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タロは、基本的に吠えない。
言葉が通じるので、
その必要性が無いのだ。
では、狼山の狼は、どうだろうか・・・?
狼は、リーダー以外は、
遠吠えをしないのか・・・?
『そんな訳はない・・・』
生前、テレビで、
人間に飼われている狼が、遠吠えをしていた。
『では、なぜ、タロは、遠吠えをしない・・・?』
タロに、直接聞こうと思ったが、
残念ながら、タロでも、
そこまで高度な会話は出来ない。
しかし、タロが遠吠えをしない理由は、
何となく、理解出来た。
『えんりょ・・・』
『全員が寝ている時に、鳴くと迷惑・・・』
『タロは、それを理解している・・・』
タロは、夜行性の狼である。
それが、我々の生活習慣に合わせ、
朝起きて、夜寝るのだ。
『ストレスは無いのか・・・?』
タロも、僕の回復魔法によって、
絶えず、健康を維持している。
その為、多少のストレスも、軽減されてしまう。
おそらく、ストレス物質の分泌が、
魔法によって、コントロールされているのだ。
だから、僕は、気付かなかった。
生前の、祖父が飼っていた柴犬のシロ・・・
家族と称する立場のペット・・・
それと、同じ感覚で考えていた。
『しかし、それで良いのか・・・?』
狼は、夜中に行動して、獲物を狩る・・・
それが本能である。
タロは、その本能を、
我慢して生活している・・・
実際、その本能というのが、
どの程度のモノなのか・・・?
我慢する事で、
将来、どの様な影響が出るのか・・・?
解らない・・・
しかし、今さら、タロに、
「狼として生きろ」などと、
言える訳が無い、
タロの元の飼い主は、原始人である。
その原始人を殺したのは、僕である。
そして、タロの本来の仲間・・・
我々山脈で生息していた狼、
それを殺したのも、僕なのだ。
そんな僕が、今度は、
「タロの為」と称して、
タロを捨てる事を考えている・・・
『タロを野生に返す・・・?』
『そんな事は、出来ない・・・』
しかし・・・
『では、恐竜の赤ちゃんは・・・?』
『2匹居る・・・性別は解らない・・・』
『名前も、まだ無い・・・』
『これが、本当に最後のチャンスなのでは・・・?』
僕は、この4日間、何度も、
赤ちゃんを捨てる事を考えて来た。
例えば、「北大川」周辺に連れて行き、
そこで放置する。
「北大川」は、
家から250キロほど、北にある。
周囲に外敵はいない。
僕が、毎日、肉を落下させる。
この方法で、2匹を育て、
ある程度、成長したら、
牛の大地に連れて行き、
本当に、お別れする。
これが、正しい選択だと僕は思った。
両手の爪がナイフ、
将来的には、
身長160センチ、
尻尾を入れたら3メートル、
その身体能力は、狼を狩れる程・・・
そんな恐竜と、生活する事など、
現実的に不可能である。
生前、動物番組で見た事がある。
可愛い、そんな単純な理由で、
オランウータンの赤ちゃんを、
密猟者から買って、
数年後、オランウータンの握力が、
500キロに達し、
飼えなく成る。
『恐竜も同じだ・・・』
『人間の都合では飼えない・・・・』
僕には、赤ちゃんの親を殺した、罪悪感がある。
しかし、その出来事を美談にする為、
恐竜の赤ちゃんを家族にする。
『ただの偽善だ・・・僕の自己満足だ・・・』
『そんな事が、本当に許されるのか・・・?』
来年、赤ちゃんは、
どの程度、成長している・・・?
『どの程度、賢い・・・?』
『どの程度、幼稚・・・?』
何も解らない。
ナイフを持った子供、
それが、家族の周囲を走り回る・・・
『絶対に無理だ・・・』
『必ず、事故が起こる・・・』
走るな・・・!
と教える事は出来る・・・
家族に近付くな・・・!
と教える事も出来る・・・
『しかし、それが家族なのか・・・?』
僕は、赤ちゃんを見た。
『捨てるなら、今日が最後のチャンスだ・・・』




