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かまど型乾燥器を完成させた、翌朝・・・
3人はリュックを背負い、
父は、槍を持ち、
母は、バケツを1つ持ち、
祖母は、予備の石ナイフと、
骨の、こん棒を持った。
正直な所、武器など、邪魔なのだが、
万が一に備える。
しかし、タロには、何も持たせない。
この状況で、タロに何かを持たせる事は、
偽善であると、僕は思った。
皆と一緒が良い・・・
そんな理由で、無駄なモノを持たせては、
タロの動きの良さが生かせない。
だから、タロには、何も持たせない。
では、出発である。
次の瞬間、我々は、山菜森の入口に居た。
千里眼で周囲を調べる。
『周囲に、動物はいない・・・』
しかし、油断は出来ない。
その為、母を中心に、
半径6メートル範囲で行動する。
それが、今回の、絶対条件である。
非常に効率が悪いが、仕方がない。
その範囲であれば、バリアの効果で、
周囲の動物には、我々の姿が見えないのだ。
まず、ワラ草を探し、
タロに、匂いを覚えさせる。
そして、捜索開始。
タロは、ワラ草の匂いを認識している。
しかし、ワラ草は、群生している訳ではない、
結果、我々が、目視で探すのと大差無い。
そこで、我々は、横一列に成って、
徒歩で進み、自分の前方に、ワラ草があった場合、
それを石ナイフで刈った。
しかし、その場合、僕から7メートルの位置に、
ワラ草があっても、
それは、取れない。
現在、我々は、通称、バリアによって、
周囲には、見えない、聞こえない、匂わない。
だが、それは、
僕の6メートル範囲に居ればの話である。
例えば、一瞬、バリアの外に出て、
見付かった場合、
その後、一体、どう成るのか・・・?
バリア内に戻れば、
再び、見えなく成るのか・・・?
先日、牛で行った実験によると、
祖母が、さわるまで、
牛は、我々の存在には、気付かなかった。
しかし、祖母に気付いた瞬間、
牛は、槍を構えた父を認識したのだ。
つまり、我々は、運命共同体である。
1人が見付かれば、全員が見付かるのだ。
だからと言って、
このままでは、1分に3本程度しか、
ワラ草を集められない。
『では、どうするか・・・?』
現在、僕は、千里眼を強め、
半径50メートルを警戒している。
これによって、森の中でも、
その範囲で、動く生き物の位置は、
全て把握出来る。
『猪の親子がいる・・・』
『鳥が3羽・・・』
『ハエが飛んでいる・・・』
『鳥は問題無いが、猪の突進は危険だ・・・』
つまり、ここで探すのは危険である。
ワラ草を集める為には、
なるべく、動物の居ない場所に移動して、
6メートル範囲外も、
探す必要があった。
自然界には、それほど動物が居ない。
テレビでは、野生の楽園などと、
ライオンと、シマウマと、牛と、
ヒョウと、鹿と、ワニと・・・
それらが、次々と登場する。
結果、それらの動物が、
同じ場所にいる様に思えるが、
そんなに近くに居た場合、
鹿は生まれた瞬間に、肉食動物のエサと成って、
絶滅している。
つまり、
周囲に動物が居ない場所の方が、多いのだ。
安全の為には、
僕の周囲6メートル範囲に居る事が、
絶対条件だったが、
現実問題、それを守る事など、不可能だったのだ。
その後、我々は、移動を行い、
父と祖母は、母を中心にして30歩、
つまり、半径15メートル範囲を自由に動き、
ワラ草を集め、
それが済んだら、集合して、場所を移動、
再び、集めるを繰り返した。
もちろん、僕も、瞬間移動を使い、
ワラ草を集めている。
タロは、地面の匂いを嗅ぎ、芋を探している。
これによって、
ワラ草は、1分に20本程度、
芋は、1時間に3個程度、
集める事が出来た。
芋が少ないのは、
おそらく、猪が食べているからだ。
しかし、森の木々は充分に育っていた。
猪や鹿は、
森に、新しい木が、生えて来ても、
その新芽を、食べてしまう事がある。
つまり、猪や鹿が増え過ぎると、
木の新芽は、全て食べられてしまい、
森が育たないのだ。
結果、自然を守る為には、
猪や鹿を食べる肉食獣が、必要なのである。
そして、周囲を見る限り、
この森の木々は、充分に育っているのだ。
つまり、この森の場合、
猪を食べる肉食動物がいるのだ。
だから、木々が育つのだ。
次の瞬間、僕の千里眼が、
肉食動物を発見した・・・
『恐竜に気付かれた・・・』
我々がワラ草探しを始めて、
3時間・・・
僕の周囲6メートルは、
バリアが機能している。
しかし、父と祖母は、バリアの外に出て、
ワラ草を集めている為、
その場所には、匂いが残るのだ。
そして、その匂いが、
肉食獣に気付かれた・・・
『恐竜が匂いを、追って来ている・・・』
仕方が無いので、
我々は、山菜森を出て、
牛の大地を南に進む。
瞬間移動を途切れる事無く、繰り返し、
一気に20キロ移動した。
これによって、匂いによる追跡は不可能に成る。
しかし、前方には、あの巨大湖である。
時間があれば、皆に見せてあげたいが、
湖の近くには、
命がけで、水分補給に来る動物も多く、
それを狙う、肉食獣も集まって来る。
つまり、ここも危険である。
そこで、瞬間移動を使い、巨大湖を素通りして、
その先、40キロの位置に来た。
半径1キロ範囲を警戒、
鳥が多い・・・
それを狙う、ヒョウの様な、
肉食動物がいる。
『ここも駄目か・・・?』
『森に入れば、大丈夫か・・・?』
その瞬間、
タロが言った・・・
「ワラ草」
タロが、視線で、
その方角を知らせる。
『あっ・・・』
それは、枯れた草原だった・・・
何と、ワラ草が群生している。
鳥は、そこに集まり、
ヒョウは、その鳥を狙っているのだ。
僕は、肉食動物に集中するあまり、
ワラ草には、気付かなかったのだ。
『何と、愚かな・・・』




