027
元日から5日目・・・
その日、僕は、祖父母に連れられ、
ショッピングモールに行った。
お年玉として、玩具を、買ってもらえる日である。
僕は理解していた。
『変身ベルトは、絶対に駄目だ!』
『あんなモノ、何の役にも立たない!』
『あんなモノ、時間の無駄!!!』
『あんなモノ、直ぐに飽きる!!!!』
その数分後、変身ベルトを持って、
レジに向かう僕・・・
ところがである。
祖父が、変な事を言った。
その瞬間、祖母は優しく、
僕からベルトを、取り上げた。
そして、僕をつれて、ラジコン売り場へと向かう。
2台買ってくれるらしい・・・
なぜなら、
僕は、魔法の練習を、誤魔化す為に、
毎回、玩具を取って来るといって、
子供部屋に行く。
そして、その帰りに、
1番無難な、ミニカーを選ぶ。
ミニカーが、好きな訳では無い。
リビングの、テーブルの上で、遊べる玩具。
正確には、遊んでいる芝居が、出来る玩具。
遊んでいる芝居をしながら、
魔法について、考え事が、出来る玩具。
その様な理由で、毎回、ミニカーを選んでいた。
ところが、その結果、
祖父母も、僕が、ミニカー好きだと、
勘違いしていたのだ。
その為、祖父母は、僕の事を思って、
変身ベルトを取り上げ、
ラジコン売り場へと、つれて来たのだ。
祖父が、誇らしげに、指差した。
すると、そこには、
手の平サイズの、ラジコンカーがあった。
『CMで見た事がある・・・』
それは、コントローラーで充電すると、
2分ほど走る商品だった。
新しいバージョンが出る為、
旧バージョンが、ワゴンセールで、
投売り状態だったのだ。
もちろん、当時の僕に、その様な事は解らないが、
祖父母に、3台買ってもらえた。
この時、僕はワクワクしていた。
『魔法の練習に、使える・・・』
『魔法で、ラジコンカーを・・・』
『自由自在に、操作出来る・・・』
僕は、そんな自分を、思い浮かべると、
変身ベルトの事など、
すっかり忘れて、興奮していた。
その後、洋服選びで、興奮している姉と、
それに着いて行った、両親と合流・・・
飲食店は、全てが満席なので、
何も食べずに、帰宅した。
正直な所、食事など、どうでも良かった。
それは、姉も、同感の様である。
帰宅した僕は、ラジコンカーを1台取り出し、
早速、走らせてみた。
今日は、祖父母が来ているので、
台所の、テーブルの上で遊んだ。
魔法がバレると困るので、
魔法は使わずに、純粋に楽しんだ。
僕は、ミニカーが、好きな訳では無い。
しかし、それでも、テーブルの上で、
ラジコンカーを、走らせて、遊べる事は、
とても楽しかった。
それを見て、満足する祖父母・・・
すると、姉の着替えが終わり、
通称、姉のファッションショーが始まる。
その為、祖父母も、リビングへと向かう。
姉が、モデル気取りで、
ウォーキングを、している様である。
家族の、大袈裟な歓声が聞こえる。
それに釣られ、
僕は台所から、リビングをのぞき込んだ。
そして、その瞬間事件が起きた。
テーブルの上の、ラジコンカーが、
直進したのだ。
僕が、無意識に、コントローラーの、
前進ボタンを、押した事が、原因である。
このままでは、ラジコンカーが、
テーブルの向こう側に、落ちてしまう。
冷静に考えれば、
コントローラーの、前進ボタンから、
指を離せば良いのだ。
しかし、突然の出来事で、
その事に気付かない僕・・・
結果、直進を続けるラジコンカー
ところが、あと数センチで落下・・・
という所で、ラジコンカーが、
勝手にカーブをした。
左に曲がったのだ。
その段階で、僕は、ようやく、
コントローラーから指を離した。
ところが、ラジコンカーは止まらない。
さらに、もう1度、左にカーブをすると、
僕のいる方に、走って戻って来たのだ。
僕は、条件反射で、ラジコンカーをつかむと、
家族の方を見た。
『助かった・・・・』
全員、姉を見ていて、
今の出来事には、誰も気付いていない。
しかし、僕の背中に、冷や汗が流れた。
『大変な事に、成ってしまった・・・』
ラジコンカーが落ちる瞬間、
間に合わなくても、届かなくても、
手が勝手に動く・・・
それが、本来の、条件反射である。
しかし、魔法が使える僕の場合・・・
条件反射で、魔法が勝手に、
発動してしまったのだ。
僕は、その事を理解して、恐怖した。
今まで、僕は、魔法の事を、
誰にも教えていない。
自慢はしたいが、ワザとバレる様な、
幼稚な行為は、やっていない。
ところが、今、魔法が勝手に、発動した事で、
状況が急変した事を、理解した。
これまで僕は、魔法を発動させようと、
必死だった。
しかし、これからは、
条件反射で、魔法が発動しない様に、
練習する必要があるのだ。
『そんな事が、出来るのか・・・?』
『一体、どうやって・・・・』
祖父が台所へ戻って来て、
「残りのラジコンカーは、出さないのか?」
と聞いてきた。
本来なら、今すぐ、残りの2台も出して、
遊びたかった・・・
しかし、僕の不安が、それを止めた。
その為、残りの2台は、
箱のまま飾って置く事を、アピールした。
「カッコイイから、飾って置きたい・・・!」
それを強調した。
しかし、本当は、
『もし、何かの条件反射で・・・』
『3台が、同時に走ったら・・・』
そう考えると恐くて、出せなかったのだ。
翌日・・・
正月連休が終わり、仕事に行く父を見送り。
僕は、リビングに戻る。
ラジコンカーは、1日30分、
母に、出してもらって、遊ぶ事に成っていた。
つまり、僕がラジコンカーを使う時、
それは、母がいる時である。
もちろん、姉もいる。
姉は、スパイを気取って、時々見ているが、
僕のラジコンカーを取り上げる様な、
陰湿な事はしない。
後で解った事だが、
姉は、姉なりに、僕を心配していたのだ。
僕は、3歳の時、ゴルフ遊びで、
手が血まみれに、成った事があった。
その第一発見者が、姉だったのだ。
手から血を流し、鬼の形相で、
玩具のアイアンを振る弟、
それが、目の前で倒れたのだ。
その日の出来事が、姉のトラウマに成っており、
僕が、無茶をする事に、
恐怖を感じる様に、成ったのだ。
結果、姉は、
僕を馬鹿にする方法を、考えた。
僕を馬鹿にする事で、練習を止めさせようと、
必死だったのだ。
しかし、当時の僕に、
そんな事は、理解出来ない。
僕は、姉が嫌いだった。