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以前、山で生活していた時、
タロは、我々の為に、
食料を探してくれた。
しかし、現在、ネズミの森には、
食料に成るモノは無い・・・
そこで、タロは、父と祖母を守る為、
周囲を警戒している。
しかし、周囲に外敵の様子は無い・・・
つまり、
このままでは、タロは何も出来ない・・・
何の役にも立たないのだ。
『タロの誇りを守る必要がある・・・』
『タロを、どうする・・・?』
しかし・・・
残念ながら、今は、その様な余裕など無かった。
1日でも早く・・・
一瞬でも早く・・・
僕が居なくても、生きていける環境・・・
それを、完成させる必要があったのだ。
家族が、生き延びる為に、
タロの、生きる価値を奪う・・・
残酷な様だが、それが必要な状況に思えた。
我々の、今後の予定、
それは、日干しレンガ作りである。
ワラ粘土を、レンガ型にして、
日陰で乾かすのだ。
そして、それを使い、乾燥「室」を作る。
今日、乾燥「器」は完成したが、
そこから出る熱で、肉を乾かす為には、
乾燥「室」が必要である。
そして、それを作るには、
レンガが必要に成る。
素人が、石とドロで小屋を作ったら、
バランスを崩し、崩壊する危険性が高いのだ。
「カマド」は、小型だから、
素人にでも、作れたのだ。
その為、乾燥室作りには、
安定した積み上げが可能な、
レンガが必要なのだ・・・
しかし、困った事に、
ワラ草が無い・・・
だから、明日は、ワラ草を集めに、
山菜森に行く・・・
ところが、それには問題がある。
ワラ草を、多く集める為には、
父や祖母にも参加して欲しい・・・
しかし、牛の大地には、
恐竜やサーベルタイガーがいる。
ハイエナの様な生き物も居たし、
まだ、見てはいないが、
狼だっているハズである。
当然、それらの獣は、山菜森にも入って来れる。
そんな場所に、父や祖母を、
連れて行く必要があるのか・・・?
そこまでして、ワラ草は必要なのか・・・?
冷静に考えてみる・・・
ワラには、枯れた後でも、
ヒモの様な強度がある。
ワラ草にも、その強度は充分にあった。
『では、他の草では、駄目なのだろうか・・・?』
僕は、日干しレンガなど作った事が無い。
しかし、テレビで見て知っている。
日干しレンガや、カマドを作る時、
土にワラを混ぜていた。
おそらく、ワラが最適なのだ。
ワラは、ストローの様に、
中が空洞である。
それなのに、
枯れても、ヒモとして使える。
それを土に混ぜ混む事で、
レンガの強度が上がるのだ。
『では、牧草の様な草は・・・?』
僕の知る限り、
「草むしり」をした後、
通常の草は、パリパリに成って、
割れる。
つまり、レンガの強化には、役に立たない。
『では、葦を入れたら、どうだろう・・・?』
葦は、細い竹の様な植物である。
つまり・・・
『混ぜる時や、塗る時に刺さって危険だ・・・』
もしかすると、ワラ草の代用に成る草は、
存在するカモ知れない・・・
しかし発見出来ていない・・・
つまり、ワラ草が、現在、
最善であり、唯一のモノなのである。
『やはりワラ草が必要だ・・・・』
『ワラ草が大量に必要だ・・・』
では、父や祖母も、
山菜森に連れて行き、
ワラ草集めを、手伝ってもらうベキなのか・・・?
現在、我々は、
周囲の動物に、認識されない。
一体、どの様な魔法が、
どの様に効果しているのか?
全く理解出来ない。
しかし、牛による実験では、
匂いさえ気付かれなかった。
そして、おそらく、恐竜池の恐竜も、
我々の姿を認識出来なかった・・・
以前の光景を思い返すと、
その様に思える。
それを考えた場合、
明日、全員で、山菜森に行っても、
ある程度は安全である。
『では、どうするか・・・?』
父と祖母に相談した場合、
絶対に行く!
という事は、解っている。
必要なのだから、行って集める。
それは当然の事である。
しかし、命とワラ草集め、
そう考えた場合・・・・
命の方が大切である。
しかし、ワラ草が無いと、
乾燥室が作れない・・・
つまり、干し肉が作れない。
その場合、
今後、命をつなぐ食料はどうする・・・?
『何も無い・・・』
芋が育つまで、
干し肉で生き延びる・・・
その為には、乾燥室が必要であり、
その為には、ワラ草が必要なのだ。
僕には、それ以外の方法が、
考えられなかった。
ちなみに、幼稚な、解決策なら、
簡単に出て来る。
例えば、
タイガー池の、今後など、無視して、
生態系の全てを、1番池に移動させれば良いのだ。
僕が死んだ後、
残された家族が、
牛の大地に行ける訳が無いのだ。
つまり、極論すれば、牛の大地など、
どう成っても良いのだ。
しかし、牛の大地の池を、
こちらに移動させたとして・・・
僕が死んだ場合、
『その池の水は、どうなる・・・?』
『本当に維持出来るのか・・・?』
『家族の安全は、保証出来るのか・・・?』
枯れた大地の川は、
通称、消防水源によって、供給されている。
つまり、山から、川が続いている訳では無く、
山から、吹き出した湧き水によって、
成立しているのだ。
つまり、水不足の時期に、
魚が、上流を目指しても、
その先には、進めず、
水が枯れると、全滅するのだ。
『では、どうする・・・?』




