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脳死を回避した僕にとって、
恐れるモノなど、何も無い・・・
ハズだった・・・
しかし、現実は違う。
海水を真水にして、
山頂に落下させる事は、可能であるが、
その安全性が、保証出来ない。
見えない場所に、水を落下させた場合、
山が崩れる危険性があるのだ。
では、毎回、僕が、瞬間移動で、
その場所に行って、理想的な高さから、
水を落下させては、どうか・・・?
しかし、水やりを行う山脈は、
南北に2千キロ以上の山脈・・・
それが、3列並んでいる・・・
そこに水やりを、行うのだ。
我々の目的は、
山の苗木を育てる「水やり」である。
本来、山に降った雨が、川に流れ、
それが、我々の生活水に成るのだが、
今、そのレベルの水量を、山に降らせた場合、
山脈が崩れる危険性があった。
『では、どうするか・・・?』
実は、方法は存在した。
水を落下させずに、地面に密着させる。
毎回、厚さ1センチの水板を、
山脈の斜面に、優しく乗せる。
これであれば、斜面を崩す被害も、
軽減出来る。
しかし、その為には、
非常に高度な千里眼が必要である。
1キロ四方の範囲を、千里眼で、観察して、
水板を、その形状に合わせ、
それを、地面に密着させ、
地面に吸わせる。
名案に思えた。
しかし、
『本当に、それで良いのか・・・?』
千里眼の進歩は、大変危険であった。
魔法とは、連鎖である。
魔法使いは、
最初の素粒子に、影響を与えるだけ・・・
その後は、それが連鎖して、現象が起こる・・・
この理屈が正しいのなら、
僕の、千里眼は、何でも見れる。
生前の、僕の家も見れる。
テレビも見れる。
おそらく、インターネットも使える。
千里眼で見て、移動魔法で端末を、
操作すれば良いのだ・・・
これにより、この世界を改善する為の、
様々な情報が得られる。
現代の知識を、
原始人の祖母に、教える事も出来る。
しかし、それは、危険である。
千里眼で見れて、
移動魔法で操作出来る・・・
つまり、生前の家族に、何かがあれば、
助ける事も出来るのだ。
という事は、
生前の世界で、災害が起これば、
僕には、救助活動が出来るという事である。
しかし、それは、災害以上の被害を生む。
僕が、使えるのは、移動魔法である。
溺れている人を見つけ、
それを安全な場所に移動する。
それを体験した人、
それを目撃した人、
その人々は、
それを何と思うだろう・・・?
『神の奇跡・・・』
おそらく、多くの人が、その様に認識する。
すると、問題が発生する。
僕には限界がある。
全ての人を助ける事は出来ない。
結果、
助かった人は、神に選ばれた人、
死んだ人は、神に見捨てられた人、
その様に考える人も、現れるだろう。
その中には、神の声を聞いたなどと、
宗教を始め、
多くの人を惑わす存在も現れる。
インチキ宗教の誕生である。
そして、それを、僕が、
放置しても、壊滅させても、
それは、つまり、
この世界には「神が実在する」と、
「多くの人々が認識する」という事である。
結果、人々、祈るだろう。
現実的に、努力するよりも、
必死に祈る方が、助かるのなら、
誰だってそうする。
そして、
難病の子供を抱え、
病院を抜け出した両親が、
「助けて下さい!」と、
3日間、叫び続けたとしよう・・・
その場合、
その両親も、
その子供も、
死んでしまうだろう・・・
それを、僕は、無視出来るだろうか・・・?
もし、助けてしまったら・・・
その後、世界の医療は崩壊する。
そして、人々は、
神に対して、目立つアピールを考える。
今現在でも、
神に対するアピールは、行われている。
神社などで、賽銭を投げる行為が、
それである。
つまり、神が存在を確信した人々は、
今後、それ以上の事を行う。
自分の子供が助かるなら、
自宅を燃やす。
子供を助けてと、親が自殺する。
その様な祈りを、行う人も現れる。
それ以外にも、
おそらく、意味不明な行為が、
次々と行われる。
それを、
止めようとする人が現れる。
それに反発する人も現れる。
自称、専門家も現れ、無責任な事をいう。
結果、世界は混乱する。
そして、僕を、神と信じた人々が、
僕に要求する。
世界平和・・・
核兵器の廃絶・・・
素晴らし事にも思えるが、
その結果、
軍事産業が、その利益を失い、
関連企業も、その影響を受ける。
つまり、多くの失業者を生む・・・
親の失業で、進学出来ない子供が現れる。
家を失う人が現れる。
すると、人々は、僕に要求する・・・
「助けて・・・!」
しかし、
残念ながら、全人類を相手に、
その様な事は出来ない。
神など存在しないのだ。




