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今日は、乾燥室を作る日である。
日干しレンガが完成したのだ。
この数日、祖母のアイデアを聞いて、
全員が納得していた。
レンガのサイズは
おおよそ、
縦20センチ
横10センチ
厚さ5センチ
接着はせずに、素組で行う。
まず、地面3メートル四方に、
レンガが並べ、床を作る。
その床に、レンガを積み重ね、
高さ30センチ、
長さ2メートルの壁を1枚作る。
その横、18センチの位置に、
もう1枚壁を作る。
結果、上から見ると、
ノートに2本の縦線を、
引いた様になる。
その後、その線が8本に成った。
結果、横から見ると、
幅18センチの、
レンガ作りの通路が、
7本出来た。
祖母には、何センチなどは解らないが、
レンガのサイズを元に、
枝で長さをはかり、
それを基準にレンガの位置を決めた。
次に、その上にレンガを
敷き詰めて行く。
結果、3メートル四方の床の上に、
広さ2メートル四方
高さ35センチの、
テーブルが出来た。
結果、テーブルの下は、
レンガのトンネルと成っている。
そして、この段階で、7本のトンネルに、
枝を入れ、火を着けた。
レンガの耐火実験である。
途中、枝を3回追加した。
およそ、1時間経過、
レンガは無事である。
そして、このレンガテーブルを
翌日まで放置する。
これで割れる様なら、使えない。
この続きを作っても無駄である。
本当なら、今すぐに、
続きを作りたい。
しかし、祖母は、それをしない。
『凄い自制心だ・・・』
現代の人間であっても、
乾くまで待つ、
固まるまで待つ、
翌日まで待つ、
その単純な事が出来ず、
どれだけの失敗が、
繰り返されて、いるだろうか・・・?
実際、父は、続きが作りたくて、
「うずうず」している。
母は、僕の影響を受けているので、
それを自制心と呼べるかは不明だが、
手伝いはするが、
提案は行わない。
これは、父と祖母を成長させる為に、
行われている。
その事を充分に理解しているのだ。
そんな中、
祖母が、父に「かまど」作りを指示した。
父は、喜んで作り始める。
とはいっても、
それは「かまど」では無い、
「かまどサイズ」の、
干し肉用の、保存庫を作るのだ。
僕が魔法を使えば、
上質な粘土は、簡単に出来る。
本来は、それで、干し肉用の保存ツボを、
作る予定だったのだ。
しかし、僕が居なく成ったら、
そんな粘土は、手に入らない。
僕が、作り残した粘土など、
将来的に無くなってしまう。
山に入り、
粘土地層を探し当てれば、
上質な粘土が、手に入る可能性はあるが、
その保障は無い。
つまり、祖母は、
僕の意図を理解しているのだ。
魔法に、たよらない技術・・・
それが必要に成る。
だから、
僕に粘土を作ってくれとは、言わない。
結果、祖母は、以前作った土器には、
興味を示さなかった。
魔法が無ければ作れない粘土、
そんな粘土を使う、土器の作り方など、
覚えても無駄なのだ。
次の世代に残せないのだ。
この環境で、次の世代など、無理があるが、
それでも、受け継げない便利など、
無駄な技術なのだ。
その為、祖母は、
自分で、土器の代用品を考えた。
それが「かまど」の作り方を応用した、
干し肉用保存庫だったのだ。
「かまど」や「レンガ」は
不純物の入った粘土質の土でも、作る事が出来る。
実際、ワラや灰を入れているのだ。
上質な粘土とは、全く違う。
祖母の指示を聞きながら、
父は作業を始めた。
もちろん、祖母も手伝う。
森の近く、日当たりの悪い地面に、
レンガを並べて床を作る。
そこにレンガとワラ粘土で、
壷の代用品を作るのだ。
直径、30センチ、高さ40センチ、
これを10個作った。
地面から生えた煙突・・・
その様なモノであった。
その後、父は、
直径30センチのフタを、
ワラ粘土で作った。
翌日・・・
昨日の、レンガテーブルの様子を見る。
『割れていない・・・』
『上手く行き過ぎている・・・?』
『僕の魔法が作用しているのでは・・・?』
成功している事は、
喜ばしい事だが、
この成功が、技術的な成果なのか・・・?
