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現在、我々家族は、
新ネズミの拠点に居る・・・
我々は、すでに、この場所を、
「ネズミの拠点」と呼んでいた。
もちろん、タロも、それを理解している。
その賢さは、普通の狼では無かった。
タロは、優秀なのだ。
そして、深夜、僕1人の時間・・・
問題は、僕である。
『どうすれば優秀な人間に成れるのか・・・?』
『一体、何を変えれば良いのか・・・?』
『どうすれば凡人では無く成るのか・・・?』
『僕は、何の為に、存在するのか・・・?』
何も解らなかった。
翌朝、丸太を縦半分に割ったモノを、
30セットほど用意いた。
これだけ、あれば、
父と祖母は、レンガ型を量産出来る。
レンガ型など、僕が作れば、
次々と完成するが、
それでは、ダメなのだ。
父と祖母が、作り、使い、
そして気付き、
試行錯誤を繰り返す。
これが、生きる意味なのだ。
だから、僕は、材料だけを用意した。
その後、僕と母とタロは、
山菜森に向かった。
到着と同時に、タロが芋を探し歩き回る。
我々は、その後に着いて行く。
冬の間に、芋の多くは、
猪などに食べられたらしく、
簡単には、見付からない。
そこで、予定通り山の斜面に向かった。
タロが、斜面を上る・・・
登るだけで精一杯・・・
掘る事など出来ない・・・
その様な斜面を登り、
芋を探す。
現在、芋には、葉やツルなど、
目視で確認出来るモノは無い、
結果、完全に、地面の中に、隠れている為、
タロの嗅覚だけが、芋を探せる唯一の手段だった。
タロは生き生きしていた。
タロは、芋を発見すると、
心で僕に知らせる。
すると、土の中が見えない僕にも、
芋の位置が伝わる。
そこで、見えない手で、土の中を探り、
芋の輪郭を認識して、
それを、瞬間移動で、母のリュックに移動させる。
時々、タロの足元が滑り、
転落しそうに成るが、
その時は、移動魔法を使い、
タロを支えた。
後は、この繰り返し・・・
そのハズだった。
しかし、何かが接近して来る。
僕のバリアは半径6メートル
その中の匂いは、封じる事が出来る。
しかし、我々が1メートル移動したら、
その匂いは、その場所に残る。
『犬・・・?』
それは、犬の集団の様に思えた。
『狼なのか・・・?』
タロは、灰色のハスキーの様な大型タイプである。
しかし、現在、我々を探しているのは・・・
『サイズは、柴犬・・・』
『しかし、形状は、柴犬では無い・・・』
『ガリガリでは無いが、痩せている・・・』
『茶色い・・・』
『その数、20匹・・・』
『それが500メートル先にいる・・・』
『日本狼・・・?』
生前、テレビで、
「最後の日本狼」といわれる映像を見た事があった。
それは白黒映像だったし、
それほど興味も無かった。
しかし、覚えている雰囲気は・・・
『似ている・・・?』
『犬型動物なので、似ているのは当然・・・?』
僕には、狼と犬の違いが解らない。
しかし、どちらにしても、
原始人である母、
狼であるタロ、
その、どちらかの匂いに、反応して、
襲う為に、追って来ているのだ。
『仕方が無い・・・』
我々は、瞬間移動で、
塩漬けポイントに移動・・・
そこから、乾燥室予定地へ戻った。
芋の収穫量は、たったの6個、
まだまだ足りない・・・
芋を置いて再び、山菜森に戻る必要がある。
しかし、その前に、
父と祖母の作業具合を見る。
すると、祖母が、
焚き火の後の灰を、
ワラ粘土に混ぜていた。
理由を聞くと、
灰は、これ以上、燃えない、
だから、灰を混ぜれば、
レンガは丈夫に成ると思う・・・
だから、それを調べる。
という事であった。
見ると、すでに3種類の、灰入りレンガが、
10個ずつ、地面に並んでいた。
『なるほど・・・・』
全く、その通りだと思った。
今作っているレンガは、
乾燥室の材料に成る。
つまり、熱の影響を受けるのだ。
すると割れる・・・
必ず、ヒビが入る・・・
しかし、熱の影響を、
受けにくい材料を使えば・・・
割れ難く成る。
という理屈である。
祖母は、それを確かめる為に、
数日を潰してでも、
今後の為に、試作をしているのだ。
つまり、今日、作るモノの多くは、
無駄である。
しかし、その無駄の中から、
最善なモノを見つけ出せれば、
今後は、失敗が無い。
乾燥室が完成してから、
レンガの失敗に気付いた場合、
その無駄は、数日では済まない・・・
レンガの乾燥には、
2週間程度かかるのだ。
『祖母は、考えている・・・』
考えて、根拠のある行動をしている。
僕は恥かしく成った・・・
考える事に、疲れ、
その時の「ひらめき」を、
最善と勘違いする・・・
それが僕であった。




