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魔法を使えば、
枯れた大地の牧草地に、
牛を連れて来る事は、簡単である。
しかし、僕が死んだ後、
牧草を、どうするか・・・?
水不足を、どうするか・・・?
そして、最大の問題は、
牛を狩る方法である。
最初の1頭を、殺せば、
その後、牛は、原始人を恐れ逃げる。
それを、どの様にして、狩れば良いのか・・・?
考えが、まとまらないと、
ありえない事を、
本気で考え始める。
僕が生きている間に・・・
『牛の初期メンバーを賢くする・・・』
『タロと同様に賢く成ってもらう・・・』
『そう成れば、呼べば来てくれる・・・』
『追いかけて、狩る必要は、無く成る・・・』
『それを・・・殺して・・・食べる・・・?』
と考えて、
僕は、我に返った。
『タロの様に賢い牛を、殺せる訳が無い・・・』
祖母を気づかって、荷物を運んでくれる牛・・・
川の水を汚さない様に、
下流に水を飲みに行く牛・・・
そんな牛を、殺して食べる事など出来ない・・・
つまり、牛には・・・家畜には、
無知なまま、育ってもらう必要がある。
『なんて残酷なんだ・・・』
しかし、家族の健康を考えた場合、
肉は必要に思う。
もちろん、タロには、
肉が絶対に必要である。
その為、タロ用に、
塩無しの乾燥肉も作っている。
しかし、その肝心な牛を、
狩る方法が解らない・・・
原始人の脚では、追いつけないのだ。
では、どうすれば良いのか・・・?
そこで考えたのが、
今年食べる4頭だけを、
小屋で飼う方法であった。
若い牛16頭には、
牧草地で自由に生きてもらう。
そして、それとは別に、
大人のメス牛4頭には、
僕が魔法で作る丈夫な小屋・・・
つまり、牛舎で生活してもらう。
生前の記憶では、
高級和牛は、タタミの上で育てる・・・
1メートル歩かせると、
肉の価値が下がる・・・
その様な話を聞いた事がある。
それが、どこまで本当なのか・・・?
今と成っては、解らないが、
これが事実なら、
水とエサを与え、
糞尿の始末をすれば、
牛1頭を、軽トラック1台程度の面積で、
飼育出来る。
『これは、名案なのでは・・・?』
僕は、その様に思い、
製作を開始した。
まず、牛が寝れる面積、
それを、地面に線で引く。
以前は、母にお願いしていたが、
今では、移動魔法で、
それが可能に成っていた。
結果、地面に、
縦3メートル、
横2メートルセンチの、
長方形が描けた。
次に、地面に描いた線の上に、
直径30センチの木を、
瞬間移動させ柱にする。
その数6本・・・
これにより、
サイコロの6の目の様に、
柱が建った。
この柱は、地上2メートル、
地面には、3メートル埋まっているので、
倒れる事は無い。
次に、直径10センチの横木を用意して、
柱に瞬間移動させる。
結果、柱に横穴が開いて、
横棒が通った状態に成った。
横棒の数は各面4本、
簡単にいえば、
牛が突破出来ない、木製のオリを作ったのだ。
これを、合計4つ、
それぞれに、糞尿を流す、ミゾを掘る。
次に、巨木を使って、
牛の水飲みオケを4つ作った。
割れない様に、粘土で補強して、
魔法で固める。
重たく成るが、
バケツとは違い、
手で持って運ぶ訳ではない。
その為、可能な限り丈夫に作った。
そして、気付く・・・
『オリも、強化しよう・・・』
次の瞬間、
オリの木と、
用意した粘土・・・
それらが融合して、
丈夫な何かに成って行く・・・
『こんな事も出来るのか・・・』
僕は、魔法の進歩に驚いた。
しかし・・・
この「オリ」も「水飲みオケ」も、
僕が死んだ後、
父と祖母が協力しても、
作る事は不可能である。
『何年で壊れる・・・?』
『その時、家族は、困るのか・・・?』
それとも、別の方法で解決出来るのか・・・?
そして気づく・・・
このオリに牛を入れる為には、
瞬間移動が必要である。
そして、野生の牛を、オリに入れた場合、
暴れる危険性があった。
野生のスズメを、カゴに入れると、
死ぬまで暴れる・・・
生前、その様な話を聞いた事があった。
それが事実かどうか・・・?
それは解らない。
そして、牛の場合、
どう成るかも解らない・・・
しかし、牛がケガをした場合、
僕が魔法を使う事に成る。
その可能性は、充分にあった。
すると、牛は、賢く成る。
『失敗だ・・・』
現在、母は、妊娠4ヶ月・・・
原始人の妊娠期間は解らないが、
後、数ヶ月で僕は産まれる。
そして、その時、僕は、
死んでしまう可能性がある。
だから、残り数ヶ月の間に、
出来る限りの環境を、
作って残す必要があった。
しかし、それには、条件がある。
父や祖母が、受け継げるモノを残す・・・
今回の様な、
牛用のオリは、
魔法が無いと作れない。
柱1本が、
長さ5メートル、
直径30センチあるのだ。
父と祖母が、
運んで来る事は、
ほぼ不可能である。
だから、これまでは、
この様なモノは、作らない様にしていた。
その為、土器を作る為の、
純度の高い、粘土をあきらめ、
父や祖母が自力で作れる様に、
ワラ粘土での「かまど」や「レンガ」を採用した。
そんな中、
僕は、単純な思い付きを、
名案と思い込み、
牛用のオリを、
作ってしまったのだ。
『父や祖母が見たら、何と思うだろうか・・・?』
『これを見たら・・・』
『父や祖母は、自分を無力だと考えるのでは・・・?』
僕が作った、このオリは、
父や祖母の努力を、侮辱するモノであった。
しかし、時間が無かった。
この広大な大地を逃げ回る牛・・・
それを、狩る事など、不可能なのだ。
魔法があれば、簡単に解決する。
しかし、その魔法を使う僕は、
後、数ヶ月で死んでしまうかも知れない・・・
僕は、無力だった。
とにかく、僕は、あせっていた。
時間が無いのだ。
やるベキ事は、沢山ある。
しかし、どれも、問題点があり、
結果が出るのは、
僕が死んだ後に成る。
その為、安易には、実行出来ない。
『未来が知りたい・・・』
だが、未来を知る事は出来なかった。
結局は、仕方が無いのだ・・・
僕は、問題点には目をつむり、
やるべき事を、開始した。




