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ネズミの森の最北端・・・
強風の影響で、多くの苗木が、
地面から抜け、湿地の水と供に、
川の方に流されていた。
そして、それを見て、
僕は、安心していた。
つまり、
僕の無意識魔法は、
数百キロ離れた場所に、影響を与えない。
その事が、証明されたのだ。
僕は、流された苗木を回収して、
それを観察する。
この苗木は、雪国の木々から作ったモノである。
つまり、雪が積もっても、折れにくい枝である。
その為、苗木は折れていない。
そこで、それらを再び、植える事にした。
では、次である。
最北端、山脈上空・・・
山の斜面を確認するが、
崩れている様子は無い。
しかし、風が吹き込む谷間の苗木は、
その半数が、遠くに飛ばされていた。
『これは、どうする・・・?』
僕は、考えた。
ネズミの森の苗木は、
湿地化が、おさまった事で、
今後は、抜ける可能性は低い。
しかし、山脈の斜面・・・
谷の構造上、強風が吹き込むポイント、
その部分に、苗木を植えても、
それは、再び強風で飛ばされる。
『では、どうするか・・・?』
『この部分の苗木は、あきらめるか・・・?』
と考え、
僕は、生前の世界を思い出す。
『谷川の近くにも木々は生えていた・・・』
『つまり、周囲の木々が育てば・・・』
『それが防風林として機能する・・・』
『つまり・・・』
『谷に木々がある事は、自然なのだ・・・』
『では、苗木をどうする・・・?』
このまま植え直しても、再び飛ばされる。
そして気付く、
正式な苗木を、植える必要があるのか・・・?
ちなみに、僕の言う正式な苗木とは、
枝先10センチを切り取り、
その先端の葉を3枚ほど残し、
それを水栽培して、根を出し。
それを苗木として、植える方法である。
通常、この方法で行わないと、
根が出ない。
一般的な木の場合、
枝先30センチに、
葉っぱが10枚、
この状態で水栽培をしても、
根が出ないのだ。
しかし、
『成長魔法を使えば・・・?』
枝先30センチに、
葉っぱが10枚でも・・・
『可能なのでは・・・?』
『よし・・・!』
僕は、岩塩の大地の向こう側・・・
牛の大地の、最北端へと向かった。
そこから、遠くの山菜森を見て、
ズーム機能で、枝先を見る。
そして、その枝を回収。
長さ20センチ、葉っぱ5枚、
長さ30センチ、葉っぱ10枚、
長さ40センチ、葉っぱ10枚、
それらを、10本ずつ集めて、
謎池へと送った。
長さ30センチと、40センチに関しては、
新芽の範囲では無く、
木から伸びて1年以上の枝であった。
その為、その枝から、さらに枝が分かれている。
『本当に大丈夫か・・・?』
『根は出るのか・・・?』
その様な不安があるが、
僕に出来る事は、
謎池に入れた枝を、見ているだけだった。
僕には、成長魔法を出している自覚が無い、
その為、1分間の待ち時間が異常に長く感じる。
『根が出ない・・・』
『3分くらい経った・・・?』
『元々は、3時間かかったのだ・・・』
『様子を見よう・・・』
などと、考えながら、
ズーム機能で、水中の枝を観察・・・
すると、枝の切り目の周囲に、白い斑点が現れた。
そして、根が伸び始める。
『もしかすると、ズーム機能の影響なのか・・・?』
『ズーム機能で見ると、効果が増す・・・?』
『魔法が進歩した・・・?』
その様な事を考えながら、
他の枝も見る。
すると、見たと同時に、白い点が現れ、
その数が増えて行き・・・
そして、根が出て来た。
あわてて、他の枝を見る。
『間違いない・・・』
『ズーム機能で、効果が増す・・・』
これまで、ズーム機能を使わなくても、
根は出ていた。
最短1分で、
枝を苗木に成長させる事が出来ていた。
しかし、今回の枝は、
誕生から1年以上が経過していて、
本来、苗木に成長させる事が、困難な部類である。
そこから、根が出たのだ。
ズーム機能で注目する事で、
成長魔法が効率良く、送り込まれたと考えられる。
つまり・・・?
『ケガの治療も、ズーム機能を使えば・・・』
『その効果が増すのだろうか・・・?』
そして、気付く・・・
『ズーム機能で、卵を見れば・・・』
『成長魔法が強化され・・・』
と考えたが、
それは、何か許されない行為に思えた。
などと考えていると、
謎池の中で、立派な苗木が完成していた。




