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現在、僕は、第1山脈の上空から、
苗木の根を、伸ばす作業を行っている。
毎日の繰り返しなので、
考え事をする余裕があった。
だから、僕は、悩んでいた・・・
我々が、山中で、横穴生活をしていた時、
家族全員、
今後、蚊が異常発生する事を、予想していた。
その為、僕は、湿地帯の水を、川に引き込み、
その川に、小魚を放流した。
ボウフラを、食べてもらう事が目的だった。
しかし、現実問題、
その程度で、蚊が撲滅出来る訳が無い。
ところが、現在、
日本の感覚では、6月・・7月・・・
その様な時期であるが、
蚊が1匹も居ない・・・
ハエも居ない・・・
それ所か、虫が居ない・・・
結果、鳥も居ない・・・
そして、ネズミの森の、
ネズミも居なく成っていた。
『原因は何か・・・?』
冷静に考えてみる・・・
ボウフラが、蚊に成長する為には、
水が必要だ・・・
そして、その程度の水なら、
山中にもある・・・
つまり、川の小魚では、駆除出来ない・・・
『では、なぜ、蚊が発生しない・・・?』
『蚊は、血を吸う・・・』
『血を吸う相手が居ない・・・』
『だから、繁殖出来ない・・・』
それは、一応、納得出来る答えだった。
しかし、
『では、なぜ、ハエも居ない・・・?』
ハエは、土に卵を産んで繁殖する事が出来る。
それが、1匹も居ない、
『津波の影響・・・?』
しかし、
津波の後、僕は虫を見ている。
山中で生活していた時、家族が、
カブトムシの、幼虫の様なモノを、食べていた。
つまり、その時点では、蚊やハエの卵も、
無事であったと考えられる。
『ところが、現在、虫が、1匹も居ない・・・』
『だから、鳥やネズミは、死んでしまった・・・?』
それは、納得出来た。
エサが無いのだから、
鳥やネズミは、生きて行けない。
しかし、そのエサである虫が、
なぜ、居なく成ったのか・・・?
そして、気付く、
『アリも居ない・・・』
今まで考えもしなかったが・・・・
僕は、心でイメージを送り、
母に確認した。
すると、この世界にも、アリは存在した。
僕の知る限り、アリは、大雨や洪水の後でも、
生きている。
おそらく、津波の後も、
生きていた。
『見た様な・・・記憶がある・・・』
確認の為に、山菜森に行く。
謎池の近く、
この辺りに、原始人が居ない事は、
確認済みなので、森の中を探す。
すると、アリが居た。
蚊もハエも居た。
他の虫も居た。
ネズミの拠点と、謎池の気候は、
同じである。
つまり、本来なら、ネズミの森にも、
虫が繁殖している時期なのである。
僕は、再び、第1山脈の上空に戻り、
苗木の根出しを行いながら、
疑問に関して考えた。
『津波の後、虫の生き残りは居た・・・』
『それから、6ヶ月・・・』
『繁殖の季節なのに、1匹も居ない・・・』
つまり、津波の後、何かが起きたのだ。
『何が、起きた・・・?』
普通に考えた場合、
それは、僕が、起こした何かである・・・
そして、気付く、
『塩分除去・・・!』
『塩分除去が原因で、虫が絶滅した・・・?』
冷静に考える・・・
『虫の卵や、幼虫に、塩分が必要なのか・・・?』
残念ながら、その事実確認は出来ない。
しかし、知識はあった。
生前、スーパーで売られている「しじみ」を見て、
僕は、思った。
これを水槽で飼育すれば、
今後は、買わなくても済む・・・
その事を、祖父に話した所、
祖父が教えてくれた。
スーパーで売られている「しじみ」は、
川の水と、海の水が混ざり合った場所で、
繁殖するらしい。
『では、水槽に、少し、塩を入れたら・・・?』
と思ったが、
それで、どう成るのかは、祖父も解らなかった。
そして、その数日後、
僕の母から、その話を聞いた豆腐工場の息子が、
庭の池に「しじみ」を入れ、
繁殖にチャレンジしたが、
失敗している。
「しじみ」は、生きているが、
子孫を残さないのだ。
雨水だけでは、
何かが不足しているのだ。
それを踏まえ・・・
塩分除去が原因で、虫が絶滅した・・・?
この星の、虫は、
繁殖に塩分を必要とするのか・・・?
僕が、塩分を除去したから、
虫が絶滅した・・・?
おそらく、
これが、虫が1匹も居ない理由であった。
僕は、恐怖を感じた。
生前にテレビで見た記憶があった。
『ハチが居ないと、世界が滅ぶ・・・』
ミツバチが、居なく成ると、
自然界では、植物の受粉が行われず、
子孫を残せない。
結果、森が消滅して、
地球が温暖化して、
世界が滅ぶ・・・
その様な内容だった。
『実際、そこまで極端では無い・・・』
『ハズ・・では、あるが・・・』
『この世界で、ハチなど、見た事が無い・・・』
あわてて、母に確認。
母は、ハチの存在を知っていた。
その後、山菜森に移動して捜索・・・
『ハチを発見・・・!』
しかし、である・・・
『このハチを・・・』
『ネズミの森の持ち帰って・・・』
『大丈夫なのか・・・?』
僕は、無知である。
結果、地面の塩分を全て取り除き、
大陸の東側に生息する全ての虫を、
絶滅させたのだ。
そんな無知な僕が、安易にハチを連れて戻る・・・
『それで大丈夫なのか・・・?』
『このハチが生きて行く為には・・・』
『どの程度の塩分が必要だ・・・?』
『そもそも、本当に塩分が必要なのか・・・?』
『塩分だけが、必要なのか・・・?』
そして、疑問を感じる・・・
『僕は、地面から、塩分の除去を行った・・・』
『しかし、それは、本当に塩分だったのか・・・?』
冷静に考える。
『僕は、何を、塩分として認識した・・・?』
そして思い出す。
『母が、ドロを口に入れ・・・』
『苦痛を感じた・・・』
『その時、塩分も感じた・・・』
『僕は、それを塩と認識して・・・』
『地面から、それを取り除いた・・・』
『つまり、それは、純粋な塩では無い・・・』
『母の口の中に、苦痛を与えた成分・・・』
『僕は、それを塩分と認識して・・・』
『それを、取り除いた・・・』
つまり、
『僕が、除去したのは、塩分だけでは無い・・・』
『本来、土の中にあるベキ何か・・・』
『その何かも、取り除いてしまったのだ・・・』
痛恨のミスに気付いた時、
それは、手遅れであった。
『僕は、一体、何を取り除いたんだ・・・?』
全く解らなかった。




