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現在、我々山脈上空・・・
苗木の根を生長させている。
ところが、
それを邪魔するかの様に、
恐竜の赤ちゃんが鳴いている。
エサを求めているのだ。
しかし、エサは、1時間前に、
与えたばかりである。
では、野生の恐竜の赤ちゃんは、
どの程度、エサが食べる・・・?
現実的に考え、
親恐竜が1時間ごとに、
エサを捕って来る事は、
困難に思える。
『では、牛を狩って・・・』
『その肉を、どの程度、与える・・・?』
『何日間、与える事が出来る・・・?』
しかし、その場合、
『その肉を狙う動物は、どうする・・・?』
恐竜が生息する「牛の大地」には、
サーベルタイガーの様な肉食獣や、
ネズミや、タカの様な鳥もいる。
それらが、牛肉と、恐竜の赤ちゃんを狙う・・・
それが野生の世界である。
つまり、赤ちゃんを育てる場合、
その周囲に肉を置いておく事など、考えにくい。
その様な環境で、赤ちゃんは、
どの程度、食べる・・・?
牛の大地に行って、
実際に見るのも良い方法に思える。
しかし、それが、正解なのか・・・?
野生動物は、エサが捕れずに、
飢死にする事もある。
つまり、今、見に行っても、
それは、栄養不足で、
3日後に死ぬ個体かもしれない。
そんな光景を見ても、参考には成らない。
つまり、
恐竜の赤ちゃんに必要な食事量・・・
それを調べる為には、
数年間、数多くの恐竜を観察して、
その食事量を記録、
その中から、生存率の高い食事を選ぶ。
『そんな時間は無い・・・』
僕が、その様な事を考えている間にも、
2匹の赤ちゃんは、エサを求め、
リュックの中で暴れている。
母によると、大きな声で、
「ピーピー」と鳴いているらしい。
そこで考える。
野生の赤ちゃんが、
『そんなに、鳴くだろうか・・・?』
鳴けば、周囲に、その存在が知られる。
つまり、赤ちゃんは狙われる。
それを防ぐ為に、親恐竜は、1時間ごとに、
エサを与え、赤ちゃんを黙らせている・・・?
『しかし、エサは、どうする・・・?』
そして、気付く・・・
『母が居るから鳴くのでは・・・?』
僕の知る限り、スズメの雛は、
親がエサを運んで来たら鳴く。
しかし、
親がエサを捕りに行っている最中は、
外敵に気付かれない様に、
黙っている。
それを踏まえ、
現在、恐竜の赤ちゃんは、
僕の母を、実の母と思っている。
そんな母が、近くに居るのだ。
『だから、本能的にエサを求める・・・』
『兄弟に負けない様に、エサを求める・・・』
『その様な習性・・・』
『目が覚めて、親が居れば鳴く・・・』
『空腹では無いが・・・』
『習性で鳴いている・・・』
僕は、その様に判断した。
しかし、僕が納得しても、
赤ちゃんは、納得しない。
エサを求め、リュックに中で、暴れている。
赤ちゃんには、鋭い爪と、牙がある。
それが2匹で暴れているのだ。
『ケガをするのでは・・・?』
そこで、僕は、家に引き返した。
そして、地面に巣穴を作り、
その中へ、赤ちゃんを入れた。
『これで、大丈夫だろうか・・・?』
『次に、母が帰って来るまで・・・』
『静かにしているだろうか・・・?』
『暴れないだろうか・・・?』
などと、悩んでいると、
タロが、やって来た。
タロは、柵の中のメス牛を、見張る係なのだが、
そのメス牛は、現在、
タロをリーダーと認めている。
そして、この環境にも、なれて、
落ち着いている。
結果、タロの見張りは、必要では無かった。
そんな中、
タロは、我々の帰宅に気付き、
僕が、困っている状況を理解して、
見張りを、引き受けてくれたのだ。
2匹の赤ちゃんは、タロを見て、
鳴く事を止めた。
タロが、軽く威嚇しているのだ。
『恐い人が居るから、静かにする・・・』
恐竜にも、その様な感覚があるらしく、
自分の足で、巣穴に入って行った。
その後、タロは、巣穴から、5メートルの位置で、
監視の仕事を開始した。
僕は、タロにお礼を言うと、
再び、山脈に戻り、苗木の生長を行った。
残念ながら、苗木は、
目に見えるレベルで、生長する訳では無い。
しかし、魔法で包み込み、ズーム機能で見る事で、
その後、生命力が向上している事が、
回復魔法で確認出来た。
1本の苗に3秒・・・
魔法の効率が上がっている。
しかし・・・
現在、そんな事は、問題では無かった。
『赤ちゃんは、どの程度食べるのか・・・?』
その事が気に成って、仕方が無い。
『何時間ごとの、エサやりが良いのか・・・?』
もはや苗木の事など、考えず、
赤ちゃんの事だけ考えている。
『牛の大地に行って、恐竜を観察するか・・・?』
などと考えてしまう。
しかし、冷静に考えれば、
牛の大地で、恐竜を観察して、
『役に立つのか・・・?』
野生の赤ちゃんは、
親の狩りによって、
エサが与えられる。
つまり、その時の事情で、
エサの量が変わるのだ。
結果、野生を観察しても、
正しいエサやりの量や時間など、
解らないのだ。
だから、考える。
我々が育てている、赤ちゃん・・・
その赤ちゃんに必要な、食事のタイミング・・・
そして、気付く・・・
『便を待つ・・・』
『ウンコをしたら・・・』
『前回のエサが、消化した・・・』
『それが解る・・・』
『そのタイミングで、次のエサを与える・・・?』
と思ったが、
しかし、これを、人間に置き換えて、考える。
ウンコをするまで、
次の食事を与えられない・・・
僕は、生前、毎朝、トイレに行っていた。
しかし、給食前に、
ウンコをする事は無かった。
つまり、
ウンコをするまで、
次のエサを与えないのは可愛そう・・・
『では、オシッコ・・・』
などと考えていると、
『あっ!水だ・・・!』
僕は、恐竜の赤ちゃんに、
水を与えるのを忘れていた。
大慌てで、家に帰り、
木で器を作り、
そこに、粘土の成分を染み込ませ、
それを固め、
水飲み用の皿を作った。
ところが・・・
『あれ・・・?』
野生の恐竜は、赤ちゃんに、
どの様にして水を与える・・・?
赤ちゃんの時期は、水を与えないのでは・・・?
そんな不安が、僕を襲う・・・
結局、巣穴から、1メートルの位置に、
水飲み皿を置いて、水を入れた。
すると、赤ちゃんは、
母の帰宅に気付き・・・
タロの存在を忘れたかの様に、
巣穴を出て、母の元へとやって来た。




