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これは魔法の書です。  作者: わおん
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母と、その胎児である僕は、


牛の大地に来ていた。



乾燥室の試運転の為、


牛の調達に来たのだ。



しかし、それは、不可能に成った・・・



僕は、自分の死を直感した。



『僕の脳が機能を開始した・・・』


『脳型魔法が発動可能にまで、成長した・・・』



『つまり、僕は死ぬ・・・』



ついに、この時が来たのだ。



実の所、知っていた。



必ず死ぬと知っていた。



しかし、そのタイミングが解らなかった。



現在、僕と母は、牛の大地に居る。



父や祖母やタロが居るのは、


千数百キロ向こう側の、ネズミの拠点である。



ここで僕が死ねば、母は、


ハイエナの目の前で、放置される。



つまり、母は、食い殺されて死ぬのだ。



しかし、僕は、この状況を想定していた。



いずれ、必ず、


この様な、状況がやって来る。



僕は、母の死を覚悟していたのだ。



母の安全を考え、


ネズミの拠点に定住していた場合、



我々は、山菜も、木々も、魚も、


牛も、何もかも得られず、


飢えて死んでいたのだ。



それを回避するには、


母の命をかける以外に、方法が無かったのだ。



しかし、そのお陰で、


我々は、生き延びて来れたのだ。



そして、今、僕が死ぬ瞬間がやって来た。



僕は、自分に出来る事を知っていた。



選択支は2つあった。



1つは、母をネズミの拠点に、


送り届ける選択。



そして、もう1つは、


母を見殺しにする選択である。



あと数秒で、僕は死ぬ・・・


おそらく、意識を失う。



そして、僕の無意識が、


僕の魂を、別のどこかに、


瞬間移動させてしまう。



事実、5ヶ月前に、それが起こり、


大陸の東側が壊滅したのだ。



今回も、それと同じ事が、


再び、どこかで起こる・・・


多くの命が奪われる・・・



だから、僕は、その回避を選んだ。



つまり、母を見捨てるのだ。



始めから決めていたのだ。



本当は、母を助ける選択肢など、


存在しなかったのだ。



だから、僕は、自分がやるベキ事を実行した。



まず、見えない手で、


胎児である僕を包み込む。



この行為によって、


僕は、僕の成長を認識してしまい、


結果、脳が機能する事も、理解してしまう。



つまり、これを行う時、


それは、僕が死ぬ時なのだ。



もう、後戻りは出来ない。



僕は、胎児である自分の身体を消費しながら、


千里眼に意識を集中する。



結果、胎児である僕の肉体は、


少しずつ失われ・・・



その代わりに、千里眼が、


その能力を増して行く・・・



通常4キロ範囲・・・


それが、千里眼の限界だった。



しかし、今は、その先が見える。



牛の大地を見渡す・・・


全ての方向が、同時に見える・・・



200キロ先・・・



僕が探しているモノは、


そこにあった。



子作り中の、動物・・・


それは、恐竜だった。



南のジャングルを探せば、


原始人が見えるかも知れない。



しかし、子作りをしている保障は無い・・・


選択支は無かった。



胎児である僕の身体は、


もう残り少ない・・・



次の瞬間、僕は、


その残りの身体を全て消費すると、


母に感謝の気持ちを伝えた・・・



そして、僕は、僕魂を、


恐竜に向けて、瞬間移動させた。



『到着・・・?』


『成功した・・・?』



しかし、確認をしている場合では無い・・・



僕は、次の瞬間、再び瞬間移動を行った。



考えているヒマは無かった。



目の前に、原始人の母がいた・・・


そして、母は、腰を抜かした・・・



目の前の、突然、恐竜が現れたのだ。


当然の反応である。



しかし、そんな事は関係ない・・・


僕は、原始人の母と共に、


瞬間移動で、塩漬けポイントへ・・・



そこから、連続瞬間移動を使い、


ネズミの拠点に向かった。



『到着・・・!』



次の瞬間、僕は、素晴らしいモノを見た。



父が、条件反射で、僕に向かい槍を投げたのだ。



正確には、僕に向かって投げた訳ではない。



現在、僕は、メス恐竜の胎内にいる。



つまり、父は、突然現れた恐竜に向かって、


石槍を投げたのだ。



と同時に、タロが飛びかかって来た・・・



僕は、石槍と、タロを、移動魔法で、


元位置に戻した。



すると、父も祖母もタロも・・・


何かを理解した様である。



しかし、僕が、この場に居られるのは、


