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僕は、大陸の東側の、全域の地面から、
塩分を取り除いた・・・
しかし、その時、
僕は、何を塩分と認識したのか・・・?
実の所、僕は、塩を取り除いた訳では無い。
津波で汚染された土、
母が、その土を味見をして、
苦痛を感じた時・・・
僕は、その苦痛の原因を、塩分と認識、
それを、地面から排除したのだ。
母は、土を味見する以前に、
塩を食べた事があった。
肉に岩塩の粉末を、かけて食べたのだ。
その時、岩塩の味見もしている。
つまり、母は、塩の味を知っているのだ。
だから、僕は、
母が、この土は、塩味がする・・・
その認識した感覚を、
正確なモノだと、思い込んでいた。
しかし、それは、僕の誤算だった・・・
例えば、
カレーライスを食べて、
その塩分だけを、感じ取る事など、
不可能である。
機械では無いのだ。
結果、母、海水を含んだ土を味見した時、
塩分だけを、味わう事など、出来なかった。
つまり、母が「塩辛い」と感じた時、
そこには「エグ味」「ニガ味」など、
様々な要素が混じり合っていた。
当然の事である。
しかし、僕は、母から伝わった感覚を元に、
地面に含まれる、それらの「成分」を、
塩分と考え、全て、排除した。
そして、おそらく、
その「成分」は、
虫の体内にもあった。
もちろん、虫の卵にも・・・
植物の種や、鳥や、ネズミにも・・・
その「成分」は重要だったのかも知れない・・・
『僕は、それを排除したんだ・・・』
『だから、虫が居ないんだ・・・』
『僕が滅ぼしたんだ・・・』
僕は、絶望を感じた。
『この地域にしか生息しない虫・・・』
『この地域にしか存在しない植物・・・』
『僕は、それを滅ぼした可能性がある・・・』
『2千年後、その虫や、植物から・・・』
『癌の特効薬が作れた可能性もある・・・』
しかし、それは、永遠に確認出来ない。
僕は、2千年後も、
この世界で生きている可能性がある・・・
その時、僕は、今よりは、
知識が増え、賢く成っている。
その時、僕は、この日の出来事を、
『どの様に思うだろうか・・・?』
過去の、軽率な行動を、
『どれ程、恥じるだろうか・・・?』
『その時、僕は、冷静で居られるだろうか・・・?』
『自分の、愚かさに絶望しないだろうか・・・?』
『その時、魔法は、暴走しないだろうか・・・?』
今現在の僕にでも、
山を消滅させる事が出来るのだ・・・
2千年後、僕が、自分に絶望した時、
成長した魔法が、暴走した時・・・
僕は、全宇宙を、
消滅させる危険性は無いのか・・・?
『全ての素粒子を消滅させて・・・』
『全てを無に、変えてしまうのでは・・・?』
それは、僕にとって、絶望的恐怖であった。
『何も無い世界・・・』
『僕の魂だけが存在する世界・・・』
『何も無いから、何も見えない・・・』
『何も聞こえない・・・』
『そんな状況でも・・・』
『魂は眠れない・・・』
『そんな僕が、永遠に、何も無い世界で・・・』
『何も出来ず・・・』
『眠る事も出来ず・・・』
『思考を止める事も出来ず・・・』
『永遠に存在する・・・』
『何かを生み出そうとしても・・・』
『素粒子が存在しない世界・・・』
『何も生み出せない・・・』
『永遠に続く、退屈地獄・・・』
僕の、未来には、それが待っているのだ。
このまま、思い付きで、軽率な行動を繰り返し、
後日、その失敗に気付いて、後悔する。
そんな毎日を、続けて行けば、
『将来、必ず、僕は、僕に絶望する・・・』
『自分を恥じる・・・』
その瞬間、僕の意思とは関係無く・・・
魔法が暴走する・・・
『そして、宇宙を消滅させてしまう・・・』
『それだけは、絶対に回避しなくては・・・』
『でも、どうやって・・・?』
『冷静に考え、納得して行動しても・・・』
『その2日後には、失敗に気付く・・・』
『それが僕だ・・・』
『そんな僕が、どうやって・・・?』
『失敗を防ぐ・・・?』




