022
コマ回し教室が終了して、
帰宅すると・・・
教室で、もらったコマは、
当然の様に、没収された。
しかし、悲しくは無かった。
没収など、毎回の事である。
そんな事よりも、
今回、得たものは、大きかった。
この世界に、魔法の先生は、存在しない。
だから、僕には、先生がいない。
人に習う事など、あきらめていた。
ところが、先生は、いたのだ。
魔法は、使えないが、
教え方が、上手な人は、存在する。
その人の、教え方を学べば・・・
僕が、僕の先生に成って、
僕が、僕に、魔法を教える事が出来る。
つまり、僕の魔法は、成長するのだ。
大切なのは、
自分が、何をやってるのか。
それを、理解する事である。
それを、理解して、
どの様にすれば、出来るのか?
それを、開明するのだ。
その為に、必要なのは、考え出す力である。
偶然だって、コマは回る。
ヘタだって、コマは回る。
真似をすれば、コマは回る。
しかし、それでは駄目なのだ。
『なぜ、それが出来るのか?』
それを、考え、理解して、
実行して、再現する。
それが、自力で出来なければ、
新しいモノなど、生み出せない。
この世に、存在しない魔法を、
使う事など、不可能なのだ。
『では、考えよう・・・』
『どうすれば・・・』
『逆立ちコマの、逆立ちを・・・』
『阻止出来るのか・・・?』
この時から、僕は変わった。
幼稚な感覚で、理解するのでは無く。
具体的に、考える様に成ったのだ。
その為、
この日からの思考は、
現在の僕の記憶にも、残っている。
前日まで僕は、
『ばああああ、として、がああああと成る』
そんな風に、考えていた、
そんな感覚的な理解では、
翌日には、再現出来ないのだ。
自分は、何がしたいのか?
それは、どうすれば出来るのか?
なぜ失敗するのか?
何を改善すれば、良いのか?
この練習に、どの様な可能性があるのか?
なぜ、その様に、思うのか?
それが明確では無い限り、
やっても無駄なのだ。
大切のは、本当に可能な方法を、
実行する事である。
棒が倒れた方向に、歩いて行っても、
目的地には、到着しないのだ。
偶然に、期待しては、いけない。
偶然は、偶然であって、
実力ではない。
棒が倒れた先が、崖だったら、
飛び降りるのか?
偶然助かるかも、知れない。
しかし、僕なら、飛び降りない。
棒が倒れた先などには、進まない。
トイレに行きたいなら、トイレに向かう。
棒を倒している場合じゃ無い。
当然の事である。
そして、この当然が、重要である。
『では、なぜ・・・』
『逆立ちコマは、逆立ちをするのか・・・?』
逆立ちコマの本体は、球体である。
しかし、完全な球体ではない。
しかも、指で、ひねって回すのだ。
その結果、回転がブレる。
すると、その回転が、
棒を振り回す事に成る。
それが遠心力を生み、
球体であるコマは、
踏ん張る事が出来ず、横向きに成る。
そして、その時、棒の重さによって、
棒の先が、机に着く。
すると、棒と机に摩擦が生まれる。
そして、その一瞬の、摩擦によって、
コマは、つんのめる・・・
しかし、回転は続く。
結果、
棒1本の踏ん張りで、球体が持ち上げられる。
そして、棒が下、球体が上の状態で回転する。
その際にも、ブレは生じる。
しかし、
球体には、突起物が無い。
結果、振り回しが起こらないので、
回転が安定する。
その為、回転が弱まり、倒れるまで、
逆立ちコマは、逆立ち状態で回転する。
実際には、5時間ほど考えた。
当時5歳だったので、
ここまで明確な言葉で、考えた訳では無い。
しかし、可能な限り、
具体的な表現を使い、考えた。
自分自身に、何度も何度も、
説明と質問を繰り返し、
理屈の矛盾を探し、改善して考えた。
ラムネを食べ、
リビングを、ウロウロと歩き考え・・・
親に止められ。
寝転がり、ゴロゴロして考え・・・
親に止められ。
5時間、その様な事を、繰り返した。
親には、何度も注意された。
しかし、父も母も、僕が何を考えているのか、
それは解らない。
誰も、僕の考えを、
没収する事は、出来ないのだ。
だから、僕は、
逆立ちコマが、逆立ちをする仕組みを、
考える事が、出来たのだ。
そして、明日は、この続きから、
考える事が、出来るのだ。
翌日・・・
前日に考えた事で、
コマが逆立ちする仕組みは、理解出来た。
『では、あの日・・・ベッドの中で・・・』
『なぜ、逆立ちコマは・・・』
『逆立ちを、しなかったのか・・・?』
『なぜ逆立ちを、阻止出来たのか・・・?』
僕は、考えた。
残念ながら、答えは出ない。
ところが、その瞬間である・・・
僕は、直感した。
『今なら、出来る・・・』
この時、僕は、逆立ちコマの、
逆立ちを、阻止する方法・・・
それを、感覚的に、理解したのだ。
『言葉では、説明出来ない・・・』
しかし、今、この直感を信じれば、
『逆立ちコマの、逆立ちを阻止が出来る・・・』
僕は、それを確信した。




