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この世界では、
僕にしか解決出来ない問題が、
次々と起きる・・・
2匹の恐竜の赤ちゃんに、
元気が無いのだ。
エサは、毎回、母が与える。
結果、僕の6メートル範囲に、
赤ちゃんは、入って来るのだ。
その為、回復魔法の影響を受け、
赤ちゃんは、健康上、
全く問題が無い・・・
ハズだった。
ところが、元気が無いのだ。
『死ぬのでは・・・?』
「ぐったり」していて、
エサを与えに行っても、
「ふらふら」と近付いて来る・・・
『回復魔法では、治せない・・・』
僕は、その理由を考えた。
『栄養不足・・・?』
僕の記憶では、
コアラの赤ちゃんは、
お母さんコアラの、フンを食べる。
コアラは、ユーカリという植物を食べるのだが、
赤ちゃんには、それを消化する能力が無い。
その為、お母さんがユーカリを食べ、
そのフンを与えるのだ。
恐竜の赤ちゃんが、
親恐竜の、フンを食べるかは、疑問だが、
本来、親恐竜が、狩った肉を食べる・・・
つまり、親恐竜の唾液や胃酸・・・
その様なモノが含まれた肉を、
赤ちゃんは、食べている・・・
その唾液の中に、含まれる何か・・・
『その何かが、重要なのでは・・・?』
人間の、赤ちゃんの場合、
母乳に含まれる「何か」によって、
赤ちゃんの免疫力が向上する・・・
結局、その「何か」は解らない。
しかし、気に成る言葉は知っている。
『腸内細菌・・・』
生前に、テレビで見たのだが、
腸内細菌は、動物が生きる上で、
とても重要な働きをしている。
では、その細菌は、
どこから来るのか・・・?
それは、食べ物から、身体に入るらしい・・・
『土の付いた、ジャガイモ・・・』
『生野菜・・・』
その様な、食品から、菌が身体の中に入る・・・
その多くは、有害であり、
最悪の場合は、食中毒に成る。
ところが、そんな中に、
身体の役に立つ菌も存在している。
それが、腸内細菌である。
肉食動物は、肉しか食べない。
その理由は、野菜を消化する仕組みが、
無いからである。
結果、栄養が不足してしまう。
ところが、腸内細菌の働きで、
その問題が改善されている。
つまり、
『恐竜の赤ちゃんにも・・・』
『腸内細菌が必要なのでは・・・?』
以前は、この枯れた大地にも、
その細菌は、存在したのかも知れない・・・
しかし、僕が、塩分除去を行った事で、
塩分以外の、多くの成分も、
除去した可能性があった。
事実、塩分除去を行った後、
この地域には、虫が1匹も居なく成ったのだ。
『虫が必要なのか・・・?』
僕は、虫を探しに、
牛の大地に向かった。
そして、不意に思い出す・・・
『あっ・・・』
『干し芋って・・・』
『冬場に干して作るんだった・・・』
『空っ風・・・?』
『その寒い風で、干して作るのだ・・・』
『なぜ、今さら、そんな事に気付くのか・・・?』
僕の情報源は、
ほぼ全て、テレビから得た情報だった。
生前の僕は、親が目を離すと、
異常なレベルで、何かの練習を行う・・・
そんな病的な子供だった。
その為、1人で居る事が禁止され、
その結果、家族の居るリビングで、
テレビを見る事が多かった。
もちろん、当時の僕は、
その何気ない、テレビの情報が、
その後、別世界で、必要に成るなど、
考えもしなかった。
しかし、結果的に、多くの事を学び、
僕は、様々な事を知っている。
しかし、それを、必要な時、
思い出せる訳では無いのだ。
そして、現在、夏である。
その為、暑い・・・
ところが、そんな中、
先日、干し芋は、完成している・・・
『あれでは、駄目なのか・・・?』
『夏に作った、干し芋では・・・』
『保存性が悪い・・・?』
『なぜ、冬場に干すのか・・・?』
『暑い日に、干すと、何が問題なんだ・・・?』
残念ながら、
僕は、テレビで見た事を、知っているだけ・・・
その為、自分自身では経験しておらず、
事実は、何も知らない。
今回、僕は、恐竜の赤ちゃんの為に、
コオロギを捕まえて、
食べさせようと、考えている・・・
しかし、
『本当に良いのか・・・?』
現在、赤ちゃんは、体調不良なのだ・・・
そんな赤ちゃんに、
変なモノを食べさせた場合・・・
『消化不良で、死ぬのでは・・・?』
そこで、考える・・・
『日本で飼われている爬虫類は・・・?』
『どの様に飼育されている・・・?』
『エサは、何だ・・・?』
しかし、こんな事を考えても無駄であった。
『ペットフード・・・』
『その中に、必要な成分は入っている・・・』
この時点で、僕には、何の参考にも成ら無い。
『そんなモノ、手に入らない・・・』
知っているだけ・・・
それでは、役には立たない。
恐竜の赤ちゃんに、最初に与えたのが、
コオロギだった。
実際には、コオロギに似た虫である。
その頭を潰して与えると、
赤ちゃんは、それを食べた。
しかし、その直後、
母が、牛肉を与えると、
赤ちゃんは、
先ほど食べたコオロギを吐き出して、
牛肉を食べたのだ。
そして、気付く・・・
『ヘビは・・・』
『1ヶ月に3回程度しか食べない・・・』
僕は、以前、その様な話を、
聞いた記憶があった。
爬虫類は、毎日、
エサを食べる訳ではない・・・?
『それは、恐竜も・・・同じ・・・?』
『赤ちゃんの体調不良の原因は・・・』
『食べ過ぎ・・・?』
僕は、その可能性に気付いた。
親にエサを与えられると、
本能的に、食べてしまう。
その仕組みによって、
1日3回も食べていた・・・
ところが、本当は、
1週間に、1度のエサで、
充分だった・・・?
しかし、
その場合、疑問である。
『赤ちゃんには、吐き出す能力がある・・・』
以前、コオロギを吐き出したのだ。
つまり、肉であっても、
体調不良に成る程、
食べ過ぎた場合には、
吐き出すハズである。
しかし、赤ちゃんは、吐き出していない・・・
『食べ過ぎでは無いのか・・・?』
完全に、お手上げだった。
栄養不足の可能性・・・
食べ過ぎの可能性・・・
この2つの、正反対の可能性・・・
『どちらが正しいのか・・・?』
『あるいは、別の理由・・・?』
そんな事を考え出すと、
一体、何をすれば良いのか・・・?
解らない・・・
こんな場合でも、
結局、最終的な判断は、
僕の好き嫌いで決まる。
無能な人間が、
答えが解らないのに、
どちらかを、選ぶのだ。
それを決める方法は、
本人の好き嫌いである。
『何となく・・・こっち・・・』
そんな程度の理由で、
それを選ぶ・・・
家族の命を、
その程度の判断で選ぶのだ・・・
『これで良い訳がない・・・』
僕は、好き嫌いで選ぶ事を止めた。




