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現在、僕は、タロの将来に関して、悩んでいる。
生き物は、子孫を残す・・・
『それに一体、何の意味があるのか・・・?』
『なぜ、生き物が存在するのか・・・?』
そんな事は、解らない、
しかし、生き物は子孫を残す。
だから我々は存在する。
それを踏まえ・・・
タロがペットであるなら、
子孫など必要無い。
我々が、満足する為に、飼育しているのだから、
無理に子供を増やす事は無い。
増えれば、その分、食料の確保が必要に成る。
しかし、タロは、家族である・・・
あるいは、我々の村に住む、
住人だと考えた場合。
我々の権利で、
『一生独身』を強制するのは、
問題である。
『生き延びる・・・という事は・・・』
『子孫を残す・・・という事である・・・』
『子孫を残さない・・・という事は・・・』
『死に絶える・・・という事である・・・』
『死ねば、そこで、希望は断たれるのだ・・・』
『その先は、存在しないのだ・・・・』
『それで良いのか・・・?』
『死んだら、そこで終わり・・・』
『死んだら、後の事など、関係無い・・・』
この考えは、間違いでは無い・・・
しかし、現実的に考えた場合、
『死んでも、そこで終わりでは無い・・・』
残される者がいる。
もし、僕が死んでも、
家族は生きている。
だから、僕は今、
僕の魔法が無くても、
家族が生きていける環境を、作っているのだ。
それを踏まえて・・・
タロは、必要な存在である。
臭いで、芋を探せる、唯一の存在である。
僕の死後、想定外の問題が発生した場合には、
その能力が、必要に成る。
つまり、タロ死んだ場合・・・
家族が、困るのだ。
タロは、それを理解出来る知能を持っている。
将来、死ぬ事は避けられない・・・
死は、必ずやって来る・・・
しかし、その時、自分に子供がいて、
自分の仕事を、子供が受継ぐ・・・
『この子が居るなら、大丈夫・・・』
そう考え、安心して死ねる・・・
この世界で、子供とは、
その様な存在である。
子供は、残された家族を守る希望なのだ。
そして、考える・・・
僕が死に、タロが死に、祖母が死んだ場合・・・
残された、父と母と、その子供は・・・
生きて行けるのか・・・?
それは、本当に、生きていると、
言えるのか・・・?
『死ぬ日を、待っているだけ・・・』
そう成る可能性は充分にあった。
では、どの様にして、
生きて行けば良いのか・・・?
『生きる方法・・・』
僕は、その方法に、心当たりがあった。
南のジャングル・・・
そこには、原始人がいる。
通称、南原人、
その姿を見た訳では無いが、
弓矢を飛ばせるのだから、
それは原始人で間違い無いと思う。
南のジャングルと、
3人山脈では、
環境が違う・・・
その為、おそらく、我々とは、
別の進化をとげた種族である。
しかし、
犬の理屈で考えれば、
南原人と、我々原人の間にも、
子供は作れる・・・
その可能性が、少しある・・・
『子孫を残せるのか・・・?』
『確かめるベキなのか・・・』
『確かめた先に、何が待っている・・・?』
その原始人が、友好的である保障は無い・・・
僕が居れば、
僕の魔法を誇示する事で、
我々は、南原人の支配者に成れる。
しかし、僕が死んだ場合・・・
『その後、どう成る・・・』
それを考えた場合、
力で支配する事は困難である。
では、支配は行わず・・・
『我々が友好的に、近付いた場合・・・』
それも、やはり同じ事である。
僕には、魔法がある。
それは便利な力である。
魔法は秘密には出来ない。
回復魔法が、僕の半径6メートル範囲で、
作用してしまう。
だから、僕が生きている間、
我々は優遇される。
しかし、僕が死んだ場合・・・
『その時、家族はどう成る・・・?』
などと、考えた場合、
不安な気持ちに成る。
それを踏まえて・・・
僕には、邪悪な考えがある。
それは、南原人の子供を誘拐して、
そのまま、我々の家族として、
生活させるのである。
そして、父と母に、子供が生まれたら、
誘拐して育てた子供と結婚させ・・・
子孫を残す・・・・
『駄目だ・・・・!』
過去に、何度も考えたが、
やはり、納得が行かない・・・
こんな残酷な事をしてまで、
『我々が生き延びる必要があるのか・・・?』
『子孫を残し、繁栄する意味があるのか・・・?』
『我々は、誇りを守る為に生きている・・・』
だから、死に絶える事も、誇りに為には必要なのだ。
そう考えた場合・・・
『タロも、一生独身・・・』
という事に成る。
『本当に、良いのか・・・?』
『これが最善の考えなのか・・・?』
『生きるって、何なのか・・・・?』
答えなど出なかった。




