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僕は、大罪人である・・・
「知りませんでした・・・」
そんな言い訳は通用しない。
知らなくても、殺した事は事実なのだ。
そんな僕が、今から、
その犯行現場を、通過する事に成るのだ。
しかし、僕は、その時、
罪悪感で苦しむ事は、許されない。
この世界を守る為には、
多くの命を奪った事実を、無視する・・・
その必要があるのだ。
もし・・・
『自分が被害者だったら・・・?』
『被害者の家族だったら・・・?』
『僕は、犯人を許せない・・・』
そんな事は、充分に承知している。
しかし、今は、自分を責めて、
興奮している状況ではない・・・
僕のストレスが爆発したら、
この世界が滅びる・・・
つまり、罪悪感を無視する必要があるのだ。
ところが・・・
実の所、僕は、この問題を解決している。
枯れた大地にも、ネズミの森にも、
元々、多くの命が存在したのだ。
それを絶滅させたのは、僕なのだ・・・
そして、僕は、その環境で、生活しているのだ。
平然と、生活しているのだ。
その事実に、僕は、疑問があった。
『なぜ、僕は、苦しまないのか・・・?』
正直な所、殺した実感は無いのだ。
意識を失い・・・
気付いたら、原始の世界だった。
そして、周囲の状況から、
僕が、大陸の東側を、壊滅させたのだと理解した。
ところが、僕は、反省していないのだ。
実際には、今後、この様な事を繰り返さない為に、
日々、苦悩している。
しかし、僕は、殺した命に対して、
何もしていない。
実際、何も出来ない。
僕は、祈る事が許されない。
その為なのか?
僕は、枯れた大地で、生活が出来るのだ。
僕は、犯行現場で、生活しているのだ。
そして、僕は、そんな状況に、罪悪感がある。
罪悪感を持つベキだと、考えてしまう。
つまり、僕は、自分に、罰を与えたいのだ。
ところが、無意識魔法で守られている僕が、
自分に危害を加えた場合・・・
それは、意識を失い、
次の世界に、被害を与える結果に成る。
だから、僕は、自分を罰する事も、
反省する事も出来ない。
そんな中、生前の記憶・・・
ゲーム機を叩き壊し、号泣した少年・・・
数年前の、その光景が、
僕に冷静な判断を与えた。
『興奮している場合では無い・・・』
『今、僕が見るベキなのは・・・』
『被害現場では無い・・・・』
『津波から、5ヶ月経過した山の状況・・・』
『今後、再生させる現場確認・・・』
『僕は、政治家ではない・・・』
『パフォーマンスは必要無い・・・』
などと、考えながら、
山の斜面の具合を見る。
所々に草が生えている・・・
周囲に木々が無い事から、
この場所も、津波を受けた事が解る。
『では、この草は何なのか・・・?』
『塩で汚染されても、大丈夫な品種なのか・・・?』
『それとも、津波後の雨で、塩分が流され・・・』
『そこに、鳥のフンで、タネが運ばれ・・・』
などと考えても、
真実は解らないが、
土砂崩れが止まっている・・・
それは事実の様であった。
こうして、僕は、調査を行いながら、前進を続け、
第1山脈の頂上へと到着した。
『海だ・・・』
第1山脈から海が見渡せた。
僕は、その事実に安心していた。
もし、第1山脈の向こう側が、
広大な平地だったら・・・?
海が無かったら・・・?
などと、不安であったのだ。
しかし、見渡す限り海、
それ以外何も見えない。
『これなら大丈夫・・・』
『心を迷わすモノは無い・・・』
僕は、第1山脈の上から、海を見る。
そして、広さ1キロ四方、
深さ10センチの海水を包み込んだ。
そして、それを、移動魔法で軽く「ゆさぶる」
これにより、その中の生き物を、
逃がす事が目的である。
効果があるのか・・・?
それは不明だが、
無駄な被害を出さない様に、
出来る事は実行する。
そして、包み込んだ海水を、
海面から1キロ上に瞬間移動させた。
この時、重要なのが、
塩分の消費である。
本来、魔法を使う時に、
何かを消費する必要など無いのだが、
前日までの僕は、
魔法を使う時には、
そのエネルギーが必要であると、
思い込んでいた。
そして、その思い込みによって、
僕は、消費魔法を習得していたのだ。
つまり、海水を瞬間移動させながら、
その中の、塩分を消費する事も可能なのだ。
本来、魔法に、大魔法と、小魔法の区別は無い。
「魔法使い」が行っているのは、
連鎖の最初、ドミノのコマを、軽く突く・・・
その程度の事である。
つまり、魔法に難易度など存在しない。
ある意味、何でも出来るのだ。
しかし、僕には、心のブレーキが存在する。
結果、
『これをやって、本当に大丈夫なのか・・・?』
と疑問を持った事に関しては、
その魔法は実行されない。
つまり、山を瞬間移動させようとしても、
そんな事をすれば、風の流れに変化が出る。
『雲の流れが変わる・・・』
『雨に影響が出る・・・』
『その結果、環境が破壊される・・・』
と不安がある為、魔法は発動しない。
では、今回は、どうだったか・・・?
海面から1キロ上に瞬間移動した海水・・・
『塩分は、抜けているのか・・・?』
僕は、海面から1キロ上に出現して、
海に向かい落下を開始した「元海水?」
それを、少し包み込み、
そして、母の口に運ぶ・・・
「塩、味、無い・・・」
母が答えた。
僕と母は、心が通じているので、
それが事実である事は、明確に理解出来た。
つまり、成功である。
『真水が作れた・・・』
そこで、僕は、再び、海面部分を、
1キロ四方、深さ10センチ包み込んで、
塩分の消費を行いながら、
1キロ上に瞬間移動させ、
それを、次の瞬間、
3人山脈の少し上に、瞬間移動させた。
第1山脈からでも、
3人山脈の山頂の一部分は、ほんの少し見える。
それを目印に、
山頂の上10メートルの位置をイメージして、
海水から作った真水を、2回送った。
移動する水は、
広さが1キロ四方だが、
その厚みは10センチである。
つまり、10メートル上から、落下させれば、
空気の抵抗で、
水の塊は、分散して、
雨の様に落下する・・・
ハズである。
しかし、不安である・・・
本当に、塩分は除去されているのか・・・?
落下した水が、山の斜面を削っていないか・・・?
結局、我々は、その確認の為、
3人山脈に引き返した。
とはいえ、
戻るのは、2秒程度で可能であった。
第1山脈頂上から、第2山脈の頂上までが1秒、
第2山脈の頂上から、3人山脈の頂上まで1秒、
数百キロの距離を、たったの2秒である。
『2秒・・・』
僕は、複雑な気持ちに成った。
罪悪感で、我を忘れる事は、
危険である。
しかし、罪悪感を感じない事も、
苦しい・・・
僕が、2秒で移動したその場所は・・・
僕が、多くの命を奪った場所なのだ・・・
『僕に何が出来る・・・』
僕は、奪った命に対して、
何も出来ないのだ。
僕は、祈る事も出来ない・・・
許されないのだ・・・
僕が祈れば、
それは、僕の選択支に加わってしまう。
結果、
僕が考え、行動するベキ状況で、
祈ってしまう。
考えず、行動せず、
無意味に祈ってしまう。
つまり、今後、
家族を助けるチャンスを、無駄にして、
行動せず、祈ってしまう・・・
その危険性があるのだ。
それを回避する為、
魔法使いの僕は、絶対に祈ってはいけない。
それが魔法使いの、絶対的な規則である。




