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現在、台風が、山脈上空を、
北へと進行していてる・・・
僕は、千里眼によって、
多くを知る事が出来る。
しかし、それを生かす知力が無い。
では、どうするか・・・?
『山の補強を続けて大丈夫なのか・・・?』
現在の方法で、山脈の表面を、過剰に固めた場合、
台風後、斜面がバキバキに割れてしまうのだ。
『どうする・・・?』
台風の後・・・
割れる前に水分を足すのは、どうだろう・・・?
『苗木や草を植えて・・・』
『地面を再生する・・・』
実際、木を植えれば、
その周囲の保水力が、向上する事で、
乾燥による地割れは、軽減出来る。
『しかし、苗木は・・・?』
『台風を受けた地域・・・』
『山脈全てに苗木を植える・・・?』
『何本、必要だ・・・?』
『何日、必要だ・・・?』
『用意出来るのか・・・?』
『苗木作りは、間に合うのか・・・?』
考えても、答えなど出ない。
今、必要なのは、
解決方法である。
『毎日、山脈に水やりを行なう・・・』
『これで、斜面の乾燥割れを防ぐ・・・』
そして、苗木は、
用意出来る範囲で、植えて行く・・・
実際、僕に出来る事は、
その程度である。
何日かかるのか・・・?
そんな事は、関係無いのだ。
それしか出来ないのだ。
その後、僕は、台風を追い越し、
先程の現場に戻った。
山の斜面を、コンクリート並みに固めた事で、
台風による、崩壊を防ぐ事が出来ている。
『では、これを、少し弱める事で・・・』
『コンクリートの1歩手前・・・』
『その程度に固める事で・・・』
通称・バキバキを回避出来るだろうか・・・?
そんなアイデアを、考えだけなら、簡単である。
しかし、どの程度、柔らかくする・・・?
補強を弱めたら、豪雨によって、
崩れる可能性があるのだ。
3日後に、割れて崩れるか・・・?
今、豪雨で崩れるか・・・?
『どっちが、まし・・・?』
そして、気付く、
今、豪雨で崩れた場合、
本来の山・・・
その部分も崩れる・・・
つまり、その部分は、
台風後、僕が作り直す事に成る。
しかし、僕には、山を作る能力など無い。
僕は、自分の愚かさに気付いていた。
土を盛上げて、山の様にする事は出来る。
しかし、その構造で、湧き水が出るのか・・・?
それが、本来の山の様に機能するのか・・・?
当然、無理である。
『地層が無い・・・』
自然の山には、地層がある。
その地層が、水を「ろ過」して、
ミネラルウォーターを生み出す・・・
生前にCMで見た事があった。
僕が、魔法で、インチキ地層を作っても、
そこに、本物の様な機能は無い・・・
つまり、
『山が崩れたら・・・』
『その環境は修復出来ない・・・』
つまり、これ以上被害を出さない為には、
斜面を補強して、山脈を守る必要がある。
その為には、その表面をコンクリート並みに固め、
一時的に、雨を防ぐ強度が必要なのだ。
『しかし、地層を壊さない為には・・・』
『染み込み方式は使えない・・・』
つまり、
『今、僕に出来る事は・・・』
『押し付け方式で・・・』
『斜面の補強を続ける事だけ・・・』
僕は、僕を納得させると、
仕事を再開した。
倒木を取り除き、斜面を補強・・・
その繰り返しで進み・・・
我々は、見覚えのある場所に、到着した。
そこは「3人村」だった。
以前、父と祖母と母が、
仲間と暮らしていた村・・・
津波で、全てを失った山中の平地・・・
当時、狼を縛り付けた巨木は、
津波による塩分被害で、枯れていた。
鳥に食べられたのか・・・?
狼の死骸も無い。
先日、塩分除去を行なった時、
この場所の塩分も除去している。
しかし、我々は、遊んでいる訳ではない。
その為、この場所で止まる事は無かった。
ところが、今回は、事情が違う。
山を補強するという事は、
3人村も、土で固められるという事である。
染み込み方式とは違い、
押し付け方式は
上に土を乗せ固めるのだ。
つまり、見覚えのある、この土地は、
これで見納めなのである。
『父や祖母にも、見せてあげたかった・・・』
しかし、
『我々は、将来の為に生きるのだ・・・』
『これは、遊びではない・・・』
『最終確認に来たんだ・・・』
僕と母は、
最後に、3人村の様子を見て、
生き延びた者が居ないか・・・?
その痕跡は無いか・・・?
そんな気持ちで、観察した。
もちろん、生き残りなど居る訳も無く・・・
遺品の様なモノも、回収出来なかった。
しかし、これで未練は振り払えた。
その様な、母の気持ちが伝わってくる。
こうして、3人村にも、土を押し付け、
その表面の補強を行った。
すると、母が、叫んだ・・・
「狼、強い!、狼倒した!」
「強い、だから、恐い、来る、駄目!」
6ヶ月前、我々は狼の襲撃を受け、
それを撃退した。
そして、父は、その死骸の1つを、
背負い、巨木によじ登り、
その頂点に縛り付けた。
今まで、誰も、その話をしなかった。
だから僕も、聞かない様にいていた。
しかし、今、母が叫んだ事で、その理由が解った。
『狼は強い・・・』
『しかし、我々は、狼を倒せる程、強い・・・』
『だから、我々は負けない・・・』
『災害など来ても無駄だ・・・!』
『我々を倒す事など不可能だ・・・!』
それが3人の誇りだったのだ。




