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山脈の修復を、一部だけ行い、
その後、数日間、
経過を観察する事にした。
そんな時間の余裕など、無いのだが、
無知な状態で、続ける方が危険に思えた。
ネズミの森に引き返すと、
父と祖母は、
柵を、完成させていた。
父が、体当たりや、蹴りで、
その強度を確認している。
ここは、湿地川の南側、
牧草地から、ネズミの森に入り、
10メートル程度の位置、
父も祖母も、サクやオリなど知らない。
そんな2人が、牛を逃がさない為に、
丈夫な柵を作ったのだ。
元々、そこにあった木を、柱に使っているので、
柵を上から見た形状は、
約3メートル四方の台形であった。
その為、牛1頭を閉じ込める柵としては、
多少大きい。
つまり、牛が突進出来るスペースがあるのだ。
『本当に大丈夫だろうか・・・?』
しかし、その事は、祖母も考えていた。
その為、柵の内部に、枝を配置していた。
壁になら突進出来るが、
太い枝に突進するのは危険である。
牛に、それを学習させる事で、
柵に突進しない様に、仕付けるのだ。
それが、成功するか、どうか・・・?
それは、解らない。
しかし、父も祖母も、
将来を、考えて作っていた。
父と祖母は、今後、牛の飼育を学んで行くのだ。
2人には、その素質が充分にあった。
幼稚な人間なら、
言われたから作るだけ・・・
その後、問題が発生しても、
悪いのは自分じゃない・・・
自分は作っただけ・・・
そんな言い訳を、得意気に繰り返し、
誰の役にも立たない。
ただ文句を言うだけ・・・
自分を善人と勘違いしている、偽善者・・・
誰からも必要とされない。
人は、それを無能と呼ぶ。
しかし、2人は違う。
今後、何が起きるのか・・・?
それを考え、工夫して、
必要なモノを作り出す。
『これなら、大丈夫だ・・・』
翌日、僕は、メス牛を1頭連れて来て、
ノミやダニを瞬間移動で取り除き、
それを、1番池の魚のエサにした。
その後、その牛を、柵の中に入れ、
2人に、その飼育を任せた。
僕が近くに居ると、牛が賢く成ってしまうのだ。
そんな牛を、殺して食べる事など出来ない。
その為、父と祖母、2人に育ててもらうのだ。
では、僕と母は、何をするのか・・・?
結局、僕は、3人山脈へと向かった。
昨日、修復した山の斜面を観察・・・
その後、空中から、空中への瞬間移動で、
周辺を確認、
今後、必要と成る仕事を考える。
現在、最大の問題は、
倒木である。
津波によって、多くの木々が倒され、
そして流され・・・
山の谷間を埋め尽くしている。
これを、どうするか・・・?
瞬間移動で、材木置き場へと、
移動させる事は簡単である。
しかし、津波から、約6ヶ月・・・
倒木の上に土砂がかぶさり・・・
それによって、山の斜面に崩落が、
一旦、止まっている状態・・・
そこから、倒木を取り除いたら・・・?
再び、山の斜面は崩れ始める。
しかし、では、倒木をどうするか・・・?
山の谷間とは、本来、川である。
現在、その川が、倒木と土砂で埋まり、
結果、不自然な場所から、水が湧いている。
その為、水は行き場が無く、
その周囲に溜まって行く。
それが、土砂崩れダムを作り出し。
それが崩壊して、土石流を発生させる。
そして、再び、不自然な場所に水が溜まり。
土石流を発生させる。
これが繰り返されている。
2千年後の地質学者の事を考えれば、
このまま、放置する事が重要なのだが、
我々にも生活がある。
その生活の為には、
安定した水源が必要である。
その為には、山を再生させる必要がある。
家族と、2千年後・・・
『優先するベキは、家族だ・・・』
などと考えていると、
風が強く成ってきた・・・
まだ、午前中なのに、山脈の南が真っ暗である。
『台風が来た・・・?』
『南から・・・』
僕は、自分が恥かしくなった。
我々が居るのは、大陸の東側・・・
つまり、その東に、海が広がっている・・・
僕は、台風は、
その海からやって来ると思っていた。
ところが、現実には、
山脈の南からやって来たのだ。
当然の事である。
テレビの天気予報でも、
台風は、まず沖縄に上陸する・・・
つまり、暖かい地域から、やって来るのだ。
『警戒するベキは、東の海ではなかった・・・』
『南の空を見る必要があった・・・』
僕は、そんな単純な事も解らないのだ。
『参考書を見ないと解らない・・・』
『1度、勉強しないと解らない・・・』
『僕の賢さは、何の役にも立たない・・・』
しかし、そんな事で落ち込んでいる場合では無い、
台風が来るのだ。
僕は、山脈の南へと向かった。




