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現在、僕が原始の世界で、
メス恐竜の胎内に居る・・・
そして、今、異常なレベルで、
回復魔法が発動していた。
ところが、僕には、何も見えない。
恐竜に胎内へと移動した事により、
僕は、千里眼を失ったのだ。
しかし、回復魔法は発動している・・・
つまり、僕には、魔法の力が残っているのだ。
僕は、僕に言い聞かせた。
『千里眼を発動させるんだ!』
『状況が解らないと効率が悪い!』
本当に回復が必要なら、
千里眼を使うベキなのだ。
『状況を理解して、効率良く、使うベキなんだ!』
と、魂である僕が、心で叫んでいると・・・
それは、見えた。
久しぶりの、ベランダ視点である。
数メートル上から、見下ろした様に、
周囲が見えた。
残念ながら、見える範囲は、
数メートル範囲であり、
見えている範囲も「ぼんやり」としている。
『千里眼の能力が低下している・・・』
しかし、それで充分だった。
僕は、知るベキ事を知ったのだ。
『死んでいる・・・』
見えたのは、メス恐竜の死体だった・・・
首の右側面が無かった。
おそらく「何か」に、食い千切られたのだ。
ところが、周囲に、その「何か」が居ない・・・
僕が見えるのは、数メートル範囲だが、
恐竜の首を食い千切った「何か」が、
それだけで、立ち去るだろうか・・・?
『オス恐竜は、どこだ・・・?』
僕は、思い出した。
原始人の母を、ネズミの拠点に送り届けた後、
僕は、メス恐竜を、元居た場所に戻した。
その時、1頭の恐竜が居た。
おそらく、それはオス恐竜であり、
このメス恐竜のパートナーなのだ・・・
そして、今、
そのオス恐竜の姿が見えない・・・
『オス恐竜に首を食い千切られた・・・?』
と考えたが・・・
常識的に考え、
それは、無い・・・
子作り後に、メスを殺したら、
子孫を残せない。
つまり、メスを食い殺すオスなど、
存在しないのだ。
などと、考えてしまうが・・・
『そんな場合じゃない!』
この瞬間、僕は、ようやく、
現実が理解出来た。
メス恐竜が死んだのだ・・・
つまり、
『その胎内に居る僕も死ぬ・・・』
現在の千里眼では、数メートル範囲しか見えない。
これでは、次の身体を見つける事が出来ない。
『このままでは、再び、大災害が起こる・・・・』
そこで、考える・・・
『メス恐竜の死体を消費して、千里眼に使う!』
僕は、条件反射で、それを実行しようとした。
しかし、小さな疑問が、
それを止めた。
『メス恐竜が死んで、次の身体を捜すベキ状況・・・』
『その状況で・・・』
『なぜ、回復魔法が発動している・・・?』
『無意識は、なぜ、千里眼では無く・・・』
『回復を選んだ・・・・?』
現在も、回復魔法が、異常なレベルで発動している。
そして、気付く・・・
『まさか・・・』
『異常なレベルの回復魔法を使えば・・・』
『死んだメス恐竜が生き返るのか・・・?』
と思ったが、
『それは無い・・・』
死んだモノの回復など、無意味なのだ。
そんな事が出来るなら、
生前の僕は、死なずに済んだのだ。
だから、考えた。
では、僕は、何を回復させているのか・・・?
そして気付く・・・
『メス恐竜が死んで、何分だ・・・・?』
それでも、胎内の僕は、まだ生きているのか・・・?
『あっ!』
『僕だ!』
『僕の無意識は・・・』
『僕に回復魔法を、使っているんだ・・・・』
その瞬間、僕は、理解した・・・
なぜ、メス恐竜を殺した「何か」が居ないのか・・・?
なぜ、オス恐竜が居ないのか・・・?
その理由が解った。
僕の無意識が、それらを消費して、
『僕の回復に使っているんだ・・・』
しかし、回復を継続するには、
メス恐竜の身体は残す必要がある。
現在、僕は、メス恐竜の胎内に居る。
おそらく、まだ卵にも成っていない。
そんな状況で、メス恐竜の身体が無くなったら・・・
その胎内に居る僕も、被害を受ける。
だから、千里眼の強化は、発動しなかったのだ。
魔法の全てを回復に使い、僕を守っているのだ。
僕は、納得した。
しかし、
『この状況で回復を行う意味は・・・?』
『僕は、僕の為に、魔法を使えるのか・・・?』
現在、僕は、メス恐竜が死んだ状態で、
魔法を使っているのだ。
そして、この世界で、
それは、異常な事であった。
この世界では、
僕は、僕の為に、魔法を使う事が出来ないのだ。
理由は解らない・・・
しかし、僕は、誰かの為にしか、
魔法が、使えないのだ。
僕が、魔法で家族を守り、
家族が、僕を守る。
それを実現する為に、
僕の魔法は、発動していたのだ。
その為、僕が、実験的に魔法を使おうとしても、
魔法は、発動しなかったのだ。
それなのに今、
僕は、僕の為に、魔法を使っている・・・
そして、気付く・・・
原始人の母の胎内から、
メス恐竜の胎内へと移動した時も、
僕は、僕の為に、魔法を使った。
『死ぬ瞬間・・・非常事態・・・』
『その様な状況であれば・・・・』
『僕は、僕の為に魔法が使えるのか・・・?』
と考えた瞬間・・・
突然、回復魔法が途絶えた。
『しまった!』




