028
元日から6日目、自宅・・・
これまで、僕は、魔法を、発動させようと、
必死だった。
ところが、今は、魔法を、発動させない方法を、
必死に考えている。
皮肉なモノである。
リビングには、
監視の鬼・姉!
没収の鬼・母!
この2人がいる。
僕は、この状況で、
『魔法を発動させない、練習方法・・・』
それを考え、実践する必要があった。
『出来るのか・・・?』
今、ラジコンを使うのは、危険であった。
『暴走したら大変だ・・・』
しかし、遊ばないのは、不自然である。
そこで、ラジコン遊びは、
「昼からの、お楽しみにする!」
僕は、母に、そう宣言すると、
絵本を読む芝居を、開始した。
先日、僕は、片仮名も、マスターしたので、
実際に、読む事が、可能に成っていた。
しかし、こんな幼稚なモノ、
読んでいる場合では無い。
僕は、読んでいる芝居を、しながら考えた。
『今後、何が、起こるのか・・・?』
あと数ヵ月で、僕は、小学生に成る。
そして、小学校では、
ドッチボールをする事に成る。
以前、姉の通う小学校で、見た事があった。
なぜ、あんなにも、危ない事をするのか・・・
『僕にボールが、飛んできたら・・・』
『一体、何が、起こる・・・?』
『ボールが、垂直落下する・・・?』
『いや、おそらく、ボールは、僕に当たる・・・』
現状、僕の魔法では、
勢いのあるボールを、垂直落下させる力は無い。
『でも6年生に成ったら・・・?』
『いずれ事件が、起こるだろう・・・』
それは、ドッチボールとは限らない。
僕が、驚き、条件反射を発する瞬間。
何かが不自然に、動く事に成る。
『鬼ゴッコで、誰かが、僕にタッチしたら・・・』
『その子は、どう成る・・・?』
『もし、喧嘩に成って・・・』
『誰かが、僕を殴って来たら・・・』
『その子は、どう成る・・・?』
『吹っ飛んだら・・・』
『地面に、頭を打ったら・・・』
『死んでしまう・・・』
僕は、魔法の練習を、止める事にした、
恐く成った。
しんどく成った。
しかし、それでも、
条件反射による、魔法の発動を、
阻止する練習は、必要である。
僕は、途方に暮れていた。
これが、僕の魔法を、強化する事に成るとは、
この時の僕は、まだ気付いていない・・・
人は、駄目と解ると、それを意識する。
意識しない様に、努力しても、
無意識に、意識をしてしまう。
『もう魔法は使わない!』
『絶対に使わない!』
つまり、この時の決意が、逆効果に成ったのだ。
ストレスが溜まる。
そして、爆発する。
それは、その日の内に起こった。
昼食の後、母が、ラジコンカーを出してくれた。
内心ドキドキではあるが、
これで、遊ばない訳には、行かない。
その結果、
『魔法は、一生使わない・・・』
そんな、僕の決意は、簡単に崩れた。
決意など、無意味であった。
魔法が勝手に、発動するのだ。
ラジコンカーの、前進ボタンを押す。
すると、直進する。
ボタンを離す。
しかし、直進する。
あせる。
このままでは、コタツから落ちる。
ところが、その直前、ラジコンカーが、
ギリギリでカーブをして、転落を回避する。
一瞬、何が起こったのか、解らなかった。
そこで確認の為、
ラジコンカーの、前進ボタンを押す。
すると、直進する。
ボタンを離す。
しかし、ラジコンカーは、止まらない。
あと数センチで、コタツから落ちる。
その瞬間、ラジコンカーは、
勝手にカーブをして、転落を回避した。
そして、ラジコンカーが、
コタツの端、ギリギリを、スイスイ走って回る。
『勝手に、走っている・・・』
僕には、魔法を使っている意識はない。
魔法が勝手に、発動しているのだ。
『あっ! しまった・・・!』
気付いた時には、母が見ていた。
母は、驚いていた。
最近のラジコンカーが、凄いのか?
それとも、僕の操縦技術が、凄いのか?
母は、少し、悩んでいた。
『良かった』
『魔法は、バレていない』
僕は、コントローラーを持っている。
その為、母は、僕が、操縦していると、
思っているのだ。
そして、好奇心に負けた母が、
ラジコンカーの操縦に挑戦した。
それに釣られ、姉も挑戦した。
もちろん、僕の様に、走らせる事など出来ない。
『バレたか・・・?』
背中に、冷や汗が流れる。
しかし、数分後、
僕は、ラジコンの天才という事に、成っていた。
僕が魔法で、行ったカーブは、
普通のカーブである。
このラジコンカーでも、可能な動作であった。
実際、母も姉も、普通にカーブは出来た。
しかし、それをコタツの端で、
正確に行う事は、困難である。
だから、母と姉には、出来なかった。
ところが、僕は、それを当然の様に、
繰り返したのだ。
もちろん、僕は、操縦していない。
僕が、コントローラーを持って、
操縦している芝居をした時だけ、
魔法が勝手に発動して、
ラジコンカーが、見事な走りを、見せたのだ。
天才と思われても、仕方が無い。
祖父母に、買ってもらった、ラジコンカー、
そして、僕は、操縦の天才。
本来なら、喜び、自慢する状況である。
しかし、実際には、僕の魔法が勝手に、
操縦しているのだ。
つまり、魔法が、暴走しているのだ。
『今すぐ、止めるベキだ・・・!』
『もう2度と・・・』
『ラジコンカーで、遊ぶベキでは無い・・・』
僕は、心底、その様に思った。
しかし、家が近所なので、見物に来る祖父母。
飽きたから、止めるなどと、言える訳が無い。
結果、翌日からも、遊ぶ事に成った。