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現在、牧草地近く・・・
通称、牛の拠点・・・
家族全員で、卵を見守っている。
もう、間もなく、産まれるのだ。
『純粋な恐竜が生まれるのか・・・?』
僕には、見えない手がある。
それを使えば、卵の中身を、
確認する事も可能であった。
しかし、僕は、それをしなかった。
魔法による影響を、恐れたのだ。
僕からは、無意識の魔法が放出されている。
それは、
成長魔法、回復魔法、強化魔法、バリアなど、
その時々で、様々な効果を発揮する。
そんな魔法が、卵に、
どの程度の影響を与えるのか・・・?
見えない手で、卵の中身を確認する事で、
僕は、その存在を、認識してしまう。
その時、僕の無意識魔法は、
『その影響を、強めるのでは・・・?』
その様な不安があった。
卵の中身が、恐竜だとして、
無意識魔法の影響を、受けた場合、
『どの様な変化が起きるのか・・・?』
『賢く成る・・・』
『これは、間違い無いと思う・・・』
実際、母に、卵を暖めてもらった理由は、
そこにある。
生まれて来た恐竜が、タロと同等に賢く成れば、
我々の害に成る事を、防ぐ事が出来る。
我々を家族と認識して、
我々を手伝う事で、生きて行ける。
その仕組みを理解してもらう。
その為には、僕の無意識魔法の影響で、
賢く成ってもらう必要があった。
これによって、無事に育てる事が出来るのだ。
僕は、この卵を、守り、育てる義務があった。
僕は、責任を感じていたのだ。
僕が、臨死体験をした時、
その夢は、あまりにもリアルだった。
その夢は、父も祖母も見ていた・・・
では、あの時、
『メス恐竜も、その夢を見たのでは・・・?』
子作り後、突然、瞬間移動で、
原始人の前に移動したのだ。
それは、夢であったが、
恐竜に、それが理解出来る訳が無い。
もし、恐竜が、その夢を見ていたなら・・・?
本来、安全な場所で、子作りを行い、
その後、身体を休める。
その時に、突然、瞬間移動を経験したのだ。
それが、夢である事など、
恐竜に、理解出来る訳が無い。
結果、パニックを起こし、
本能的に、その場から逃げ出した。
そして、何かに襲われた・・・
そして、死んだ・・・
そして、僕の魔法が発動して、
その恐竜と、それを襲った何かを、
エネルギーに変換した。
そして、本来、生まれるハズだった卵を、
2つ作り出した。
僕の魔法に、
それほどの能力があるのか・・・?
それは解らない。
しかし、状況から判断すると、
それが事実に思えた。
つまり、
『この卵は、魔法によって作られた卵・・・』
その可能性があった。
本来なら、恐竜の胎内で、
卵に成るハズの細胞・・・
それを、僕の魔法が、
卵にまで、急成長させた。
その為に、周囲の動物を分解して、
それをエネルギーとして利用した。
実際には、エネルギーなど不要なのに、
僕の、固定概念が、それを行った。
結果、草むらの周囲に、
動物や、恐竜の死体は無かった。
では、産まれて来るのは、
『恐竜なのか・・・?』
『純粋な恐竜なのか・・・?』
『恐竜人間が生まれるのでは・・・?』
僕は、その様な恐怖を感じながら、
ひび割れた卵から、
「何か」が誕生する瞬間を待った。
ひび割れた卵から、
爪が見えた。
僕は、その動きに合理性を感じた。
『偶然なのか・・・?』
爪を、ひび割れに差込、
卵を開こうとしている・・・
『これは、本能的な行動なのか・・・?』
『それとも、賢いのか・・・?』
現在、2つの卵の様子を、
父、母、胎児の僕、祖母、タロ、が見守っている。
そんな中、母の気持ちが、僕に伝わって来た。
「卵、開ける、爪で、開ける」
母は、心で、卵の中の何かに、
語りかけている・・・
そして、それに応える様に、
爪で、ひび割れを広げて行く・・・
僕は、音が聞こえない。
しかし、すでに鳴き声が聞こえているらしい。
父や祖母も、楽しそうに見守っている。
そして、1つ目の卵から、
それは、姿を現した。
『恐竜・・・?』
それは、小さなトカゲに見えた。
全長、尻尾を入れても12センチ、
目が、クリクリしている。
生前の僕は、トカゲを可愛いとは、思えなかった。
しかし、目の前で誕生して、
目がクリクリしているトカゲ・・・
それは、とても可愛く思えた。
家族も、同様である。
小声で大喜びしている。
僕は、トカゲの形状を観察した。
あの地域に、縦7センチの卵を産む様な、
トカゲは居ない・・・
つまり、このトカゲは、
我々が知っている、恐竜の赤ちゃんである。
しかし、我々は、
恐竜の赤ちゃんを見た事が無かった。
牛の大地で、恐竜の卵を見た事も無い。
『この子は、本当に、恐竜なのか・・・?』
などと思っていると、
2つ目の卵からも、赤ちゃんが誕生した。
すると、母が、僕に言った。
「赤ちゃん、肉、欲しい、食べる」
生まれた、赤ちゃんは、卵から出る前の段階から、
母を母と認識していた様で、
産まれた直後、立ち上がり、
2足歩行で、母に近付いて来た。
その光景を見て、僕は、ようやく納得した。
『これは、恐竜だ・・・』
その恐竜が、肉を求めている。
しかし、現在、牛の拠点には、
干し肉しか無い。
次の瞬間、僕の中で、
様々な可能性が考えられた。