それとも、魔法の効果なのか・・・?
『僕が居なく成った後・・・』
『これと同じモノが作れるのか・・・?』
正直不安だった。
人間が、誇らしく生きるには、
魔法は邪魔なのだ。
『魔法使いは、居ない方が良い・・・』
僕は、その様に感じた。
とはいっても、
今日も、仕事を続ける。
まず、レンガテーブルの上に、
レンガで壁を作る。
テーブルの広さは、およそ2メートル四方、
今日は、その上にレンガの小屋を建てるのだ。
ワラ粘土で、レンガを接着しながら積み上げて行く。
結果、テーブルの上に、高さ50センチ、
広さ180センチ四方の小屋が出来た。
小屋といっても
入口も窓も無い、
4方向全てが壁である。
そして天井が無い。
つまり、レンガで作った風呂の様なモノ・・・
実際、その下は、
枝を入れ燃やす構造に成っている。
もちろん、水を入れれば、
漏れるだろうが、
現代人が見たら、
レンガ風呂に見えるだろう。
では、次である。
父と祖母は、
細い木を集める。
直径2センチ、
長さ2メートル以上、
枝は切り落とし、
それらを棒にして、
イカダを作り始めた。
これが、通称・レンガ風呂のフタに成る。
その後、
僕が狩ってきた牛を、
父が解体して、スライス肉にする。
それに塩をかけ、
イカダに並べる。
イカダは3つある。
まず、その1つを、
通称・レンガ風呂に乗せる。
そして、レンガトンネルに、枝を入れ、
火を着ける。
『一体、どうなるのか・・・?』
レンガトンネルは7本、
それぞれに枝が入れられ、
燃えている。
そして、その構造上、
風の影響で、
その火力は増す。
結果、元テーブルは熱せられ、
通称・レンガ風呂は、
空焚き状態で、高温に成る。
しかし、肉を焼く程、熱くも無い。
結果、イカダに乗せた肉も、
焼けてはいない。
祖母の狙いは、それであった。
焼いた肉は、脂が分離して、
「べちゃべちゃ」に成って、
保存が出来ない。
しかし、この構造であれば、
肉を焼く事無く、
下からの熱と、
上からの天日で、
効率良く、乾燥させる事が出来るのだ。
全ては、祖母の考えだった。
祖母は、現代人とは違い、
参考にする何か・・・
その何かが無い。
例えば、僕は、風呂を知っている。
だから、僕は、
この乾燥器を、
レンガ風呂と呼んでいる。
しかし、祖母は、風呂を知らない。
レンガ小屋だって知らない。
レンガのトンネルが、
火力を増加させる構造である事も、
祖母は、自分で考えたのだ。
以前、燻製を作った時、
地面に穴を掘り、
枝を入れ火を着け、
丸太でフタをして、
その上に、イカダ小屋を乗せた。
これは、僕が考えたモノだった。
途中で、枝の補給が出来ないし、
火力の調節も出来ない。
つまりは、失敗作であった。
そして、祖母は、
その失敗を元に、
試行錯誤して、
「火着ける、息、吹く」
「風ある、火、元気成る」
と考え、
それを実現させる構造として、
レンガトンネルを考え、
その火力を、乾燥に使う為、
レンガテーブルを考えた。
しかし、それでは、肉が焼ける・・・
そこで、屋根の無い、
レンガ小屋を考えたのだ。
そして、祖母は、日干しレンガ作りの合間に、
実験を繰り返し。
本日、それを実用させたのだ。
『天才だ・・・』
僕は、素直に、そう思った。
祖母の判断で、
1つ目のイカダを下ろす。
そして、そのイカダは、
地面に寝かせた2本の丸太の上に、
橋をかける様に置いた。
これによって、
風と、天日による乾燥が継続出来る。
そして、レンガ風呂に2つ目のイカダを乗せる。
後は、この繰り返しで、
5回ローテーションさせた。
時間にして、6時間、
乾燥肉の完成である。
冬場は、肉が腐らないという理由で、
1週間放置して、干して作っていたが、
夏場は、そうは行かない。
しかし、6時間であれば、
夏場でも、実用に耐える。
後は、湿地川の北側に、
乾燥室を、数台建造して、
3ヶ月に1度、フル回転させれば良いのだ。




