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僕は、賢く成る必要があった。
何も知らないのだ。
その為、自分で考え出す必要があった。
僕は、賢い「つもり」である。
小学校では優秀だった。
しかし、分数の割り算を、何に使うのか・・・?
その公式で出た答えが、本当に正しいのか・・・?
僕は、事実を何も知らない。
僕には、何の経験も無い・・・
ただ見ただけ・・・
ただ聞いただけ・・・
ただの予想・・・
ただの知ったかぶり・・・
そんな僕が、大陸の自然環境を修復するのだ。
必ず、問題が起こる。
その被害を最小限にして、
環境を復活させる為には、
慎重な行動が必要である。
しかし、その『慎重』とは、
一体、何を、どの様にすれば正解なのか・・・?
考えに、考え抜いても、
それを考えているのが、
無知な小学生なのだ。
一体、どうすれば、
正しい選択が出来るのか・・・?
そんな事を考えながらも、
僕は、第2山脈の塩分除去に向かった。
南北に400キロ、
東西に100キロ、
その範囲の塩分を、
効率良く除去する方法・・・
それは、空高く浮かぶ事である。
高い位置から見れば、
広範囲が見れる。
人工衛星から、日本列島が全て見える理屈である。
しかし、そこまで上昇すると、
母に危険がある。
つまり、宇宙までは行けない。
では、どの程度の高さなら、
許されるのか・・・?
富士山の頂上には、初夏でも雪が残っている。
その様に記憶している。
それは、上空が寒い事を意味している。
そして、現在、3人山脈の頂上には、
雪は残っていない。
つまり、3人山脈は、富士山よりも低いのだ。
と・・・
ここまでは、考えられる。
しかし、
『富士山よりも低い・・・』
『それで・・・?』
『この事実を、次の行動に生かすには・・・?』
『どうすれば良い・・・?』
残念な事に、その知識が、僕には無いのだ。
その為、母を観察しながら、上昇して行く・・・
『母の髪の毛が、動いていない・・・』
ズーム機能で、山の苗木を見る。
『ゆれている・・・』
『強風が吹いているのだ・・・』
不思議に思う。
『今までも、こんな感じだったか・・・?』
風の中でも、
母の髪の毛は動かなかったのか・・・?
全く、覚えていない。
この様な状況で、
『動いていた・・・』
『動いていなかった・・・』
などと考えても、
それは、記憶の「ねつ造」であり、
事実である保障は無い。
そして、気付く・・・
『あっ!』
『恐竜の卵・・・』
『今まで無かった・・・』
『母にとって、守るベキ存在・・・』
本来、母にとって、
胎児は、守るベキ存在である。
しかし、その胎児が魔法使いであり、
想像を超える、能力を持っていたのだ。
その為、母は、守るベキ胎児に、
守られてきたのだ。
ところが、母は、数日前から
恐竜の卵を、守る事に成った。
現在、母の胸元には、
小型リュックが固定されていて、
その中には、2つの卵は入っている。
それによって・・・
『母の気持ちが、バリアを進歩させた・・・?』
バリアは、僕の意思とは関係無く、
必要に応じて発動している。
『そこに、母の感情が作用した・・・』
『それが、バリアが進歩した理由・・・・?』
答えは出ないが、
おそらく、そうである。
『つまり、バリアが、強化されている・・・』
現在、我々は上空にいる・・・
本来なら、寒いハズなのだ。
しかし、母は、寒さ軽減どころか、
寒さを感じていない。
それどころか、
風さえ受けていない。
『本当に、宇宙まで行けるのでは・・・?』
その様な好奇心が湧いて来るが、
それは、遊びである。
実行出来ない。
もちろん、宇宙から見下ろし、
一瞬で、全ての、塩分除去が行えるのは、
便利である。
しかし、今、僕が行っているのは、
山脈への「水やり」の練習なのだ。
本来、魔法の練習は出来ないのだが、
今回は、塩分除去を口実に、
上空での作業練習を、行っているのだ。
それを踏まえて考える・・・
もし、宇宙まで行って、
3人山脈の全てを見渡し、
海水を真水にして
それを、山脈全体に落下させた場合・・・
一体、どう成る・・・?
水量の微調整など出来ない・・・
結果、山脈全体に、
同時に水が降り注ぐ事に成る。
つまり、一瞬の豪雨状態が起きる。
そして、それは、山の斜面を削る・・・
それが全ての山脈で同時に起きる・・・
結果、山脈全域で、土砂災害が起きてしまう。
その為、宇宙から、山脈全体を見て、
一瞬で全てに「水をやる」という事は、
危険なのだ。
現在の山脈の広範囲は、
木も草も無い、土の山であり、
崩れやすいのだ。
そして、規模が大きい「水やり」は、
気圧配置にも悪影響を与える。
つまり、宇宙から全体を見て、
魔法で、何かを行った場合、
大きな被害を生むのだ。
それを防ぐ為には、
効率は悪くても、部分部分で、適正な高さから、
「水やり」を行う必要がある。
その為の練習として、
今回の塩分除去は、有効に活用するベキなのだ。
僕は、安易な行動を阻止する為、
自分への説明を行いながら、
最善を模索した。
結果、効率が悪く成り、
第2山脈の塩分除去に、
4時間もかかった。
しかし、
仕事は無事に、終える事が出来た。
『これで良い・・・』
『安全が1番大切だ・・・』
僕は、自分に言い聞かせた。




