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翌日、台風が通過した山脈の、確認を行った。
やはり、所々、崩れている。
コンクリートの様に固めても、
それは土である。
激流の直撃を受ける場所は、
その強度を保てなかったのだ。
そこを、補修して、
南から北へと向かって行く・・・
昨日から、僕の不安は、消えなかった。
『一兆年後も、僕は生きている・・・』
リアルに考える事など、出来ないが、
何か対策を、考える必要があった。
精神が持つ訳がない。
正常でいられる訳がない。
『退屈・・・』
将来、僕が、そう考えた瞬間に、
世界を・・・
宇宙を・・・
崩壊させるかも知れない。
その可能性は、充分にあった。
この世界に着て、まだ6ヶ月・・・
しかし、僕の魔法は、急激に進歩している。
南北千キロ以上、東西数百キロ、
その山脈の確認と補修を、
4時間で終わらせたのだ。
このペースで、僕の魔法が進歩したら・・・
数年後には、
この星を破壊する事も、
簡単に、出来るかも知れない・・・
魔法使いを辞める事は、
出来ないのか・・・?
使うのを、止めるのでは無く、
魔法が使えない様に成る・・・
その必要があった。
『使えるモノは、使ってしまう・・・』
このままでは、この星を破壊出来る様に成る。
そして、それを使う日がやって来る。
もちろん、今日現在の僕に、
その様な意志は無い。
しかし、
10年後の僕は・・・
100年後の僕は・・・
自分を、コントロール出来るだろうか・・・?
自信が無い。
つまり、今、魔法を封じる方法を考え、
それを修得する必要があるのだ。
その結果、魔法を失い、家族を守れなくても・・・
『全宇宙の崩壊を防ぐ必要がある・・・』
僕は、その様に思った。
しかし、では、どうすれば良い・・・?
何をすれば、魔法を封じる事が出来る・・・?
方法が解らない・・・
そして、現在、僕には、
他にも、考える事があった。
今後、雨が降らなかった場合・・・
この山脈をどうするか・・・?
この地域の土は、
粘土の成分を含んでいる。
昨日は、魔法の力で、水分を除去しながら、
補強を行った。
ガチガチに固めた。
つまり、粘土細工である。
しかし、それは、本物の粘土では無い・・・
あくまでも、粘土質の土なのだ。
結果、今後、乾燥すると、
水の枯れた、田んぼの様に、
バキバキに割れる。
結果、毎日の「水やり」が必要に成る。
そして、苗木を育て、
地面の保水力を、回復させる必要がある。
これによって、
バキバキを止める必要がある。
しかし、
『1週間後、再び台風が来たら・・・?』
『その時、苗木は、どう成る・・・?』
我々が、1ヶ月かけて植えた苗木は、
昨日の、補強によって、
全てが、押し潰されていた。
つまり、今、苗木を植えても、
台風が来たら、同じ事の繰り返しに成るのだ。
『では、どうする・・・?』
『どの様にして、山脈を再生する・・・?』
考える事は、沢山あるが、
答えが出るモノは、1つも無かった。
そこで、僕は、妥協案を考える事にした。
数分後・・・
一応考えは、まとまった。
『本当に大丈夫だろうか・・・?』
僕は、材木置き場へと向かった。
一瞬で到着・・・
木材置き場の上空から、
それを見た・・・
『これは、一体何なのか・・・?』
もちろん、材木ではあるのだが、
葉を失った、木々・・・
根と枝がある状態の木々・・・
枝が折れ・・・
幹も折れ・・・
それらが山積み状態で、
『大都市1つ分・・・?』
それ程の面積に、広がっていた。
これらの木々は、全て、
山脈の谷間で、
土砂に埋もれていたモノである。
しかし、ドロは少しも付着していない。
僕が、選んだのは、倒木・・・
それを瞬間移動させたのだ。
結果、倒木以外のモノ・・・
土や、葉は、
この場所には、移動していなかった。
土の中で、6ヶ月放置されていたので、
弱い木の皮は、無くなっていた。
その為、
倒木の芸術・・・
超巨大な流木アートの様に見えた。
しかし、僕は、芸術には、何の興味も無い。
僕の理屈では、
世界最高の芸術家よりも、
世界一の野球選手よりも、
ゴミを回収してくれる人の方が、偉いのだ。
その様な訳で、
僕には、迷いは無かった。
『空気を包み込み、圧縮・・・』
『それを、木々の内部に、瞬間移動・・・』
結果、一部の木々が、粉々に飛び散った。
『おかくず・・・』
ノコギリで切った後の、カス・・・
その様な粉末が、周囲に散乱して、
空中にも舞っている。
僕は、上空から、それを包み込み、
山脈へと引き返した。
山脈上空に、
「おがくず」が雲の様に浮かんでいる。
そして、それを、
山脈の表面に、染み込ませて行く。
「おがくず」が無く成ると、
再び材木置き場で調達、
それを繰り返す。
『地質改造・・・』
バキバキに割れる地面に、
「おがくず」を混ぜる事で、
保水力を向上させて、
割れない地面を作る。
それが今回の目的である。
2千年後の地質学者は、どうするんだ・・・?
そんな事を考えながらも、
僕の魔法は発動する。
つまり、僕は、
将来を無視して、今現在を優先しているのだ。
それが、僕の本性である。
そんな僕の魔法が、進歩を続けたら・・・
将来の僕が、何をするのか・・・?
『こんな世界は、もう嫌だ・・・』
そう思った瞬間・・・
『僕は、魔法で・・・何をする・・・?』
想像も出来なかった。
そんな僕が、魔法を使い、地質を改造して行く。
『それが正しいのか・・・?』
『何か問題が発生しないのか・・・?』
そんな事も解らない僕が、
次の台風に恐れ・・・
雨が降らない可能性にも恐れ・・・
『何かしないと・・・』
そんな、あせりから、
魔法を発動させ、
目先の安心を得ようとする。
その結果、進歩して行く魔法・・・
変化して行く、山脈の土・・・
『これが正しい訳が無い・・・』
しかし、これ以外に、方法が解らない・・・
『正解を知りたい・・・』
『どうすれば良いのか・・・』
『知りたい・・・』
魔法で補強した山脈の「表面」に、
「おがくず」を染み込ませる。
その下の土は、
元々の山なので、
絶対に手を加えない。
地層が変化して、水が湧かなく成ると、
自然の回復が、不可能に成ってしまうからだ。
では、その表面を、
土で補強しても大丈夫なのか・・・?
それでも、水は湧くのか・・・?
正直、不安である。
僕は無知なのだ、
何も知らない僕が、
無責任に、行動しているのだ。
『大丈夫だろうか・・・?』
そんな不安があっても、
魔法は発動を続け、
昼前には、「おかくず」の染み込ませが完了した。




