021
幼稚園児の僕が、小学生の女子に、
コマ回しを教える・・・
当時の僕には、それは、恥ずかしい事だった。
しかし、彼女の頑張る姿を、見ていると、
助ける必要性を感じた。
『では、どうするか・・・?』
僕は、コマに、ヒモを巻くと、
彼女の方を見て、心で叫んだ・・・
『見て!!!!!』
偶然だと思う。
その瞬間、彼女が、僕の方を見た。
そこで、僕は左手を、彼女に見せる。
彼女は、キョトンとしている。
僕は、左手で、自分の口をふさぎ、
アゴを引く。
頭が動かない事を、見せる。
そして、ゆっくりと、コマを回す動作を見せる。
水平移動が、重要である事を、強調する。
そして回す。
しばしの沈黙・・・・・
僕は、あえて目線を反らし、
その後は、彼女の方を、見ない様にした。
しばらくすると
視界の片隅で、彼女が、コマを回していた。
『よし・・・!』
では、次である。
豆腐工場の息子は、明らかに間違っていた。
手の力を、使っているのだ。
コマに、ヒモを引っ掛け、引っ張り上げる。
それを、手の力で行う事は、困難である。
左右の手の力が違うのだ。
結果、斜めに上がってしまう。
それを水平にしようと、
手首を動かしてしまう。
すると、不自然な、瞬発力がかかり、
コマが、バランスを失う。
『では、どうするか・・・?』
『どこを、改善すれば、良いのか・・・?』
僕は、酒屋さんを、観察した。
酒屋さんは、コマを回した後、
ヒモの両端を持ち、しゃがむ、
そして、コマの向こう側に、ヒモをたらす。
右手を、時計回りに動かし、
コマの回りを、1周させる。
これによって、床にヒモで輪を作る。
結果、その輪の中で、
コマが回っている状態に成る。
左手の位置と、コマの位置と、右手の位置を、
一直線にする。
輪のサイズを1センチ程度にする。
次の瞬間、手と腕は、固定したまま、
勢いをつけず、真っ直ぐ立ち上がる。
すると、回転したコマが垂直に飛び上がる。
それを、左の、手の平で受ける。
『なるほど・・・』
僕は、タイミングを待った。
しばらくすると、
誰かが、酒屋さんに話しかけた。
酒屋さんが、雑談を開始・・・
それに釣られ、彼の練習が一旦止まる。
『今だ!・・・』
僕は、心の中で叫んだ・・・
『コッチ見て!!!!』
本当に偶然なのだろうか・・・?
彼がコチラを見た。
そこで、僕は、芝居を始めた。
幼稚園児の僕が・・・
彼の動きを参考に、練習をしている・・・
その様な芝居である。
僕は、コマを回した。
そして、自分の太ももを、パンパンと叩き、
コマの前に、しゃがむ。
右手を一周させ、ヒモで輪を作る。
その輪の中で、コマが回っている。
大袈裟な目視で、左手、コマ、右手の、一直線を強調。
腕を、あえてガッチガッチに構えて、固定する。
そして、真っ直ぐ立ち上がる。
すると、コマは、垂直に飛び上がった。
しかし、飛ぶのは、少しだけ・・・・
手の平でも受けない。
「あ・・・失敗・・・・」
僕は、1度の失敗で、挫折した幼児・・・
それを演じた。
これを見て、理解してくれる事を、
祈るばかりである。
これ以上やると、
僕が、教えている事が、バレてしまう。
だから、僕には、もう、
これ以上の事は、出来ない。
それに、僕だって、練習がしたい。
普段、僕が、何かを練習すると、
その全ては、母に、没収されるのだ。
しかし、今は違う、今日だけは、
この時だけは、特別に、練習が出来るのだ。
『このチャンスを、使わない手は無い・・・』
僕は、母の様子を確認、
母は、話に夢中である。
『チャンス!』
僕は、コマにヒマを巻きながら、トイレに向かう。
トイレに行くと、周囲に、誰もいない事を確認。
個室には入らず、
水道前の、広いスペースに立つ。
そして僕は、あえて、
左足前で立ち、コマを持った右手を、
4時の方向に振り下げる。
高さは肩の位置。
そして、左の、手の平を、前方に差し出して、
位置を確認。
左手の高さは、胸の位置。
左足の真上。
その位置を記憶すると、
左手を下ろす。
右手の水平移動を開始。
水平に振り出された右手が、
左肩の位置を通過する。
そのタイミングで、コマを持つ手を離す。
と、同時に、4時方向に、ヒモを引く。
と、同時に、左の、手の平を、前方へと差し出す。
次の瞬間、僕の左手の上で、コマが回っていた。
『どこからが、魔法なのか・・・?』
それは、解らないが、
幼児の僕が、一発で成功したのは、不自然である。
つまり、この成功は、
魔法の影響であると、考えられた。
その事に、気分を良くした僕が、体育館に戻ると、
豆腐工場の息子が。手の平の上で、コマを回し、
ヒーローに成っていた。
『良かった・・・』
上手く行ったのだ。