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現在、僕は、山よりも高い位置に、
浮かんでいる。
およそ、雲の高さである。
結果、山脈の広範囲が見渡せた。
『今日は、風が無い・・・』
『やるなら今だ・・・!』
僕は、3人山脈を南に進みながら、
塩分の除去を行った。
常識的に考えれば、
広い範囲の塩分除去は、時間がかかる。
しかし、
魔法には、その様な制約は無い。
懐中電灯の明かりは、
一瞬で、可能な範囲を、全て照らす。
魔法も、それと同じである。
塩分除去は、見える範囲の全てが、
同時に行なえる。
しかも、一瞬である。
結果、僕は、飛行する事の無駄に気付く。
見渡せる範囲の塩分除去が、
一瞬で行えるのだ。
飛んで移動したのでは、効率が悪い。
浮かんだ状態で、瞬間移動を行い、
南へ進む、
つまり、空中から、空中に瞬間移動するのだ。
以前、牛の大地で、
家族全員を飛行させようとしたが、
当時は、落下のリスクが、
心のブレーキと成り、実行出来なかった。
しかし、僕と母は一心同体であり、
空中停止が可能な現在、
空中から、空中への、瞬間移動は、
当然の事の様に出来た。
そして、空中停止を維持した状態での、
塩分除去も、問題無く、実行出来た。
その後、空中から、空中への瞬間移動を繰り返し、
その一瞬で、見える範囲の塩分を全て消費した。
その為、実質30分程度で、
3人山脈の200キロ範囲・・・
つまり、ネズミの拠点から、
牧草地までの範囲に、相当する距離の、
塩分除去が出来た。
3人山脈は、その先も続いているが、
その先は、津波の影響で、山が崩れ、
それが、ネズミの森と、枯れた大地を飲み込んでいた。
つまり、苗木を植える事も出来ない程、
無茶苦茶なのだ。
結果、その地域の再生は、後回しにした。
その後、3人山脈の北側、
200キロの範囲の、
塩分除去も完了した。
ここで、少し風が出て来たので、
我々は、ネズミの拠点へと引き返す。
その気に成れば、
今日中に、第2山脈と、第1山脈、
それらの塩分除去も、
出来たと思う。
しかし、僕は、慎重に成った。
今後、行う予定の「水やり」は、
とても、危険な行為なのだ。
移動魔法で、空中に停止して、
海の水を包み込む。
瞬間移動で、上昇させながら塩分を除去する。
3人山脈を見て、
その上空に元海水を瞬間移動させる。
移動魔法を使い、
地面にダメージの無い高さに下ろす。
1キロ四方の水の板を、
1.5キロ四方に分散して落下させる。
その際、母を守る為、
強風に注意。
寒さ軽減に注意。
これらを、ほぼ同時に行う。
それを数万回繰り返す事に成る。
そして、それには、大きな問題があった。
生前、僕は、祖父と祖母と一緒に、
老人倶楽部に行った事がある。
年寄りが集まって、運動するのだ。
その中に、
右手で、四角を描きながら、
左手で、三角を描くという運動があった。
空中に、線を引くイメージで、
手を動かすのだ。
そかし、この運動が出来ない。
出来たと思っている人も、
実際には、出来ていない。
そして、驚いた事に、
この運動を続けると、
脳が混乱して、
一瞬、右手で、四角を描く、
それだけの動作も、出来なく成るのだ。
『この現象が魔法で起こったら・・・?』
様々な危険が考えられた。
母の落下・・・
海水を、直接、山脈に瞬間移動・・・
それ以外にも、
混乱によって、
『山を、海へ瞬間移動させる・・・・』
その危険性も考えられた。
混乱している場合、
心のブレーキは機能しないのだ。
山脈への「水やり」は、
僕の常識を超えた、無茶なのだ。
出来ると解っていても、
恐いと感じる・・・
つまり、「プレッシャー」を感じているのだ。
結果、思考が混乱して、ミスをする。
その時、
僕の魔法が、何を起こすのか・・・?




