の気温の低下には、対応出来ないだろう・・・
僕は、あわてて、2匹の赤ちゃんを連れ、
北巣穴に引き返した。
『では、どうする・・・?』
『毎日、50キロずつ北に移動するか・・・?』
『毎日、新しい巣穴を作る・・・?』
『そんな事をしても、大丈夫なのか・・・?』
もし、家を目指しての移動をしなくても、
毎日、巣穴が移動して、
そこに放置される・・・
そんな事をしても、
赤ちゃんは耐えられるだろうか・・・?
『ストレス・・・』
身体が弱っている時に、
毎日、環境を変えられ、
肉体的にも、精神的にも、
負担をかけられる。
『無茶なのでは・・・?』
そんな中、
僕は、単純な事に気付いた・・・




