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僕は、生前の出来事を思い出していた。
生前の母は、近所の豆腐工場で働いていた。
そして、その工場の社長には、
息子がいた。
僕よりも5歳年上だった。
その息子は、チャレンジャーであった。
学校に吹奏楽部が無いのに、
サックスを買って、河川敷で吹いて、
見物人が集まり、恥かしくなって挫折した。
そんな人物である。
しかし、彼は、チャレンジを止めなかった。
綱渡りの練習をしたり、
マウンテンバイクで階段を登ったり、
馬鹿にされる為に生きている。
その様に言われていた。
しかし、そんな彼にも、
唯一、自慢出来る事があった。
彼は、特許を持っていた。
それは、ダンボールに関する特許だった。
なぜ、それが特許なのか・・・?
我々には理解出来なかった。
ヘラで筋を入れる事で、
ダンボールを曲線に、折り曲げる事が出来る。
一体、何の役に立つのか・・・?
本当に、そんな事が必要なのか・・・?
それが必要なら、なぜ今まで無かった・・・?
彼に言うには、それが特許らしい。
アイデアがあれば100年前の人にも出来た。
しかし、誰も考えなかった。
それが、一般人が出願する特許の大半らしい。
そして、彼は、それを実現したのだ。
アイデアがあれば、
100年前の人にも出来た・・・
それを証明したのだ。
ところが僕は・・・
『考えれば2日前にも出来た・・・』
それが出来ない。
『なぜ、僕には、それが出来ないのか・・・?』
考えてみる・・・
失敗が恐いのなら、半分にすれば良い・・・
山脈の全てに苗木を植えずに、
半分だけ植えれば良い・・・
そして、2日後、
さらに良い方法が見付かれば・・・
『それを実行すれば良い・・・』
しかし、それは、不可能である。
僕は現実を知っている。
先日、台風の中、
染み込み方式で、山の斜面を補強した。
それを、半分だけ行い、
2日間、放置出来ただろうか・・・?
台風が直撃しているのだ。
『半分だけ、補強して・・・』
『それで様子を見る・・・』
現実に、そんな事が出来ただろうか・・・?
我々の山脈には、木々が無い、
僕の魔法によって、
津波に飲み込まれた。
結果、山脈は木々を失った。
山脈の全域で、木々が無くなったのだ。
そこに台風がやって来た。
そのままでは、山が崩れる。
そして、崩れた山は、
僕には再現出来ない・・・
本来の、山崩れなら、
それは、自然の現象である。
放置しても問題無い・・・
しかし、我々の山脈は、
魔法による被害地域である。
つまり、この山脈が、
台風によって、崩壊するのは、
『自然ではない・・・』
現実では、起こる訳の無い状況である。
だから、山脈を守る必要がある。
自然を再生させる為には、
山崩れを阻止する必要があった。
僕は、遊んでいる訳ではない・・・
『半分だけ補強する・・・』
『そして、様子を見る・・・』
そんな事をして待っているのは、
山脈の崩壊である。
だから、僕は、山脈全てを補強した。
しかし、その後、僕は失敗に気付いた。
山脈の表面を補強した事で、
山の斜面は、コンクリートの様に固く成った。
数日後、乾燥によって、
その斜面はバキバキに割れる。
『では、どうするか・・・?』
『山の斜面に水をやる・・・』
『適度の水分を与えて、割れを防ぐ・・・』
『しかし、それが一体、何に成る・・・?』
『それを何日間続ける・・・?』
『その先に何がある・・・?』
『解らない・・・』
だから、僕は、水やり以外の方法を考えた。
材木置き場の木を粉砕して、粉末にして、
それを、山の斜面に染み込ませた。
結果、山の斜面の保水力が向上して、
割れるまでの日数を、稼ぐ事が出来た。
『しかし、それで何に成る・・・?』
『木の粉末は腐る・・・』
『バクテリアが分解を始める・・・』
山脈全域で、バクテリアが異常繁殖して、
そして増え過ぎた事で、腐る。
つまり、山の斜面が腐るのだ。
将来的には、それは、土の養分に成る。
しかし、今日、それが役に立つ訳では無い・・・
そして、気付く・・・
山の斜面を下った水・・・
それは、家族の飲み水に成るのだ。




