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僕は、夜中1人で考え、反省していた・・・
計画変更である。
レンガを、数千個作るのは止めた。
僕が、やるべき事、
それは、父や祖母が、
再現出来る技術を、残す事である。
生前、テレビで見た事があった。
貧しい国に、トラクターなど、
農業機械をプレゼントしても、
それが故障した時、
修理する事が出来ない。
そして、トラクターが無いと、
作業困難な畑だけが、残ってしまうのだ。
それなら、最初から、
人力で、畑を続けていた方が、
合理的だった訳である。
それを踏まえ、
僕が、レンガを残した場合、
それが思わぬ不便を生む・・・
余計なモノを残し、
「それ」が無いと、困る環境を作り、
将来「それ」を失った時・・・
残された家族が困る。
僕が、魔法で作るレンガは、
とても優れたレンガであると、
考えられる。
魔法は、手抜きが出来ない。
つまり、僕が、レンガを作り続ければ、
魔法は、進歩して、
それによって、完成したレンガは、
人間が作れるレベルを越える・・・
そして、僕の死後は、
それを再現する事は、不可能に成るのだ。
だったら、
父や祖母が、自作出来る方法・・・
それを残した方が合理的である。
という訳で、
石と、粘土質の土で「かまど」を作る事にした。
粘土質の土であれば、
父や祖母も、
ネズミの森の地面から、採取できる。
おまけに、現在、1番湿地帯には、
粘土質の土が、数千万トン・・・?
おそらく、そのレベルで放置されている。
高さ30センチ
横幅30センチ
長さ100メートル
そんな巨大な、角材状態で、
2000本以上が、
電車の車庫の様に、
並んでいるのだ。
『では、どうするか・・・?』
考えた末・・・
僕は、その1本を、
新ネズミの拠点に移動させた。
「かまど」は、新ネズミの拠点に、
作る事にしたのだ。
この新ネズミの拠点は、
1番川の近くに移転したモノなので、
水の確保に便利である。
それに対して、旧ネズミの拠点、
現在の燻製場は、
川から20キロも離れているので、
今後、肉の乾燥を行う為には、
毎回、20キロ移動する必要がある。
これは不便である。
僕は、最初、
燻製を作る時に出る煙が、
3人とタロの生活に、
悪影響を与えると、考えた。
その為、新ネズミの拠点から、
20キロ離れた、旧ネズミの拠点を、
薫製場として、使う事にした。
しかし、実用性を考えた場合、
多少、煙の匂いがしても、
家や、川の近くに、
燻製場を作った方が、
今後、便利である。
そこで、
新ネズミの拠点から西、
つまり、岩塩の大地方向に、
300メートル進んだ場所に、
肉の乾燥器を作る事にした。
この場所であれば、
その横を、1番川が流れているので、
便利である。
では、作業開始、
まず、地面に2メートル四方、
深さ、10センチの穴を掘る。
今回は、僕が魔法で掘ったが、
この程度の穴なら、
父や祖母にも掘る事が出来る。
今回の作業は、
父や祖母にも出来る・・・
それを前提に行う。
1番湿地帯から、移動させた粘土質の土・・・
長さが、100メートルもあるので、
その一部を、穴に入れる。
この土は、粘土質だが、
完全な粘土ではない。
砂や、木の根などが入っている。
そこで通称、クズ粘土と呼ぶ事にした。
地面の穴は、プラ舟代わりである。
プラ舟とは、コンクリートを、
コネる時に使う、容器であり、
「金魚すくい」の水槽の様なモノである。
それを地面の穴で再現したのだ
そして、その穴の中には、
クズ粘土が、
サッカーボール10個分ほど入っている。
では、次である・・・
そのクズ粘土を棒で砕き、
大きな不純物を探し、
手作業で取り除く。
そこに、水を入れ、
クズ粘土を足で踏み、
ドロにする。
固さは、ドロ団子が来るれるレベル。
そして、ここからが、
重要である。
先日、僕が、巨大湖の近くで集めて来た。
麦の無い、麦の枯れ草・・・?
通称、ワラ草を
長さ5センチ程度にカットして、
ドロの中に入れる。
このワラが、乾燥したクズ粘土の強度を、
保ってくれるのだ。
先日、無意味に集めた枯れ草が、
意外な所で役に立って、
内心「ほっと」したが・・・
『困った・・・』
ワラ草を集め、育てる環境を作らないと・・・
そして、思い出す。
『ヨシだ・・・葦は生きていた・・・』
巨大湖の南岸には、葦が群生している場所があった。
『あれを、採取して来て・・・・』
『池の周囲に植えたらどうだろうか・・・?』
『しかし・・・異常繁殖した場合・・・』
『芋畑が食われる・・・?』
そんな事を考えながらも、
作業は続く。
父も祖母も、熱心である。
作業の意味を考え、一生懸命に覚えている。
そんな2人に、
『ワラ草は、入手出来ません・・・・』
『覚えても、作れません・・・・』
そんな事は言えない。
つまり、教える者の義務として、
教えた事が、実践出来る環境・・・・
それを、保障する必要があるのだ。
『ワラ草の周囲の土を、集めよう・・・』
『もしかすると、タネがあるかも知れない・・・』
などと考えつつ、
作業は続く・・・
ワラ草を入れ、
ドロの固さを調節する。
これをワラ粘土を呼ぶ。
では、次に、
乾燥器の設置場所に、
「ゲンコツ石」
つまり、大きさ10センチ程度の石を並べ、
石の床を作る。
そのサイズは、1メートル50センチ四方、
その上に、ドロ粘土を塗る。
つまり、コンクリートの床の様にする。
その上に、ゲンコツ石を並べ、
直径、60センチのCの字を書く。
それらを、ドロ粘土で固定して、
2段目を積み上げ、
後は、この作業を繰り繰り返す。
その途中、
マキを入れる部分、
つまり「火口」を作る必要があった。
その大きさは、
横25センチ
縦20センチ
この火口は、
下辺は25センチだが、
上辺は10センチ程度にして、
石の組み合わせで、
崩壊しない様に、
固定する必要がある。
実の所、
この火口を作る時、
『崩れるのでは・・・?』
と不安だったのだが、
祖母は考え、石を選び、
父が、その石を、棒で一時的に支え、
組み上げた。
『祖母は賢く・・・』
『父は器用・・・』
その後も、作業は続き・・・
高さ50センチまで積み上げ、
その表面にドロ粘土を塗って補強する。
これによって「かまど」の原型が完成した。
天井部分には、直径40センチの穴が開いている。
これは「かまど」なので当然の事である。
しかし、我々が作っているのは、
乾燥器である。
そこで、その穴の周囲に、石とドロ粘土を積み上げ、
高さ30センチの煙突にする。
結果、煙突付きカマド、
通称、乾燥器が完成した。
ちなみに、乾燥器のサイズは、
地面側の直径70センチ
内径50センチ
天井側の直径40センチ
天井までの高さ50センチ
その上に、
直径30センチ
高さ30センチの煙突がある。
時間は、昼の3時を回っていた。
我々は、昼食を食べるのを、忘れていたのだ。
その後、3人とタロは、
夕食を食べた。
その間、僕は、考える・・・
『タロをどうするか・・・?』




