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ネズミの森を通る直線道路、
そして、その中央を流れるのが、
通称・ネズミ水路である。
3人山脈から吹き出す消防水源の水を、
効率良く、枯れた大地に送る為のモノである。
そして、たった今、
その直線道路の、
両サイドにある枯れ木の中から、
直径20センチ程のモノを探し、
それを、50メートルの1本の割合で、
抜いて行き、
北の木材置き場へと、移動させた。
では、次である。
再び、タロを連れ、山菜森へと向かう・・・
そして、
タロには、芋探しをお願いして、
見つけた芋は、
母のリュックに移動させた。
そして、母は、山菜を集め、
バケツに入れている。
しかし、今日の目的は、それだけでは無い。
今日は、木も集める。
基本は、タロの後について行く。
そして、その際に、森の地面に、
ある程度の空きスペースを見つけたら、
太さ30センチの木を選び、
瞬間移動で、4メートル上に移動させる。
すると、その木は、落下して来る。
それを移動魔法を使い、
地面に、ゆっくりと寝かせる。
これにより、枝が折れるのを、
少しでも減らす。
そして、地面に寝た状態の木を、
1番湿地帯に、瞬間移動させる。
家族を瞬間移動させる場合、
瞬間移動させた先の安全が、重要である。
その為、千里眼での確認・・・
あるいは、塩漬けポイントの様に、
安全が核心出来る場所にしか、
瞬間移動出来ない。
しかし、木を移動させる場合、
そんな心配は無い。
結果、僕の知っている場所で、
家族に被害が出ない場所であれば、
モノを、瞬間移動させる事が出来た。
この魔法は、先日、ネズミ水路を作った時、
木々の排除によって、修得した能力である。
では、なぜ、芋や山菜を
枯れた大地に瞬間移動させないのか・・・?
それは、タロや母を「ほめる」為である。
目標の半分程が集まった段階で、
『これだけ集まった、凄い!』
と言って「ほめる」
そして、続きを頑張る・・・
その為には、この場に、芋や山菜があった方が、
都合が良いのだ。
我々は、誇りを守る為に生きている。
単純にいえば「ほめられたい」のである。
『役に立った』と実感したいのである。
それが「誇り」である。
その後も、手頃な木を見つけては、
1番湿地帯へと移動させた。
しかし、この作業には、問題があった。
瞬間移動で、木を取り除いた跡、
そこには穴が残る。
『この穴を放置しても良いのか・・・?』
我々は、ネズミの森を復活させる為に、
山菜森の命を、持ち去っているのだ。
そして、そこに穴が残る・・・
それを放置して逃げる・・・
『それが誇りなのか・・・・?』
『しかし、この穴・・・・』
『どうやって埋める・・・?』
そこで考える。
先ほど、木を寝かせた空きスペースの土・・・
『その部分の土を、厚さ1センチ分・・・』
『移動魔法で持ち上げる・・・・』
『それを穴に、入れる・・・?』
しかし、それには、問題があった。
移動魔法で持ち上げた地面、
それは、そのままの形状で移動する。
例えば、
タタミを、バケツに、
そのまま入れる・・・
それが不可能である様に、
瞬間移動で、空中に移動させ、
移動魔法によって浮かんだ土・・・
それは、板状であり、
穴に入れる事は出来ないのだ。
『では、運んだ土を、手作業で入れる・・・・?』
それは、無理であった。
この後、100本以上の木を集めるのだ。
『一体、何時間かかる・・・』
『では、どうする・・・・?』
『空中で、土の形状を・・・』
『穴の形状に、変化させる・・・』
『そんな事が出来るのか・・・・?』
地面に空いた穴というのは、
瞬間移動によって、木を失った地面である。
結果、木の根の形状をした穴が残っているのだ。
『そんな複雑な形状が作れるのか・・・・?』
僕は、見えない手を、
地面の穴に入れた。
これによって、地面の穴の形状は確認出来た。
そして気付く・・・
『一瞬で埋める必要は無い・・・・』
根の穴は、分岐している。
その先には、ヒモの様に細い穴も続いているが、
それは無視する。
結果、根の形状は、
真下に伸びる1本と、
横に伸びる3本、
それが基本であった。
そこで、真下に伸びる1本の形状を、
見えない手で、確認する。
そして、地面の空きスペースの土を、
厚さ1センチ分、
1メートル上に瞬間移動させる。
と同時に、移動魔法で浮いた状態を守り、
空中の土を、包み込む・・・
と同時に、見えない手を発動させ、
地面の穴の中、
真下に伸びる1本の形状を再確認する。
と同時に、空中の土を再び、包み込む・・・
その後、
真下穴の形状確認、
空中の土の包み込む・・・
これを連続3回繰り返した。
すると、
空中の土の形状が、
真下穴の形状と同じに成った・・・
その瞬間、その変形した土を、
瞬間移動で、真下穴へと移動・・・
時間にして10秒・・・
後は、この繰り返しである。
結果、地面に空いた、木の根型の穴は、
1分程度で埋める事が出来た。
また、
地面の土を1センチ失った空きスペースには、
落ち葉を移動させた。
これにより、落ち葉が土に成り、
土も再生する。
我々は、命を奪って生きている。
その為、全てに対して、
健全に正しく生きる事など、不可能である。
しかし、正しく生きる必要はある。
正しいとは、
将来を考えて、選択をする事である。
『タネを食べて、1日の飢えをしのぐか・・・』
『タネを植えて、将来の飢えをしのぐか・・・』
『どちらが正しい・・・・?』
などと、考えていると、
『あっ!』
柴犬サイズの、茶色い狼が集まって来た。
とはいっても、
まだ1キロ先である。
結果、狼には、我々の姿は見えていない。
もちろん、母もタロも、
狼の姿は見えていない。
僕だけが、見えていた。
千里眼、音を見る千里眼、見えない手、
これら、様々な千里眼が混ざり合った事で、
それが可能に成っていた。
『狼の群れが近付いて来る・・・』
僕は、母とタロに、
それを知らせた。
生前、僕の祖父が、柴犬を飼っていたので、
僕は、この狼の事を、
柴犬と表現してしまう。
しかし、
この狼は、サイズこそ柴犬だが、
毛が短く、やせ型、
生前、テレビで、どこかの国の、
ドックレースを見たが、
その犬に似ている様にも思える。
そして、この狼の群れは、
確実に我々を追跡している。
その為、我々は、移動を繰り返しながら、
芋集め、
山菜集め、
木集め、
木の跡を埋める・・・
狼に命を狙われている状況で、
これらの作業を続けた・・・
しかし、
そんな中、我々は生き生きとしていた。
我々は、精一杯に生きているのだ。
それは、とても大切な事に思えた。




