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これは魔法の書です。  作者: わおん
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現在、僕は、自分が死んだ後の、


家族の心配をしている。



重要なのは、


僕が死んだ後、


芋が確保出来るまで、


何を食べて生き延びるのか?


という事である。



そして、山での経験上、


干し肉であれば、


1ヶ月後でも食べられる。



しかも、今後の干し肉には、


塩が使える。



これによって、保存性が向上する。



そして、素焼きの壷に入れておけば、


さらに、長期保存が可能に成る。



僕の生前の記憶では、


祖父が、3ヶ月前にもらった干し肉を、


普通に食べていた。



それは、正露丸の様な匂いがして、


とても臭く、僕は食べれなかったが、


祖父は、その干し肉を、時々、食べていた。



その干し肉は、冷蔵庫には入れていない、


『たしか・・・壷に入れていた・・・』


『それは、本来、塩をいれる壷だった・・・』



フタなど、陶器のフタが乗っかっているだけ、



『それを、台所の棚の上・・・』


『常温で放置していた・・・』



その程度で、3ヶ月後も食べられたのだ。



僕が、干し肉に、こだわる理由は、


そこにある。



実の所、干し肉以外の、選択支が無かった。


現代生活で、保存食など、考えもしなかった。



干し柿は知っている、


しかし、ここには、柿が無い・・・



干し芋も知っている、


しかし、サツマイモは無い・・・



我々が、芋と呼んでいるモノは、


山芋の様であり、



干すには向いていない。



干しアワビ、干しシイタケ、


魚のミリン干し、スルメ、


カンピョウ、ニボシ、



知っているだけなら、


沢山知っている。



しかし、入手出来ない・・・



入手出来ても、作った事が無い、



結果、作れる保証が無い・・・


保存出来る保証も無い・・・



そんな僕が、唯一知っているのが、


干し肉であった。



そして、この世界に来てからの3ヶ月で、


その作り方と、保存性を、


経験として知っている。



テレビで見たのとは違う、


自分の経験で、本当に知っている。



これは事実なのだ。



僕には、家族を守る責任がある。



ここまで、連れてきた。


ここまで、生き延びさせた。



だから、これからの生活も、


僕には、責任があるのだ。



『干し肉を作る・・・』


『それしか作れない・・・』



しかし、それは、


今まで、冬だったから、


成立していたのだ。



夏の時期に、肉を干した事など無い・・・


夏の自然乾燥で、肉は腐らないのか・・・?



もしかすると、腐らない・・・?


そんな訳が無いのだ。



肉屋で買って来た肉に、塩をかけ、


夏場、放置して、干し肉に成るなら、


現代の日本で、干し肉は、


普及していたハズである。



しかし、その様な事実は無い。


つまり、真夏に、肉を放置して、


干し肉を作る事など、不可能なのだ。



つまり、我々には、


乾燥器と乾燥室が必要である。



そして、それに必要な、


ワラ草は、猛獣が生息する山菜森に行って、


集める必要がある。



ワラ草は、群生していないので、


集める事が困難である。



その為、本来なら、父と祖母にも、


参加して欲しい・・・



しかし、山菜森には、


恐竜だって、入って来れるのだ。



父と祖母を守れるのか・・・?


もし、守る事が出来ても、


その結果、何が起きる・・・?



僕が、父や祖母を守る為、


条件反射で魔法を発動させた場合・・・



何が起きる・・・?



全く、予測出来ない。



では、父と祖母は残し、


タロだけ連れて行っては、どうだろうか・・・?



タロには、ワラ草集めは出来ない。



しかし、芋は探せる。



『芋だって保存が可能だ・・・』


『皮袋に入れて日陰に置けば、日持ちする・・・』



これによって、


我々は、助かり・・・


タロの誇りも守られる。



では、その間、



『父と祖母は大丈夫なのか?』


『ネズミの拠点は大丈夫なのか・・・?』


『狼が来たら・・・・?』



現実的に考えた場合、



『おそらく来ない・・・』



以前、3人村で、我々を襲撃した狼が、



『今も、生きているとは思えない・・・』



食べ物が無いのだ。



『餓死している・・・』



そう考えられた。



つまり、父と祖母は、


ネズミの拠点に残して行った方が、


安全なのだ。



しかし・・・


なぜだろうか・・・?



その瞬間、僕は、


『明日、全員で山菜森に行く!』


そう決めた。



僕は、その決断に、あせった・・・



『一体、何を考えているのか・・・?』



自分でも、その理由が解らない。



そんな事なら、


これまで考えた事は、何だったのか?


その様に思う。



結局、思い付きで、


何となく、行動する・・・


勢いで、行動する・・・


それでは命を落とす。



今の、僕の、決断が、


まさに、それである。



つまり、絶対に、駄目な事なのだ。



本人は、決断したつもり・・・



しかし、その現実は、


考える事に疲れ、


勢い良く妥協しただけ・・・



それは、最善の考えでは無い。


ただ、手を抜いただけである。



そんな馬鹿な考えを、


実行する訳にはいかない。



そこで、再び考える。


ここで、妥協しては駄目なのだ。



本当に、納得行く理由が必要である。



ところが・・・


その時である。



祖母が、何かを言った。



そして、母が、それを僕に伝えた。



「明日、楽しみ、みんな、ワラ草、集め、行く」



祖母も父も、完全に、その気に成っている。



ワラ草が必要な事は、全員が理解していた。



そして、それを集める事が、


危険である事も、充分に理解している。



しかし、とても喜んでいる。



僕は、その理由を、母にたずねた。



すると、母は、祖母から話を聞いて、


僕に、教えてくれた。



「タロ、連れて行く・・・」


「タロ、働ける・・・」



僕は、驚いた。



父も祖母も、


その事を喜んでいたのだ。



現在、タロは仕事をしていない。



仕事が無い・・・


役に立っていない・・・



この世界では、


働けないモノは、切り捨てられるのだ。



それが、当然の事であった。



働かないのなら、必要無いのだ。



おそらく、父や祖母には、


本能レベルで、


それが刷り込まれており、


それが、一生懸命の原動力なのである。



そして、現在、


不要な存在に成りつつあるタロ・・・


そのタロを守りたい。



その為には、タロに仕事を与えたい・・・



その思いが、明日、山菜森に行く事で、


叶えられるのだ。



『明日、全員で行く・・・・』



僕は決断した。



『我々は、誇りを守る為に生きているのだ・・・』


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