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理屈上・・・
魔法は、何でも出来る・・・
魔法とは、素粒子の連鎖現象であり、
ドミノ倒しと同じ事である。
その為、僕が、最初に軽く突く・・・
その程度の切っかけで、
その後、魔法が成立しているのだ。
つまり、僕は、何でも出来るのだ。
この原始の世界から、
地球を助ける事も出来るのだ。
しかし、何を行って良い訳では無い。
魔法が、存在する事で、
人間の価値が失われてしまう・・・
つまり、
僕が、千里眼を進歩させるという事は、
生前の世界を、崩壊させる事なのだ。
つまり、山脈の水やりの為に、
千里眼を進歩させる事は危険である。
僕が、その様な事を考えていると、
母の気持ちが伝わって来た。
それは、大きな未練だった。
僕は、その正体に気付いていた。
ここは、3人山脈の山頂、
その中でも、特に高い場所である。
つまり、この場所は、
津波発生時、父と母と祖母がいた場所である。
この山を下って行けば、
3人が暮らしていた村がある。
津波被害で、全てが無くなったが、
それでも、その場所は、残っている。
今、その場所は、どう成っているのか・・・?
木に縛った狼は、
どう成っているのか・・・?
興味がある。
しかし、母は、我慢した。
今の、我々なら、数秒で、その場所に行ける。
その事は、母も知っている。
しかし、母は、それを我慢している・・・
『我慢・・・』
僕は、千里眼を進歩させる事を我慢した。
山脈に、水やりを行う為には、
千里眼を進歩させた方が、
合理的なのだが、
千里眼の進歩は、危険過ぎるのだ。
心のブレーキを、解除する事に成ってしまう。
つまり、生前の世界が、
見える可能性が出てしまう。
見れるのなら、見たい・・・
しかし、それを我慢する事に成ってしまう。
それは困難である。
だから、その前の段階、
千里眼を進歩させる前に、
その進歩を我慢する必要がある。
世界を正常に保つ為には、
僕の、我慢が必要なのだ。
助ける事が、出来るが助けない。
必要なのに、使わない。
魔法使いにとって、
それこそが、正しい選択なのだ。
『心のブレーキを解除してはいけない・・・』
では、どうするか・・・?
現在、僕が、するベキ事は、
山脈への水やりである。
『リアルな雨を降らせる・・・』
まず、海上の空を見て、雲を探した。
小さな雲が、海上に浮かんでいる。
そこで、海から、
1キロ四方、厚さ10センチの海水を
真水にして、雲よりも上空に、
瞬間移動させる。
実際、雲の高さが、
海上、何メートルで、
瞬間移動させた、水の高さが、
その上、何メートルなのか?
僕には解らない。
今いる山頂の高さも解らない。
つまり、感覚である。
『これで本当に、雲が大きく成るのか・・・?』
『普通の雲が、雨雲に成長するのか・・・?』
僕は、その後も、塩分を除去した「元海水」を、
雲の上に瞬間移動させた。
毎回、同じ位置ではなく、
少しずつ、場所を移動させ、
雲の面積を増やして行く・・・
数分後、その雲が黒く成って行く・・・
雲の濃度が高く成り、
太陽の光が通らなく成り、
結果、影が出来る事で、雲が黒く見えるのだ。
そして、第1山脈に雨が降り始めた・・・
『成功だ!』
『本当に雨が降った・・・』
贅沢を言えば、
3人山脈に降って欲しいのだが、
その様な調節は出来ない。
仕方ないので、
今、第1山脈に雨を降らせている雨雲に、
塩分を除去した元海水を、瞬間移動させて行く・・・
理屈の上では、これによって、
この雨は、第2山脈、3人山脈へと、
降り続ける事に成る。
しかし、不安もある。
『気圧配置・・・』
それが、どの様な意味であるのか、
本当の所は、分からないが・・・
上空では、
大陸の様に大きな空気・・・
つまり、冷たい空気と、暖かい空気・・・
それが押し合って、バランスを作っている。
そんな中、僕が、不自然な雨雲を作った場合・・・
それが、自然環境に、
どの様な影響を与えるのか・・・?
『大陸の向こう側・・・』
『山菜森の向こう側・・・』
『狼山に雨が降らなく成るのでは・・・?』
実際の所、僕の知識では、何も解らない・・・
インターネットで調べても、
おそらく、そんな事は解らない。
誰も知らないのだ。
元々、この第1山脈も、第2山脈も、
3人山脈も、
雨が降る環境であった。
つまり、今、降らせている雨も、
それだと考えれば、問題は無い・・・
その様にも思える。
『しかし、本当に大丈夫なのか・・・?』
僕は、3人山脈に「水やり」をする予定だった。
『この雨の降らせ方で・・・』
『大丈夫なのか・・・?』
『意味があるのか・・・?』
現在、人工の雨が降っているのは、
第1山脈の、ほんの一部分である。
これでは、山の復活など、ありえない。
それなのに、気圧配置に悪影響を与え、
この星の気象環境に、
被害を与える危険性があった・・・
世界の安全を考えた場合、
魔法での雨降らしは、危険過ぎた・・・
我々は、星に居るのだ。
逃げ場は無いのだ。
右が腐れば、左も腐る・・・
今日、東が助かったと、安心しても、
その結果、西が苦しめば、
それは、結局、我々を苦しめる事に成る・・・
魔法は、万能では無い。
魔法の杖を振れば、
都合良く成る。
そんな事は、無いのだ。
東を助けた結果、
西が枯れるなら、
そちらも、魔法で雨を降らせれば良い・・・
机上の空論では、その様な安易な考えが出て来る。
では、その時、
北は・・・?
南は・・・?
どう成る・・・?
『どう成っている事が、正解なのか・・・?』
『水不足が正解なのか・・・?』
『洪水が正解なのか・・・?』
『どちらが本来の姿なのか・・・?』
僕には解らない。
しかも、魔法による雨は、微調整など出来ない。
雨を降らせるか、
雨雲を排除するか、
出来ても、その程度である。
そんな僕が、
僕の思い込みで、天気を操作する。
『ここは、雨が少ない・・・』
『ここは、雨を増やそう・・・』
それで大丈夫なのか・・・?
本来、自力で生きる、この星に、
僕が手出しをする。
結果、その環境を維持するには、
僕の助けが必要に成る。
すると、僕は、神に成ってしまう。
『それは、許されない・・・』
この星には、我々以外にも、
知的生命がいるのだ。
通称・南原人である。
おそらく、彼らが、この世界の人間へと進化する。
その人々に、神は必要無い、
神は、人の必要を奪うのだ。
地面に「はいつくばって」神に祈りを捧げる・・・
全く、無意味な祈りに人生をかける・・・
『そして人は、誇りを失う・・・』
現実的な努力をせず、
祈る事に、一生懸命に成ってしまう。
人から、現実的な努力を奪う存在・・・
それが神である。
『だから、僕は、神に成ってはいけない・・・』
それが、僕の答えだった。
そして、問題が起きた・・・
僕が、降らせた雨の影響で、
第1山脈の土が流れ落ちて行く・・・
その量は、微量のレベルである。
この程度は、正常な範囲なのか・・・?
それとも、大問題なのか・・・?
冷静に考えた場合、
雨によって、毎回、山が1ミリ低く成る。
そんな事が、本当に起きるなら、
現代に山など、存在しないのでは・・・?
全て平らに成っているのでは・・・?
などと、思うが、僕には、
何も解らなかった。