ここまでだった。



現在、僕は、メス恐竜の胎内に居るのだ。



そして、そのメス恐竜は、


目の前の原始人に襲いかかろうと、


必死である。



移動魔法で、それを止めるにも、限界であった。



このメス恐竜を、殺す訳には行かないのだ。



この恐竜が死ねば、僕も死ぬ・・・


毎回、子作りの瞬間を見つけられる保障は無い。



その場合、僕は意識を失い、


どこかの世界で大災害を起こす・・・



それを回避する必要があった。



この状況で、僕が話せるのは、タロだけである。



もう母とは、会話出来ない。



抱きしめれば、会話が出来るカモ知れないが、


現在、僕は、恐竜の胎内にいるので、


そんな事は、出来ない。



僕は、タロに、感謝の気持ちを伝えると、


瞬間移動で、元々、メス恐竜がいた場所に戻った。



そこは、草むらの中・・・


目の前に、恐竜が1頭いる。



おそらく、オス恐竜であり、


このメス恐竜のパートナーである。



と思った瞬間、


僕は、何も見えなく成った。



『間に合って良かった・・・』



僕は、その原因を理解した。



原始人の家族との、つながりが切れたのだ。


だから何も見えなく成ったのだ。



僕の魔法は、


「誰かの役に立ちたい」という思いで発動する。



5ヶ月前、小学5年生の僕は、死んだ・・・



しかし、その事実を知らない僕は、


魔法による回復を待った・・・



しかし、魔法は発動しなかった。



その段階で、僕は、


病院のベッドで寝ていると思っていた。



だから、天井を見る魔法を使ってみた。



すると、天井が見える・・・


ハズだった・・・



この段階で、僕は、まだ、


生前方式の魔法が使えたのだ。



つまり、実験的に魔法が使えたのだ。



ところが、その直後に問題が発生した。



僕は、魔法によって、1人の女性を、


植物人間にしてしまったと、


本気で思った。



その様に勘違いしたのだ。



僕は、魔法を使った事を


絶望的に後悔したのだ。



そして、その女性を回復させる為に、


必死に成った。



後悔はするが、必要でもある・・・



結果、この段階で、僕は、


生前方式の、遊び魔法を失った。



興味本意で、魔法を使う事を、


僕の無意識が禁止したのだ。



僕は、勘違いしていたのだ。



僕が千里眼を使った事で、


この女性を、植物人間にしてしまったと・・・



何としても、治療する必要があると・・・



魔法がバレる事など、関係ないと・・・



その結果、魔法が発動したのだ。



そして、その後、


その女性は、原始人であり、母であり、


狼に噛まれて発熱している事を知った。



しかし、今、僕は、


メス恐竜の胎内に居る。



『この恐竜が、新しい母だ・・・』


『大切な母だ・・・』



などと考えても、


それは、芝居である。



本気では無い・・・



結果、僕は、魔法が使えないのだ。



その為、現在、僕は、何も見えず、


何も出来ない・・・



ただ、存在するだけの魂である。



考え事しか出来ない・・・



原始人の母の事が気に成る・・・


突然、胎児を失ったのだ。



健康被害は無いのか・・・?


精神的被害は無いのか・・・?



『母を助けたい・・・』



僕は本気で、そう思った。



しかし、魔法は発動しない。



僕は、その理由を考えた。



おそらく、僕が生きる上で、



『原始人の家族は、必要無く成ったから・・・』



現在、僕は、恐竜の胎内に居る。



つまり、その僕が生きる上で、


もう、原始人の家族は不要なのだ。



原始人の家族が死んでも、


現在の僕が、困る事は無い・・・



それが事実であり、


それが、魔法が発動しない理由だと考えられた。



魔法は残酷なのだ。



『誰かの為に発動する・・・』


『その誰かは、僕が生きる上で必要な誰か・・・』


『その誰かを守る為に、魔法は発動する・・・』



結局、僕は、僕が生き延びる手段として、


魔法を発動させ、家族を守っていたのだ。



『これから、どうする・・・?』



何か、少しでも見えれば、


このメス恐竜にも感情移入出来て、


『この恐竜を助けたい・・・』と


本気で思える可能性はある。



しかし、何も見えない現在、



この恐竜に対して、


特別な感情など持てない。



必死に気持ちを盛上げても、


それは芝居であり、


魔法は発動しなかった。



『では、どうする・・・?』


『この状況で、何が困る・・・?』



そして、気付く・・・



『このままでは、危険だ・・・』


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