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僕は、基本、考えて行動している・・・
その結果、僕は、
自分の考えが、正しいと信じてしまう。
自分を、信じて行動する以外に、
方法が無いのだ。
その為、僕は、それを実行した。
山の斜面に、石や岩を、
瞬間移動で、混入させる。
その斜面の土に、土砂を染み込ませ、
そして空気を抜いて固める。
この方法で、山の形状を、
回復させる事は、可能である。
しかし・・・
『本当に、これで良いのか・・・?』
『山の修復とは・・・?』
『何をするベキなのか・・・?』
『何か、大失敗をしている・・・?』
『その失敗に気付いていない・・・?』
僕の心のブレーキが、
僕に何かを伝えている・・・
『このまま、続けても良いのか・・・?』
『また、軽率な行動をしているのでは・・・?』
『では、何が軽率なのか・・・?』
そう考えて、真っ先に出て来たのが、
『2千年後、地質学者が・・・』
『この土地を、どの様に思うだろうか・・・?』
という、幼稚な発想だった。
幼稚ではあるが、
ある意味、大問題である。
一流大学を卒業して、大学教授に成った人物が、
人工的に再生された山を発見する。
しかも、その工事は、
原始人がいた時代に行われている・・・
『すると、教授は、どう思う・・・?』
『地球外生命体・・・?』
『宇宙人の仕業・・・?』
そんな説に、到達する危険性があった。
その場合・・・
その博士は、世間から、
何と言われるだろうか・・・?
優秀な人物が、僕の魔法の被害者に成る。
その様に考えると、
歴史に残る作業は、危険に思えた。
『人工池・・・』
『あれが発掘されたら・・・?』
『宇宙人の実験場・・・?』
『UFOの発着場・・・?』
おそらく、その様な説が出て・・・
それを発表した人は、
馬鹿にされるだろう・・・
正直な所、2千年後の人の事など、
今の僕には、関係無い。
しかし、僕の使命は、
この世界に、魔法の存在を知らせない事である。
魔法は、人類の誇りを奪う・・・
今現在、僕は、
この原始の世界の医学を、衰退させていた。
「血止め草」は、
この世界にも存在している。
父や祖母は、日常的に、すり傷が絶えない。
その為、本来なら、「血止め草」を使う。
しかし、現在、父や祖母は、
血止め草を使っていない。
魔法で治るからだ。
結果、我々は、血止め草の栽培を、行っていない。
必要無いのだ。
ところが、本来、この時代、
血止め草は、重要である。
医学の進歩は、そこから始まるのだ。
血止め草では治らない・・・
そこで、傷口や焼いて、出血を止める・・・
しかし、その激痛によって、
重症患者の衰弱が進行する・・・
結果、死ぬ事もある。
そこで、針と糸で、
傷口を縫う技術が生まれる。
しかし、雑菌によって、
縫い口が腐る事がある・・・
では、どうするか・・・?
この繰り返しで、医学は進歩したのだ。
ところが、僕の魔法によって、
その進歩が、途絶えたのだ。
だから、僕は、心に誓っている。
『他の部族とは、交流しない・・・』
南のジャングルには、原始人がいる。
その姿を見た訳では無いが、
弓矢を使ったのだから、
知的生命が居る事は、確かである。
だから、僕は、その人々には、
関わらないと決めている。
僕が、登場する事で、
その原始人の、技術進歩を奪ってしまうのだ。
それを踏まえて・・・
『2千年後・・・』
僕が行った、山の修復で、
優秀な研究者が馬鹿にされる・・・
出来る事なら、それも回避するベキである。
しかし、
僕が破壊したこの土地を、回復させる為には、
魔法で、山を修復する以外に方法が無かった。
他と交流せずに、家族だけで生きる為には、
それが必要なのだ。
家族の誇りを守る為には、
自給自足出来る環境が必要なのだ。
その為、僕は、魔法を使い続けている。
僕の知識や考えでは、
駄目と解っているのに、
その駄目を実行する・・・
それ以外の方法が、解らないのだ。
『賢く成りたい・・・優秀に成りたい・・・』
優秀な人物は、一体、どの様にして、
優秀になったのか・・・?
僕は、自分で、自分の事を賢いを思っている。
生前の僕は、勉強が出来た。
生前の両親は、僕が死ぬ事を恐れ、
僕の勉強を止めたが、
もし、許されていたら。
当時、小学生だった僕は、
自力学習によって、
国立大学の入試問題だって解けたと思う。
僕は、それ位、賢いのだ。
しかし、優秀ではない。
僕の賢さなど、全ては勘違いだった。
僕が、テストで100点を取れたのは、
誰かが考えた、公式があったからだ。
分数の計算も、
円の面積を求める事が出来るのも、
誰かが、考えた方法・・・
それを使っているから、解けるのだ。
電卓を使っているのと、同じ事である。
僕が、凄いのではなく、
それを発明した人が凄いのだ。
僕は、それを使っているだけ・・・
僕の賢さなど、その程度の事だったのだ。
その結果、
これを、実行して、
本当に大丈夫なのか・・・?
それが解らないのだ。
今、修復した山、
それが、明日、どう成っているのか・・・?
それも解らない。
僕は、以前、人口池を作り、
その時、不要な土を、
ピラミッドの様に積み上げた。
僕は、それを見張り台と名付けた。
ところが、見張り台など、不要であった。
見張る相手など、存在しないのだ。
そして、現在、その見張り台は、
土の乾燥によって、崩壊している・・・
当時の僕は、そんな事も、
考えられ無かったのだ。
それを踏まえ、僕は、
山脈の修復を一旦中止して、
3日間、放置する事にした。
そして、その状態を見て、
今後、山脈の修復を継続するかどうか・・・
それを決める事にした。
魔法使いが、何でも出来ると思ったら、
大間違いである。
『それを使う知識が無いのだ・・・』
僕は、自分に、そう言い聞かせた。




