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強風の吹く中、母を上空に浮かせ、
第2山脈の塩分除去を行った・・・
結果、第2山脈の一部分、
400キロ範囲の塩分が除去された。
『強風の中でも、上空で停止出来る・・・』
その事実が、確認出来た事で、
ひと安心である。
その後、ネズミの森に帰り、
家族で夕食を食べる。
胎児である僕は、
当然、何も食べない。
そして、その後、
僕以外は、全員、眠る・・・
実の所、
母も、眠る必要が無く成っていた。
回復魔法の効果で、
睡眠を必要としないのだ。
しかし、それを理由に、
僕と母が、夜中に仕事を行ったら、
『父と祖母は、どう思うだろうか・・・?』
『そんな生活は、幸せか・・・?』
などと、考えると、
夜は、何もしない事が、
家族にとっての幸せだと思えた。
その為、夜に成ると、
僕は、魔法を使い、
母を眠らせていた。
毎晩、僕は1人で考える。
僕と母は心が通じているが、
高度な思考が、伝わる訳では無い。
そして、夜中に成ると、
僕と母との、心の感覚が、
なぜか停止する。
おそらく、僕の無意識が、
それを選んだのだ。
そうしないと、母に迷惑がかかるかだ。
夜中、一晩中、悩む僕・・・
それが伝わった場合、
母には、ストレスでしか無い・・・
ちなみに、昼間、
お互いが必要を感じた時、
例えば、
ヒモの結び方の様に、
僕が伝える意志を持って、
その光景を思い浮かべ、
母に話しかける感覚で、
それを発すると、
それは、母に伝わる。
しかし、それ以外の場合には、
具体的な事は、伝われない。
例えば、飼い犬の機嫌が良い・・悪い・・
飼い主だけが、なぜか感じ取れる感覚・・・
それに似た、雰囲気が、
普段は、母に伝わっている。
だから、僕が、
津波を起こした犯人である事を、
母は、知らない・・・
しかし、だとしても、
母にとって、
僕は、絶えず悩んでいる存在・・・
それは、母にとって、
どれだけの苦行なのか・・・?
本来、守るベキ胎児・・・
それを守れない母・・・
その胎児に守られている母・・・
『守られている・・・?』
その時、僕は自分に言葉に、疑問を感じた。
『母は、本当に、守られているのか・・・?』
『僕に守られているのか・・・?』
そして気付く・・・
母は、僕に利用されているのだ。
『僕に使われている・・・』
『ただ、それだけの存在・・・』
事実、その通りであった。
もし、単独行動が可能なら、
僕は、1人で行動している。
現在、母と共に行動しているのは、
僕が胎児だからである。
つまり、母を巻き込んでいるのだ。
母は、不満を言わない。
不満の感情も伝わって来ない。
『僕の魔法に協力する・・・・』
それが母の誇りなのだ。
そんな母を、僕は、利用しているのだ。
守っている訳では無い・・・
使っている、だけなのだ。
『僕を産んだ後・・・』
『母は、どう成るのか・・・?』
『本当に魔法使いに成れるのか・・・?』
『母の誇りは、守れるのか・・・?』
残念ながら、それは無理に思えた。
魔法使いの能力・・・
それが受継げるモノなら、
僕以外の、魔法使いは、どこに居るのか・・・?
魔法使いの子供が、
魔法使いに成れるのなら・・・
魔法使いの弟子が、
魔法使いに成れるのなら・・・
そんな簡単に、魔法使いが誕生するなら・・・
歴史上、それを隠す事は、不可能である。
全ての魔法使いが、
僕と同じ思想では無い。
人類の誇りなど、何も考えない・・・
魔法を使い、人々の価値を奪う・・・
そんな人物も必ず現れている。
幼児期に、バレてしまう事もあるだろう。
しかし、歴史上、魔法と称して、
パフォーマンスを見せた人間は居たが、
僕と同じ事が出来る人など、存在しない。
つまり、魔法使いなど、存在しないのだ。
これが事実である。
『つまり、母は、魔法使いには成れない・・・』
今、母が使っている魔法は、
僕と心が通じている事で、発生する現象であり、
その現象を起こしているのは、僕なのだ。
母は、願っているだけなのだ。
その気持ちに、
僕の、無意識魔法が、反応しているだけ・・・
結果、母は、自分が魔法を使っていると、
錯覚しているだけ・・・
つまり、母が、行っているのは、
願うという行為である。
『願う事を覚えた母・・・』
『僕を産んだ後・・・』
『どんな気持ちに成るだろうか・・・』
今まで、家族の回復を願えば、
家族が元気に成った。
しかし、僕が単独行動を開始したら、
その現象は起こらない。
『母は、自分を無力と感じるのでは・・・』
『自分の存在価値を、見失うのでは・・・』
僕は、その様な不安を感じた。
『僕を産んだ後・・・』
『母は、誇りは・・・』
『どの様な仕事で、得られるだろうか・・・』
などと考えていると、
僕は、明日の仕事を思い出した。
父と祖母に、
次の仕事を、用意する必要があるのだ。
父と祖母は、干し肉を作る係では無い。
我々は、東海岸で、唯一の生存者なのだ。
そして、生存を続ける為に必要な事、
それは、自給自足であった。
『では、どうするか・・・?』
僕は、今後も生き続けるが、
魔法が存在しなくても、
生きていける環境・・・
それを、魔法を使い、
完成させる必要があった。




