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現在、我々は、大陸の東側にいる・・・
そして、全ての自然が死んでいる・・・
僕が、殺してしまったのだ。
その結果、僕の魔法が無ければ、
僕の家族は、生きて行く事が出来ない。
父や祖母が必死に、がんばっても、
それは、僕の魔法があっての事・・・
そんな状態が続いてしまう。
これでは、誇りは育たない。
父が牛を狩れるのは、
僕が牛を用意するから・・・
つまり、現在、父が牛を狩っているのは、
ある意味「ごこ遊び」である。
祖母が、家の作り方を考え、
父が、それを建てる事が出来るのも、
僕が、湿地帯を、地面に戻したからである。
元々、父も母も祖母も、
自分の力で生きて来た。
自然の環境が、それを可能にしていた。
しかし、僕が、その自然を破壊して、
3人から、生きる環境を「うばい取った」のだ。
そして、今、僕が、その代わりを、
魔法で与えている。
3人は、僕が居ないと成立しない世界で、
生かされて居るのだ。
現在、3人に、その様な不満は無い。
しかし、3人は、賢い、
だから、心の中では理解している。
『子供に、育てられているのだ・・・』
『まだ生まれても居ない、子供に・・・』
この状況を作ったのは僕であり、
僕には、それを償う責任がある。
その為には、
僕が居なくても、
3人が生きて行ける環境を復活させ、
3人に返す必要がある。
その為には、
『山崩れを、どの様にして防ぐか・・・?』
実の所、その様な方法など、
存在しないのだ。
山は、その構造上、必ず崩れる・・・
『では、魔法で、それを防げないのか・・・?』
結局の所、無理である。
山の斜面は、水を吸い込む、
それが木々を育て、
湧き水を生む・・・
その為、魔法の力を使い、
山の斜面の水を除去する事には、
多くの危険があった。
『では・・・』
台風の当日だけ・・
その数時間だけ・・・
地面から、水分を抜き取る・・・
『山の斜面を乾燥させて、大丈夫か・・・?』
『その結果、植物に負担は・・・?』
『土の中の微生物は、大丈夫か・・・?』
『水分を残す・・・?』
『どの程度・・・?』
『半分・・・?』
『それが正しいという保障は・・・?』
『半分とは、どの様に判断する・・・?』
考える事は、簡単である。
そして、考えている最中は、
その方法で上手く行く様に思える。
しかし、実行すると、その瞬間、
それでは、駄目であった事に気付く・・・
僕は、その事を、この世界で、何度も学んだ。
だから、山の斜面から水を取り除くなど、
それが、幼稚なアイデアである事は、
充分に理解出来た。
では、落下する雨を、海中に移動させたら・・・?
しかし、不安を感じる。
雲を移動させると、気圧配置に影響が出る。
つまり、落下中の雨を、移動させても、
気象災害が発生する・・・?
その危険性は、充分に感じられた。
豪雨の落下により、
発生する風・・・
風圧・・・?
本来、それが、自然なのだ。
それが、消える事で、
必ず、不自然が生じる。
そんな事を考えながら、
我々山脈の苗木に、生長魔法を送り続け・・・
3日後・・・
現在、昼前・・・
一応、全ての苗木に、生長魔法を送り終えた。
最北端に行って、最初に生長魔法を送った苗を観察。
元々、地面から5センチだけ、出ていた苗木が、
現在では、10センチに生長していた。
5センチ伸びたのだ。
木の種類にもよるが、
それは、充分な成長であった。
僕が、知っているのは、
生前、祖父が、盆栽用の苗木を、
育てていた時の事である。
その為、山に植えた場合を知らない。
しかし、基本的には、同じ事であった。
祖父の場合、紅葉の木から、
新しい枝先を、
10センチ程度の所で切り取って、
それを、赤玉土に植えて、
根を出して、
数週間、その状態で育てる。
1週間で根が出始め、
3週間後に植え替える。
その間、枝が伸びる事など無かった。
あくまでも、現状維持・・・
それが、本来の苗木作りである。
そんな、苗木の根出しを、1分で行い、
それが、3日で、倍の長さに育てたのだ。
見えない手で、根を確認、
30センチ以上、伸びているモノもあった。
地上10センチの苗木に、30センチの根・・・
素人である僕にも、
それが、不自然である事は、充分に理解出来た。
『将来、無事に育つのだろうか・・・?』
『早死にしないだろうか・・・?』
『台風に耐えられるだろうか・・・?』
得意気に、知ったかぶる事は出来る。
しかし、事実は知らないし、
その事に関して保障も出来ない。
ただ、知っている芝居をしているだけ・・・
それが、僕だった。
『どうすれば、役に立つ人間に成れる・・・』
僕のやっている事は、
「ごっこ遊び」である。
何の知識も無い者が、
世界に影響を与えるレベルで、
ガーデニングの真似事をしているのだ。




