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ネズミの拠点で、芋を収穫した後、
僕は、その200個の芋と家族を、
瞬間移動で、
通称「台所」に送り届けた。
僕の常識では、台所は、家の中にあるモノだが、
原始人にとって、家とは寝る場所である。
その為、台所は、家の近くには無い。
現在、建築中の家から、森を抜け平地に出るまで、
1分・・・
そこから、さらに30メートル進むと、
川の近くに台所があった。
父や祖母は、
これだけの芋を、どうするのか・・・?
僕に質問する。
その瞬間、僕は、軽い気持ちで、
『干し芋を作ります・・・』
と言ってしまった・・・
手遅れであった。
母が、うれしそうに、
通訳をしている。
それを聞いて、目を輝かせる祖母・・・
新しい技術を、知る事が出来る喜び・・・
それが表情に表れていた。
『困った・・・』
僕は、干し芋の作り方など知らない・・・
見た事は、あるが、
食べた記憶が無い・・・
『では、どうする・・・?』
まず、考える。
干し芋は、その形状から、
サツマイモで作ると、考えられる。
『芋を、スライスして干せば・・・』
『干し芋に成るのか・・・?』
現実的に考え、
それでは、干からびた野菜である。
『おそらく、干す前に、加熱する・・・』
「蒸す・・・?」
『それを干す・・・』
あくまでも、僕の予想ではあるが、
サツマイモを蒸し、
それをスライスして、干す・・・
これによって、干し芋は完成する。
ところが、
『では、どの様にして蒸す・・・?』
現代なら、蒸し器がある。
しかし、原始的な環境で、
どの様にして芋を蒸す・・・?
そもそも、この芋は、
僕が勝手に「芋」と呼んでいるだけで、
本当の芋では無い。
おまけに、この通称「芋」を、
僕自身、食べた事が無い。
母から伝わる感覚では、味が解らない。
その為、我々が収穫した通称・芋が、
ジャガイモの様なのか・・・?
ニンジンの様なのか・・・?
ゴボウの様なのか・・・?
どの様な味なのか、解らない・・・
なぜ、干し芋は、サツマイモで作る・・・?
なぜ、ジャガイモの干し芋が無いのか・・・?
それとも、あるのか・・・?
ニンジンでも、作れるのか・・・?
僕には、その様な知識は全く無い。
『本当に、作れるのか・・・?』
祖母は、ニコニコしながら、
僕の指示を待っている。
『仕方が無い・・・』
そこで、僕は、芋5個分だけ、
作る事にした。
すると、祖母が、
なぜ、そんなに少しなのか・・・?
もっと、たくさん作れば良いのに・・・?
と、当然の疑問を返して来た。
『どうする・・・?』
『正直に答えるベキか・・・?』
しかし、
『干し芋の作り方が解らない・・・』
『それを正直に話した場合・・・?』
『どう成る・・・?』
おそらく、
『では、なぜ、干し芋を知っているのか・・・?』
当然、祖母は、その事に疑問を感じる。
そして、その場合、
僕が、こことは別の世界から、やって来た事を、
説明する事に成ってしまう・・・
『本当に、大丈夫か・・・?』
その様な話をすれば、
祖母は、大喜びして、
僕に、現代の話を聞くだろう・・・
そして、現代の地球に憧れる・・・
すると、祖母は、当然、
その世界へ、
連れて行って欲しいと、お願いする。
しかし、僕の魔法でも、
それは、不可能である。
すると、祖母は、
残念に感じる・・・
夢の様に素晴らしい世界がある・・・
そこから、やって来た人も居る・・・
しかし、自分は行けない・・・
結果、祖母の空想の中で、
現代の世界が、
最高の世界に感じられ・・・
その結果、自分が生活する原始的な世界が、
恵まれない、嫌な場所、
その様に、感じられる。
生前、雪国で育った僕は、
都会に憧れる人を、多く見ていた。
つまり、僕が、現代世界の話をすれば、
祖母の価値観に、悪影響を与えてしまうのだ。
だから、現代の話は、するベキでは無い、
では、祖母に、何と説明すれば良いのか・・・?




