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僕が、やるべき仕事・・・
それは、僕にしか出来ない仕事・・・
僕が死ぬ前に、
用意する必要があるモノ・・・
その1つが、森の木々である。
牛は必要だが、現在の環境では、
エサ不足で、数ヵ月後には死んでしまう。
つまり、牛よりも先に、
環境を完成させる必要があるのだ。
その為、
山菜森に行って、木の新芽を探す。
季節は春直前、
木の枝の先から、
新しい芽が出ている。
それを切り取る。
長さは、10センチ程度、
先の葉っぱを、
2枚だけ残し、
それを水栽培する。
すると、木の種類によっては、
1週間程度で根が出て来る。
それが、苗木に成る。
生前、祖父の手伝いをした経験があるので、
僕は、それを知っていた。
しかし、
『この世界でも、それは可能なのか・・・?』
今日の目標は、千本、
様々な木から、新芽を集め、
母のリュックに移動させる。
その後、
1番川の近くにある、バケツ置き場に移動。
通常、苗作りは、
コップ1つに対して、
新芽1本を入れるのだが、
今回は、10個のバケツに、
約千本の新芽を分散して入れ、
そこに水を注ぎ、
水栽培を開始する。
しかし、その量が多過ぎて入らない。
仕方が無いので、それぞれのバケツには、
50本ずつ入れた。
非常に雑な仕事に見える。
しかし、水栽培では、
根が出ない品種もある。
つまり、千本集めても、
それが、根を出す保障は無いのだ。
そこで、今回の目的は、
根を出す、品種を見つける事である。
バケツの中の新芽に、
成長魔法を送る。
成長魔法など、実在するのか・・・?
そんな事は解らない。
しかし、1番川の近くに埋めた芋やドングリは、
通常では考えられないスピードで、成長している。
つまり、成長魔法は存在するハズなのだ。
バケツに向けて、成長魔法を送り続けて、
1時間後・・・
バケツ内を千里眼で確認、
枝に、白い斑点が出ている・・・
2時間後・・・
白い斑点が伸び、
長さ1センチ程度の根に成っていた。
『しかも、全て・・・・』
驚いた事に、
全ての新芽に根が出来ていた。
成長が早いのは、
魔法の効果である。
しかし、全ての品種が、
根を出した・・・
これは、この地域の品種が、
全て、水栽培で増やせる品種だったのか・・・?
『それとも、魔法の効果なのか・・・?』
時間があれば、魔法を使わない水栽培を行い、
確認出来るのだが、
そんな時間は、無駄である。
僕が、津波で壊滅させた東海岸・・・
つまり、3人山脈と、ネズミの森の木々を、
この新芽で、再生させて行くのだ。
ネズミの森だけでも、
南北に数千キロ・・・
東西に約200キロ・・・
『間に合うのか・・・』
バケツによる水栽培開始から、
3時間・・・
僕は、ネズミの森の、枯れた木を抜いて、
その穴を埋め、平らな地面にして、
新芽から作った全長12センチ程度の、
苗木を、植えて行く・・・
生前、テレビで見た事があった。
森林伐採によって、
森の湧き水が枯れてしまったのだ。
つまり、このまま、
枯れたままの、ネズミの森を放置した場合、
1番川、2番川、本川、湿地川、
これらの川が枯れてしまうのだ。
今は、山の雪解け水が、
川に流れて来ている。
しかし、今後、
春が終わった段階で、
雪解け水は、ストップする。
つまり、夏に成れば、
川の水が枯れてしまうのだ。
それを防ぐ為には、
山や森に木を増やし、
地面の保水力を向上させ、
水分豊富な土地にする必要がある。
そして、もう1つ・・・
気になる記憶があった。
それもまた、生前の記憶であった。
『山の天気は変わりやすい・・・』
昔から、その様な事は、
日常的に聞いていた。
僕は、その理由を、
生前の祖父に聞いた事があった。
木には、保水力がある。
また、落ち葉も水分を含む。
結果、山の土は、水分を含む。
つまり、山には、水分が多い。
山に霧が多いのは、それが理由である。
そして、その水分は、蒸発する・・・
すると、その水分は、上空の雲と、
1つに成る。
結果、雲は、重く成り・・・
それが雨と成って落ちてくる・・・
だから、山には雨が多い。
当時の僕は、
そんな話を、信じる事が出来なかった。
しかし、3人山脈と、
ネズミの森を足した数千キロ範囲であれば、
この現象が本当に起こるのでは・・・?
その様に感じられる。
それを踏まえて・・・
現在、山脈にも森にも、木々は無い・・・
つまり、水蒸気は発生していない。
その為、小さな雲の場合、
その雲は、雨には成らず、
3人山脈を、素通りしてしまう。
つまり、木を失った、3人山脈には、
今後、台風の様な大雨しか降らず、
日常レベルの雨は降らない・・・
結果、水害は起きるが、水不足・・・
我々が必要とする川の水は、
夏前には、枯れてしまうのだ。
僕は、水不足が来るのは、
秋だと予想していた。
しかし、山に木が無い現在、
その危機は、夏にやって来るのだ。
『実際、もう手遅れなのかも知れない・・・』
『時間を無駄には出来ない・・・・』
僕は、ネズミの森の、枯れた巨木を、
瞬間移動で、
枯れた大地の北側、
通称、木材置き場に送り、
巨木が無くなった場所に、
周囲の土を入れ、
そこに苗木を植えて行った。
『駄目だ・・・!』
『効率が悪過ぎる・・・』




