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生前の僕は、
ある意味、世界一の魔法研究家だった。
そして、当時の僕は、
魔法の正体を突き止めていたのだ。
魔法とは、
素粒子の連鎖によって起こる現象なのだ。
世界は、全てが素粒子で出来ている。
水も空気も、光も、宇宙空間さえ、
素粒子で出来ているのだ。
僕は、悲しい気持ちに成った。
僕は、生前に読んだ魔法小説を、
馬鹿にしていた。
その類のアニメも馬鹿にしていた。
しかし、僕は、その影響を受けていた。
主人公は、必殺の呪文を唱え、
「うぉぉぉぉぉ」と叫べば、
限界を超えた力が出せる。
現実では、そんな事は起こらない・・・
解っている。
しかし、僕は、その影響を受けていたのだ。
魔法には、エネルギーが必要と思い込み・・・
そのエネルギーを蓄えると、
強大な魔法が発動する・・・
その様に認識していたのだ。
そんな訳が無いと解っているのに、
その様に、認識していたのだ。
つまり、固定概念である。
生前、僕は、3D映画を見た事があった。
通称・飛び出す映画である。
あくまでも、その様に見えるだけ・・・
それは、充分に理化している。
しかし、画面から、何かが飛び出すたびに、
僕の身体は反応した。
我慢する事も出来たが、
それは、我慢であった。
僕の本心は、危険を感じているのだ。
『ニセモノ・・・錯覚・・・思い込み・・・』
理解しているのに、反応するのだ。
つまり、条件反射である。
僕の魔法は、
固定概念や、条件反射の影響を受けていたのだ。
『僕は、魔法の真実を知っていた・・・』
『消費など、不要な事を知っていた・・・』
『それなのに、僕は、消費を実行していた・・・』
魔法とは、素粒子の連鎖反応なのだ。
ドミノ倒しの、最初・・・
指先で軽く、突くだけ・・・
その時、必殺の呪文を唱えようとも、
「うぉぉぉぉ」と叫ぼうとも、
それは、その後、ドミノが倒れる現象とは、
無関係である。
そんな事をしなくても、ドミノは倒れるのだ。
つまり、叫ぶ必要は無いのだ・・・
演出なのだ。
芝居なのだ。
そんな事は、充分に理解していた。
それなのに、僕は、
その芝居を実行していた・・・
『魔法にはエネルギーが必要・・・』
その思い込みが、
無駄な魔法を、発動させていたのだ。
それが消費である。
以前、砂利を瞬間移動させ、
その通過点にある木に穴を開け、
それを利用して、木を切断した事があった。
砂利を飛ばすには、エネルギーが必要・・・
そのエネルギーを、木から回収・・・
結果、木に穴が開く・・・
それが、僕の理屈であった。
ところが、その後、
家族で、岩塩の大地を瞬間移動ている時、
僕は、何も消費していない事に気付いた。
山菜森での移動中も、
木々が無事である事に、疑問を感じていた。
『何も消費していないのに・・・?』
『なぜ・・・?』
と不思議に思った。
そして、
我々に影響を与えない部分から、
何かを消費して、エネルギーに変換しているのだと、
僕は、僕を納得させた。
しかし、それは、間違いだった。
『消費など、必要無かったのだ・・・』
僕は、気付いた・・・
僕の魔法は、使えば、上達する。
結果、最初は、数秒かかった魔法も、
その後は、一瞬で行える。
『それは、なぜか・・・?』
僕は、その理由を理解した。
魔法を使う時、エネルギーを消費する・・・
その思いが、魔法の発動を邪魔していたのだ。
ネズミの森の、枯れた巨木・・・
それを、北の材木置き場に移動させる時、
最初、僕は、何かを消費する事を考えていた。
つまり、移動魔法を使うだけなのに、
消費魔法を使う事も考えてたのだ。
だから、段取りが悪く、
その精度が低かったのだ。
ところが、何度も繰り返すと、
段取りが良く成る。
つまり、余計な事を考えずに、
作業に専念出来るのだ。
その為、移動魔法がスムーズに成り、
魔法が進歩した様に、思えたのだ。
つまり、魔法を発動する時、
消費など必要無いのだ。
それなのに、僕は、消費を実行していたのだ。
つまり・・・




