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移動魔法を使う事で、
母を飛行させる事は可能である・・・
しかし、上空で、母の安全は、
保証出来るのか・・・?
バリアは、ジェット気流の直撃を、
無効化してくれるのか・・・?
おそらく、バリアは機能する。
ジェット気流を受けても、
母には、被害は出ない。
あくまでも、僕の予想であるが、
僕の魔法は、
極論、母を守る為に、発動している。
その原理は、明確では無いが、
魔法は、素粒子の連鎖によって、
成立している。
つまり、風も、その正体は、素粒子であり、
僕の魔法には、逆らえないのだ。
もちろん、今現在、
僕のバリアに、ジェット気流を、
無効化する能力は無い。
しかし、それでも、必要に成った瞬間、
僕の魔法は、母を守るだろう・・・
魔法は、何でも出来るのだ。
僕の心のブレーキが、それを許さないだけで、
本来なら、僕の不都合は、
全て、魔法で解決出来る。
しかし、その為には、犠牲が出る。
今回の場合、母を守る為に、
上空の強風を、無効化してしまう。
それは、この世界の環境に、
どの様な影響を与えるのか・・・?
母は、守る事が出来ても、
その結果、この星に、
被害を与える危険性があるのだ。
もちろん、魔法を使い、
出来る限りの環境の回復を、
目指す事は可能である。
しかし、どの様な状態を、
復活と呼ぶのか・・・?
それは、僕の勝手な思い込みである。
結果、本来の自然と比べ、
どの様な矛盾が生まれるのか・・・?
魔法は、何でも出来るが
僕は、何も知らないのだ。
元通りにする能力があっても、
元々を知らないのだ。
つまり、元には、戻せないのだ。
しかし、それでも、
僕には、責任がある。
僕が、壊滅させた山脈を復活させ、
僕の家族に、生きる環境を与える・・・
だから僕は、
母を飛行させる必要性を考えた。
心のブレーキの一部を解除する為である。
現在、我々は、3人山脈の頂上にいる。
『では、飛行魔法を使って・・・』
『第2山脈の状況を調査しよう・・・』
先ほどは、瞬間移動で、通過しただけなので、
途中、斜面で停止して、
そこから、周囲を見ただけである。
そこで、今回は、飛行魔法で、
調査である。
僕は、母を包み込むと、
母の身体を浮かせた。
その高さは、山頂から2メートル上・・・
そのまま、前進する事で、
足元の地面は無くなり、
母は、飛んでいた。
『では、飛んで何をするのか・・・?』
まず、ズーム機能で、
下を見る。
そこは、3人山脈の、東斜面、
つまり、海側の斜面が見える。
ここから、第2山脈までは、
数十キロほど離れているので、
飛んで行くのは、効率が悪いと理解出来た。
そこで、第2山脈の調査は止め、
別の調査を始める。
その為に、まず、
僕は、僕に説明を始めた。
山脈というのは、巨大な壁である。
地殻変動によって、地面が動いた時、
「シワ」に成った部分、
それが山脈である。
その為、海側から、
第1山脈、第2山脈、3人山脈と、
3つの「シワ」が「壁」の様に存在している。
しかし、その材料は、地面である。
それが、自然の力で、無理矢理に押し込まれ、
無理矢理に出来た「しわ」なのである。
『では、実際に、それを見てみよう・・・』
僕は、その様に自分に言い聞かせ、
少しずつ、上昇を始めた。
これは、練習ではない。
調査の為に必要なのだ。
その様な、気持ちを作り、
心のブレーキを解除した。
ゆっくりと、上昇を開始する・・・
母の様子を観察、
今現在は、少し寒いが我慢出来るレベル・・・
『これなら、一応、大丈夫だ・・・』
上昇する事で、山脈の姿が見えて来る。
『山脈は、壁・・・?』
『壁では無い・・・?』
実際、壁では無かった。
山脈は、一直線では無い。
「うねって」いる。
その上、
高い場所、極端に高い場所、
低い場所、極端に低い場所、
と、その高さも様々である。
僕は、上昇しながら、それを実際に見て納得した。
3人山脈で、3人が生き延びた場所、
そこは、極端に高く、
その北側に、極端に低い場所があった。
そのお陰で、津波が、
そちらに流れ込み、
3人は助かったのだ。
そして、山脈を、壁と呼ぶには、
あまりにも分厚かった。
『厚さ100キロの壁・・・』
残念ながら、この距離は、いい加減である。
高い場所から、見ると、
1歩で行ける様な錯覚が起きるが、
実際には、数百メートル離れている。
現在、僕は、山よりも上にいるので、
その錯覚は、それ以上に大きい。
その為、山脈の厚みが
100キロなのか、50キロなのか、
実際には解らなかった。
調査などと言っても、
僕が得られる情報など、
この程度なのだ。
『今日は、風が弱いのか・・・?』
『雨が降らないのも、それが原因・・・?』
『それとも、これが、この季節の特徴・・・?』
母にも、確認するが、
母の部族には、1年という発想が無かった。
その為、
1年前を比較する・・・
その様な事は、出来なかった。
僕は、魔法で自然環境を改善する事に、
不安を感じた。
僕は、何も解らないのだ・・・
ここ最近、雨が降らないのは、
自然現象なのか・・・?
それとも、津波の後遺症なのか・・・?
それが解らない、
そんな僕が、
北は、雨続きだから、雨を止める・・・
東は、晴れ続きだから、雨を降らせる・・・
そんな思い付きを実行した場合、
何が起こるのか・・・?
『それも解らない・・・』
つまり・・
こんな事を考えるよりも、
意味のある事を、考えるベキである。
では、今、何をするベキか・・・?
『山脈から、塩分の除去を行おう!』
現在、山脈の、ほぼ全ては、
津波による塩の被害を受けている。
結果、植物が育ち難い環境である。
その為、地面の塩分を除去する必要があった。
僕は、これまで、
地面に立った状態で、
塩分の除去を行っていたので、
出来る範囲は少なかった。
苗木を植える為に、
3人山脈の一部と、
ネズミの森の一部、
そして、牧草を育てる為に、
湿地川の南側の一部、
それらの、塩分除去を行っただけだった。
しかし、今後、自然を復活させる為には、
山脈の全ての、塩分除去が必要であった。
そして、今、それを行う口実が出来たのだ。
飛ぶ練習と、塩分除去の練習、
それが、必要な事として、実行出来るのだ。
僕は、上空から、山脈を見下ろし、
塩分除去を開始した。




