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台風が過ぎ去り・・・
翌朝、僕は、枯れた大地の、
川の確認に向かった。
台風直後に、
川のドロを、取り除こうと考えたが、
『1日で、どの程度回復するのか・・・?』
それを確認する為に、放置したのだ。
『水位は下がっていない・・・』
『ドロは変化無し・・・』
1番川は、全長20キロあるが、
それが、あふれそうな状態である。
ちなみに、この全長20キロというのは、
枯れた大地の部分である。
元々1番川は、3人山脈から続く川が、
ネズミの森を通り抜け、
枯れた大地を20キロ進み、
その先の、池に流れ込む。
それが自然の姿だったのだ。
しかし、津波の影響で、
森の中の1番川は、埋まってしまい。
その水源も崩壊していた。
ところが、先日、山脈の倒木を、
全て取り払った事で、
3人山脈の谷が掘り出された。
つまり、
山脈の谷間が、川として機能した事で、
水源が復活したのだ。
で・・・
どう成ったか・・・?
正直、大変な事に成っていた。
山から流れ出した水によって、
ネズミの森が、湿地帯に成っていた。
森の中の1番川は、まだ、埋まっているので、
当然の結果であった。
僕は、こう成る事に気付かずに、
山脈の倒木を除去したのだ。
冷静に考えれば、
この様な状態に成る事は、
簡単に気付けるのだ。
しかし、非常事態には、
まるで、決断を下すヒーロー気取りで、
無責任な行動を、実行する・・・
それが僕なのだ・・・
僕は、ネズミの拠点上空から、
ネズミの森を見る。
現在、木々は全て枯れている。
その為、葉っぱが1枚も無く、
上空から見る事で、
元々、川のあった場所が、簡単に見付かった。
その部分だけ、木が生えていないのだ。
そこで、瞬間移動を使い、
川を埋めている土砂や、倒木を取り除く。
これにより、森の中の、1番川も復活である。
結果、湿地帯化していた周囲の水も、
川に流れ始め・・・
その後、2番川も、
本来の姿を取り戻した。
『魚は・・・どうなった・・・?』
僕は、1番池の魚を探しに向かった。
1番池の水は、あふれ、
その水は、浅い水路を通って、
人工池に流れ込んでいた。
通称・メダカが、そこにいた。
『どうしよう・・・』
この魚は、メダカと同類の様で、
水面近くを泳ぐ習性がある。
結果、その多くが、水流の影響で、
人工池に流れ込んでいたのだ。
しかし、この人工池は、
数日後には、枯れてしまう。
今は、台風直後なので、
深さ20センチの、
浅い水路は機能しているが、
明日には、水量が減る。
結果、人工池と、1番池は、
分離してしまうのだ。
つまり、人工池の魚は、
自力では、1番池に戻れなく成る。
そして、水の供給が断たれた人工池は、
数日後、枯れる・・・
もちろん、そう成る前に、
魔法を使い、魚を1番池に戻せば、
無事解決する話である。
しかし、
魔法を使わないと、維持できない環境など、
自然とは呼べない。
魔法を必要としない世界を作る事、
それが、僕の目標なのだ。
では、人工池と、
1番池をつなぐ水路を深くして、
『1つの池にしたら・・・?』
と考えるが、
普段、水位が20センチしかない池、
それを広げた場合、
その水位は、更に低く成り、
池としての機能を失う。
結局、この問題は、保留と成った。
『では、本川は・・・?』
3番目の川、通称「本川」は、
津波の時に埋まらなかった為、
本来の川が、そのまま機能している。
もちろん、森の中の川も、
本来の機能を果たしている。
『では、本川の先の池は・・・?』
やはり、多くの魚が、
人工池に流れ込んでいた。
そして、気付いた。
『人工池など、作る必要は無かったんだ・・・』
水路や、人工池が無かった場合、
