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恐竜の赤ちゃんが生まれて、4日目・・・
相変らず、母の左横には、肉が浮かんでいる。
現在、季節は夏、
毎日、上空を移動して、
直射日光を浴びているが、
肉は、変色していない・・・
砂などの汚れも無い・・・
毎回、タロが、臭いを確認して、
毎朝、祖母が代表して、毒味をするが、
全く問題無い。
『バリアとは・・・何・・・?』
『時間を止めている・・・?』
その可能性が感じられた。
しかし、その場合、
『母は・・・?』
母は絶えず、僕のバリアに守られている。
もし、バリア内の時間が、止まっているのなら、
『母は、動けないし・・・』
『胎児である、僕の成長も止まっている・・・』
しかし、母は動けるし、
そのお腹は、日増しに大きく成っている。
つまり、
『時間は止まっていない・・・』
という事は、母のバリアと、
肉のバリアは違うタイプ・・・?
僕の無意識が、
それ程、高度な事をやっているのか・・・?
などと、考えていると、
「肉、肉、肉・・・」と声が聞こえた。
『タロ・・・?』
一瞬、そう思ったが、
タロは、そんな事は言わない。
そして気付く・・・
『赤ちゃん・・・!』
『恐竜の赤ちゃんが、しゃべった・・・?』
実際、タロや、恐竜が、しゃべる訳ではない。
タロの場合、
僕に考えを、伝えようとすると、
その意思が僕に届き、
それが、僕の中で、
僕に理解出来る言葉に変換されている。
そして、今、
恐竜の赤ちゃんの意思が、
その原理で、僕に伝わったのだ。
「肉、欲しい、肉、欲しい」
「お母さん、肉、欲しい」
つまり・・・
『僕の意思も、赤ちゃんに伝わるのか・・・?』
タロの場合・・・
僕が、タロに、
考えを、伝えようとすると、
タロには、それが感覚で伝わるらしい。
「右に行け」などと言っても、
本来、狼は「右」という言葉は解らない。
その為、最初の頃は「右」と言われて、
混乱していた事もあった。
しかし、現在は、僕が、心の声で、
「右」と言えば、
タロには、その言葉と同時に、
その意味が、感覚的に伝わる様である。
これは、以前、母に、
ヒモの縛り方を教えた時も、
そうだった。
言葉で「蝶々結び」を教える事は、
困難であるが、
我々の場合は、そこに感覚的要素が加わる事で、
伝える事は、とても簡単だったのだ。
それを踏まえ、
『恐竜の赤ちゃんは、言葉を知らない・・・』
『会話をする知能も無い・・・』
『しかし、僕の言葉は、感覚的に伝わる・・・』
では、どうするか・・・?
『赤ちゃんに何を話す・・・?』
ある日、突然、母のお腹の中から、
声が聞こえた場合、
人間なら、驚くだろう。
しかし、タロは驚かなかった。
その様なモノとして受け入れた。
おそらく、恐竜の赤ちゃんも、
僕に驚く事は無いと思う。
つまり、僕が何者であるのか・・・?
その様な、難しい説明は、必要無いのだ。
『しかし、何を話す・・・?』
『鳴くな・・・! と言う・・・?』
『全員が、食べ終わるまで待て・・・?』
『それを伝える・・・?』
そして、僕は、悩む・・・
『その様な事を、伝えた場合・・・』
その後、赤ちゃんは、
どの様に育って行く・・・?
『我慢強い子供・・・?』
都合良く考えれば、
生後4日で、会話が出来て、
教育が出来るのだから、
それは、大変助かる。
ある意味、便利である。
しかし、その様な育て方をしても、
大丈夫なのか・・・?
例えば、人間の赤ちゃんに、
『泣くな!』と言っても、
それは通じない。
通じたとしても、
赤ちゃんは、泣き止まない。
それで良いのだ。
それで育って行く・・・
それが、先祖代々、
繰り返されて来たのだ。
つまり、それが正しいのだ。
もし『泣くな!』と言って、
泣き止む事が、必要なら、
進化の段階で、その機能を修得している。
それを踏まえて・・・
恐竜の赤ちゃんは、
現在、ピーピーと鳴いているらしい・・・
母に、エサを求め必死である。
これにより、呼吸器が鍛えられている・・・?
その可能性は充分にあった。
鳴く事には、意味があるのだ。
『母に、エサを要求する為に鳴いている・・・』
実際、赤ちゃんが鳴いている理由は、
それである。
しかし、ここが、牛の大地であれば、
鳴く事で、外敵に、自分の位置を知らせる事に成る。
『ところが、恐竜の赤ちゃんは鳴く・・・』
『先祖代々、繰り返されて来たのだ・・・』
人間の価値観や、合理性では、解らない「何か」
命を危険にさらしても、鳴く必要性、本能・・・
僕は、家族が、順番に食事をしている間、
その様な事を考えていた。
そして、ある事に気付いた・・・
『タロは、遠吠えをしない・・・』
『なぜ・・・?』




