207
その日も早朝から、
父と祖母を残し、
我々は、山菜森に向かった。
その先にある、通称・狼山で、
タロは芋を探し、
母は山菜を探し、
僕は、それを瞬間移動で、
リュックとバケツに回収する。
そして、山中に、
ある程度の、空きスペースを見つけると、
その周囲から、高さ2メートル程の木を選ぶ。
このサイズが、とても重要である。
その木を、数メートル上に、
瞬間移動、
枝を痛めない様に、
移動魔法で、空きスペースに寝かせ、
それを、瞬間移動で、
1番湿地帯に、送り届ける。
先日、直径30センチの木を集めた時は、
地面に寝かせた段階で、枝が折れ・・・
1番湿地帯に瞬間移動した段階でも、
さらに、枝が折れる事があった。
実際、その程度で、
木が枯れる事は、無いと思う・・・
しかし、魔法使いである僕が、
枝の折れた木を見る事で、
何が起きるのか・・・?
僕の無意識が、
過剰な回復魔法を送るのでは・・・?
その結果、僕の魔法は進歩して、
驚異の回復魔法を、
修得してしまうのでは・・・?
その結果、僕の魔法が、家族を、
不老不死にしてしうまのでは・・・?
その様な不安があったので、
今回は、まだ若く、成長途中の、
高さ2メートルの木を選ぶ事にした。
これであれば、
直径3センチ程度の軽い木である。
その為、枝が折れる事は少ない。
また、このサイズの木であれば、
この木を抜いた跡を埋める必要も無い。
作業が順調に進んで行く・・・
ところが、
『あっ!』
その時、僕の千里眼・・・?
千里眼と呼ぶのか・・・?
『これはセンサーなのか・・・?』
柴狼の接近に気付いた。
『では、逃げよう・・・』
しかし、である・・・
その瞬間、僕は、疑問を感じた。
『森の中で、瞬間移動・・・?』
これまで、何回も行っている。
そして、今回も、50メートル先を、
見えない手で確認して、
安全な到着ポイントを選んだ。
そして、瞬間移動を行った。
当然の様に出来た・・・
しかし、それが疑問を生んだ。
我々は、木々が立ち並ぶ中を、
瞬間移動で通過したのだ。
ところが、我々の通過点にあった木々は、
無事だった。
僕は、その事を、不思議に感じた。
『以前、石を移動させた場合・・・』
『なぜ、木に穴が空いた・・・?』
なぜ、今回、我々が移動しても、
『穴が空かない・・・?』
などと、考えながら、
連続瞬間移動を使い、
2キロ移動した。
通常、瞬間移動は、到着ポイントの、
安全確認が必要な為、
300メートル刻みで、移動する必要がある。
結果、300メートルごとに、
我々の匂いが残ってしまう。
しかし、この連続瞬間移動を行えば、
300メートル先の安全確認と、
さらに、その300メートル先の、
安全確認を行う事で、
1度も止まらず、何キロでも進む事が出来る。
結果、その間に、我々の匂いは残らない。
後は、安全な場所で、作業を続け、
狼が接近したら、再び逃げるを、繰り返した。
結果、リュックが、芋で一杯に成った。
そこで、タロに感謝の気持ちを伝え、
父と祖母が働く、乾燥室建設予定地に戻った。
僕たちが戻ると、
父と祖母は、誇らしげに、こちらを見た。
その光景を見た瞬間・・・
正直、笑う他なかった・・・
母が笑い、
それを見て、父と祖母も
うれしそうに、笑った。
地面が、乾燥中のレンガで、
埋め尽くされていたのだ。
父が、ワラ粘土をこね、
祖母が、ワラ粘土を型に入れ、
それを抜いて、乾燥させる・・・
それが、地面に数百個、並んでいた。
『速すぎる・・・』
『なぜ、こんなに作れた・・・?』
異常なまでの効率化・・・
無駄の無い動き・・・
それが大量生産を、可能にしていた。
生前、テレビで、
スタンプを押すのが、
異常に早い事務員さんや、
商品の梱包が、
異常に早いパートさんを、
見た事があった。
その人達は、
アスリートでは無い・・・
普通の人である。
しかし、同じ仕事を、毎日繰り返した結果、
無駄な動きが排除され、
普通に行っている作業が、
効率化され、
異常なスピードに達したのだ。
では、
『無駄な動きとは何か・・・?』
『無駄な動きを無くす為には・・・』
『何が必要だ・・・?』
僕は、考えた・・・
『仕事中、考え事をしない・・・』
『次の動作を考えない・・・』
『身体が勝手に動く・・・』
僕は、思い出した。
『靴ヒモ・・・』
生前、僕は、
スニーカーのヒモをに、苦戦した経験があった。
母に教えられた通りに、
実行するのだが・・・
それが出来ない・・・
「蝶結び」は完成するのだが、
直ぐに、ゆるんで、ほどけてしまう。
理由は、言葉で表現出来ない部分・・・
その微妙な加減が、必要なのだ。
では、なぜ、
蝶結びが出来る様に、成ったのか・・・?
毎日、続けたのだ。
結果、コツをつかんだ。
他人の言葉では通じない感覚、
それを修得したのだ。
つまり、
『経験が、無駄の動きを無くし・・・』
『効率の良い動きを生む・・・』
では・・・?
『父と祖母は・・・なぜ・・・?』
『なぜ2日で、それを修得した・・・?』
最近、僕の魔法は、
驚異的に進歩する。
おそらく、その影響が、
父と祖母にも、作用しているのだ。
父も祖母も、毎晩、回復魔法を受けている。
それが、2人に、影響を与えているのだ。
『大丈夫なのか・・・?』
正直、不安に成った。
具体的に、何が問題なのか・・・?
仕事の効率が上がって、
困る事は無い。
しかし、父も祖母も、
本来は、ある意味「普通の人」なのだ。
それが、僕の魔法の影響で、
異常な成長をしている・・・
『これによって、健康被害があるのでは・・・?』
『精神的被害は出ないのか・・・?』
『将来、どう成ってしまう・・・?』
などと考えながらも、
僕は、父と祖母に感謝の気持ちを伝え。
2人に回復魔法を行った。
『何とかして、未来を知る必要がある・・・』
僕は、本気で、そう思ったが、
その方法が全く解らなかった。
その後、父と祖母は、
レンガ作りを継続、
タロは、その2人の警備、
僕と母は、ネズミの森の塩分除去を行い、
芋、山菜、木を植えた。