本池から、あふれた水は、周囲を湿地帯に変える。
そして、魚は、池と湿地帯を、
自由に移動出来る。
そして、水量が減れば、
自力で池に戻り、
今まで通り、池で生活出来るのだ。
ところが、僕が、人工池を作った事で、
その自然な機能が失われ、
僕の魔法が必要な環境に、成ってしまったのだ。
『水を引いたら、水路と人工池は埋めよう・・・』
4番目の4番川も、同様であった。
そして、5番目の川、通称「湿地川」は、
森の中に、元々の川など存在しない。
この川は、全て、僕が作ったモノなのだ。
その為、他の川が、
全長20キロに対して、
この湿地川は、全長30キロあった。
その代わりに、人工池に該当する池を、
省略したのだ。
その為、皮肉な事に、
湿地川だけが、
理想的な湿地帯を作り出し、
魚が、自由に泳ぎ回っていた。
では、次である。
ネズミの拠点から、
北に200キロ進むと、
土砂の壁がある。
その土砂の壁は、
南北に数キロ、
岩塩の大地のある西側に50キロ程続いている。
『これだけの土砂が、どこから来たのか・・・?』
『この土砂を、どこの戻すのが正解なのか・・・?』
なぜ、この場所だけ、
極端に土砂が流れ出したのか・・・?
何も、解らない。
考えても仕方無いので、
僕は、ネズミの森の最北端へと向かった。
空中から、空中への、瞬間移動である。
しかし、一瞬で行くのでは無く、
時々停止して、状況を観察する。
『あ・・・この辺りだ・・・』
以前は、雪が積もり、
寒くて進めなかった場所である。
現在は、台風も無効化出来るバリアによって、
母が、寒さを感じる事はない。
とはいえ、季節が夏に向かっている事で、
雪は消えていた。
上空から見渡しながら、50キロ刻みで、
進んで行く。
『川だ・・・』
森部分も埋まる事なく、
川として機能していた。
見えない手で、様子を探るが、
生き物は居ない・・・
その後も、川を3本見つけたが、
生き物は居なかった。
最北端に到着・・・
さすがに、まだ、雪が残っている。
周囲を観察するが、
『マンモスは居ない・・・』
少し、残念な気持ちに成ったが、
原始人を見かけずに済んだ事に、
心の中では、安心していた。
我々には、バリアがあるので、
向こうからは、見えないだろうが、
僕からは、見えてしまう・・・
そして、もし、マンモスに、
踏み殺される原始人を見ても、
無視出来るのか・・・?
というと、それは困難である。
僕が、無視すると決めていても、
僕の無意識が、それを守る保障が無いのだ。
『絶対に、怒らない・・・』
その様に決めても、
実際には、怒るのと同じで、
万が一の場合には、
僕の意思とは関係無く、
魔法が発動するのだ。
だから、僕は、原始人などの知的生命体とは、
遭遇したく無かった。
誰かを助けて、神と勘違いされ、崇拝が始まり、
人々が、現実的な努力を止めてしまう。
薬草を研究する偉人が、馬鹿にされ、
祈る凡人が、ほめられる。
そんな間違った世界を作っては、いけないのだ。
僕は、上空から、ネズミの森の最北端を見渡した。
全ての木々が枯れている。
立ち枯れ状態である。
本来なら、若葉を出す時期に、
全てが茶色であった。
見えない手と、回復魔法で、
木々の様子を調べる。
『再生は、不可能だ・・・』
『本当に枯れている・・・』
正直な所、少し不思議に思った。
海水の影響で、
本当に全て枯れるのだろうか・・・?
奇跡的に生き延びたり・・・
津波の後、塩分汚染されていても、
草が生えたり・・・
『その様な事は、無いのか・・・?』
念の為に調べるが、
全てが死んでいる。
何か納得行かない・・・
しかし、文句を言っても仕方がない。
これが事実なのだ。
『では、どうする・・・?』
ここからが、問題である。




