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現在、山脈は、台風の直撃を受けており、
その結果、枯れた大地の川を、
増水させていた・・・
僕が、素人考えで作ったネズミ水路・・・
その水路を通り、森を抜けた激流は、
僕が作った分岐のミゾを、
直撃していた・・・
結果、以前、湿地帯だった場所が、
再び、湿地帯に戻る様にも見えた。
しかし・・・
この湿地帯は、
1番川と、2番川の、中央・・・
川の間にあるのだ。
その為、水路を抜け、ミゾに激突した水は、
あふれた後に、再びミゾの流れに引き込まれ、
それぞれの川に流れて行く。
次に、僕は、1番川を確認した。
いつもは、水位10センチの川が、
現在は、水位80センチ・・・
もう少しで、あふれる。
そう成れば、芋畑とドングリの木が、
壊滅する・・・
その様な雰囲気である。
しかし、僕は、冷静だった。
『大丈夫だ・・・』
1番川、2番川、
それぞれの先には、
自然に出来た池がある。
その池の水位が上がり、
後20センチであふれる・・・
という状況に成れば、
その先に作られた水路に、水が流れ込み、
その先に作った人工池に、水が流れ込む。
その池の全長は1キロ、
もし、それが、あふれても、
その先には、
枯れた大地が180キロほど続いている。
その為、芋畑は守れるのだ。
数ヶ月前の自分に、感謝である。
次に、僕は、
ネズミの拠点から、
南へ200キロの位置・・・
牧草地の近く・・・
新しい生活拠点へと、移動した。
現在、父と祖母が、
そこで乾燥肉の製造と、
牛の飼育を始めているので、
そちらで、生活しているのだ。
その近くには、通称・湿地川があるが、
それも、無事であった。
森に直線道を作り、
その中央に水路を作り、
その水路が、そのまま、一直線で、
枯れた大地に流れ出している。
これが湿地川である。
結果、分岐が無い為、
水が激突する部分が無い、
ちなみに、湿地川は、
枯れた大地部分だけでも、
全長が30キロもある。
その為、もし、30キロ先であふれても、
それが、我々に被害を与える事は無い。
その様に作ったのだ。
僕は、妙な余裕を感じていた・・・
『大丈夫だろうか・・・?』
『調子に乗るのは危険だ・・・』
僕は、自分に警告するが、
心には、不思議と余裕があった。
その後、山脈に戻った僕は、
全ての補強を終え、
父や祖母の元へと帰った。
タロが、柵の中の牛を見張っている。
父の話によると、
タロが見張る事で、
牛は暴れない様である。
おそらく、動物の本能で、
牛は、動けなく成るのだ。
その為、柵の内部に設置した枝は、
撤去されていた。
この枝は、太さが2センチ以上あり、
突進すれば刺さる。
それを、恐れ、牛が暴れない・・・
その為の、工夫だった。
しかし、
牛は暴れる時には、枝など関係なく暴れる。
枝が刺さっても、暴れる。
つまり、牛の突進を防ぐ為の枝は、
役に立たないのだ。
僕は、10メートル以上離れた場所から、
柵の中の牛を観察していた。
あまり近付くと、僕の回復魔法の影響で、
牛が賢く成る危険性あるのだ。
『賢い牛は、殺せない・・・』
『祖母の健康を、気づかう牛・・・』
もし、その様な成ったら、
その牛を、殺して食べる事など、
不可能なのだ。
それが、不安なので、
僕は、さらに10メートル離れた。
現在、3メートル四方の柵の中に、
メス牛が1頭いて、
水飲みオケと、牧草が置かれている。
『水飲みオケは、大丈夫そうだ・・・』
これは、昨日、僕が作ったモノである。
父の技術でも作れるモノを、
僕が、手本として作ったのだ。
その為、魔法による補強は無い。
そして、牛の周囲には、牧草が置いてある。
蹴り飛ばされ、周囲に散乱しているが、
充分な量がある。
しかし、牛は、水も草も口にはしない。
狼に、見張られているので、
当然といえば当然である。
『明日には、食べるだろうか・・・?』
『飲まず喰わずで、何日もつ・・・?』
こんな時、魔法を使えば、
簡単に解決出来る。
草を粉砕して、胃の中に送り込めば良いのだ。
しかし、ここは我慢である。
そんな方法で、育てても、
それは、本当の飼育では無い。
父や祖母は、魔法が使えないのだ。
魔法を使わずに育てる事、
それが、2人の誇りなのだ。
だから、僕は、何も手伝わない。
しかし・・・
『2千年後の地質学者に対しても・・・』
『何も手伝わない・・・』
『それが守れるだろうか・・・?』
『2千年後・・・』
『僕の退屈がピークに達した時・・・』
『僕が行った、山の補修が原因で・・・』
『世界から馬鹿にされる、教授・・・』
その教授を、僕は、無視出来るだろうか・・・?
僕は、不安だった。
未来の僕が、
『何をするのか・・・?』
『何をしてしまうのか・・・?』
全く解らないが、
『何もしない・・・』
それを守る自信が、僕には、無かった。




