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現在、北大川から、
南へ1キロの地点、上空・・・
その下には、森があり、
森の中を、恐竜の赤ちゃんが移動している。
巣穴を出て、一直線に、南を目指しているのだ。
つまり、この2匹の赤ちゃんは、
家の方角を理解しているのだ。
『これは、この恐竜の能力なのか・・・?』
生前、犬や猫には、その様な能力があると、
聞いた事があった。
科学的な根拠は無いのだが、
飼い主の居る方角が解る・・・
その様な、ペットが居るらしい。
飼い主が、帰宅の為、
会社を出ると、
その瞬間、自宅に居る犬が、
反応する。
飼い主の娘さんの嫁ぎ先など、
知らない犬が、
娘さんに会いに行った・・・
その様な事も、過去の事実である。
全ての犬に、それが出来る訳では無い・・・
しかし、実在する。
動物バラエティーで、
その様な事を放送していた。
『この2匹の赤ちゃんも、それと同じ・・・?』
しかし、それなら、
上空に居る母に、反応するハズである。
ところが、赤ちゃんは、母には、気付いて居ない。
南へ向かい、必死に進んで行く・・・
つまり、魔法の影響では無く・・・
本能的行動で、南へ向かっていると考えられる。
家まで、240キロ・・・
『このままでは、確実に死んでしまう・・・』
『では、どうする・・・?』
僕は、考えた。
例えば、
我々の姿は見せず、
瞬間移動を使い、
赤ちゃんを、北大川の巣穴に戻す・・・
そして・・・
『エサを与える・・・』
『魔法で、回復させる・・・』
しかし、その場合、
1時間眠り、目が覚めたら、
再び、南へと移動を開始する・・・
これを、毎日、2時間ごとに、繰り返すか・・・?
そして、ある程度、成長したら、
牛の大地に移動させ、
そこで放置する。
おそらく、その時には、
親離れをしている。
だから、家を目指して、
移動する事は無い・・・?
『本当に・・・?』
『その保障は・・・?』
家を目指して、
岩塩の大地を横断するのでは・・・?
その可能性は、充分にあった。
この恐竜が、親離れする保障など無いのだ。
親から、エサを貰わなくても、
親と一緒に生活する可能性もある。
実際、牛は、そうである。
乳離れしても、同じ群れの中で生活している。
と成ると・・・
この2匹に赤ちゃんは、
一生、家を目指し、
移動を続ける可能性がある・・・
それに何のメリットあるのか・・・?
そんな事をして、何に成る・・・?
知能で考えれば、
それは無駄な行為である。
命がけで、親に会って、どする・・・?
その前に死んだら、どうする・・・?
しかし、それは、理屈である。
理屈は、本能には勝てないのだ。
理屈では、説明出来ない・・・
それが本能である。
つまり、この恐竜の赤ちゃんは、
大人に成っても、
家を目指し、移動を続ける可能性がある。
『では、どうするか・・・?』
北大川の巣穴に戻し、
母が、直接エサを与える。
そして、北大川の巣穴、
通称「北巣穴」に居れば、
母にエサがもらえる・・・
それを学習させる。
これで、赤ちゃんは、
命がけの移動はしなく成る。
『そして、そのまま、一生育てる・・・?』
『それに、何の意味がある・・・?』
そもそも、母が、エサを与えるという事は、
僕が近くに居るという事である。
つまり、魔法の影響を、与えるという事である。
先ほど見た1番川のドングリ・・・
僕は、魔法など送っていない・・・
つもりである・・・
しかし、そのドングリは、
異常に成長していた。
明らかに、魔法の影響を受けている。
つまり、母が、赤ちゃんにエサを与えれば、
僕に、その意志が無くても、
僕の魔法が、赤ちゃんに、
影響を与えてしまうのだ。
おそらく、赤ちゃんは、賢く成る。
両手の爪が、ナイフの様に鋭い恐竜・・・
それが、賢く成長する。
しかし、
賢さの理屈など、
本能には勝てない・・・
僕は、生前に見たゾンビ映画を思い出した。
ゾンビは設定上、
本能のままに行動する。
しかし、
もし、そこに賢さが加わったら・・・?
人間を食べるという本能は、そのままで、
その効率を上げる為に、
賢さを使ったら・・・?
移動に車を使い、
武器で人間を狩り、
そして食べる。
バリケードは、重機で壊す。
建物に放火して、
逃げ出して来た人間を、
撃ち殺して、それを食べる・・・
『人類は、絶滅するのでは・・・?』
僕の魔法の影響を、受けた赤ちゃん・・・
『恐竜が、どの程度、賢く成るのか・・・?』
『そして、本能で行動する・・・?』
『そして、賢さを使う・・・』
『その時、何を実行する・・・?』
それは解らないが、
『それが解った時には、手遅れ・・・』
『そんな日が、来るのでは・・・?』
不安であった。
『魔法を使えば、一瞬で殺せる・・・』
『それなら、将来では無く・・・』
『今、殺した方が、良いのでは・・・?』
僕が、上空で、その様な事を考えている間も、
2匹の赤ちゃんは、
南へと進んで行く・・・
体力の事など、考えてはいない。
本能によって、突き動かされている・・・
その様な印象を受けた。




