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僕は、絶えず、不安を抱えている。
僕の判断に、家族の今後をかかっているのだ。
しかし、
現実問題、小学5年生の思考レベルで、
解決出来る問題では無い・・・
ネズミの拠点から、南に200キロの地点にも、
湿地帯がある。
そして、先日、
僕は、その湿地帯の中央に、川を作った。
結果、湿地帯の水が、川に流れ込んだ。
その効果なのか、湿地帯の地面は、
塩抜きがされていて、
母が、地面の土を口に入れても、
塩味はしなかった。
ところが、湿地帯の周囲は・・・?
津波の後、放置されているのだ。
当然、地面には、塩分が残っている。
つまり、今後、牧草を増やす為には、
周囲の塩分除去も、必要なのである。
1日で出来る広さではないので、
毎日、行く必要がある。
しかし、本当に塩分が、
除去されているのか・・・?
それが不安だった。
母に、土を舐めてもらい、
塩分除去効果を確認するのだが。
母も僕も、
「どの程度の効果が出ているのか・・・?」
それが解らないのだ。
全ては、母の味覚で判断しているだけ・・・
それが、正解である保証は無い。
土の味に邪魔をされ、塩分を感じにくいだけで、
実際には、塩分が残っている可能性もある。
つまり、成功している自信が無いのだ。
ちなみに、牛肉や、鳥肉は、
味付けしなくても、塩味がする。
動物は汗をかくのだ。
その汗には、塩分が含まれている。
そして、その汗は、体内から出てくる。
つまり、肉には、塩分が含まれているのだ。
しかし、母は、これまで、
それを、塩味とは認識していなかった。
それを踏まえ・・・
母が、土を味見しても、
微量の塩分であれば、
母は、それを、塩分とは感じない・・・
その可能性は、充分にある。
現在、母は、塩の存在を知っている。
しかし、口に土を入れた時点で、
様々な味・・・
ある意味、苦痛を与える味がするのだ。
結果、その中から、微量の塩分を、
見つけ出す事は、困難なのだ。
つまり、完全な塩分除去は、困難であり、
土には、植物にとって、有害な塩分が、
残っている可能性もあるのだ。
結果、牧草地の塩分除去が、
成功してるのか、どうか・・・?
僕が、死んで、
魔法による手助けが無くなっても、
牧草が育つのか・・・?
それが、解らないのだ。
現在、我々は、その様な不安を抱えながら、
塩分除去を行っているのだ。
しかし、今、目の前には、
不純物が混じった粘土質の土がある。
ネズミの森に、水路を作る為に、
大量の土を、1番湿地帯に移動させたのだ。
縦横30センチ四方、長さ100メートル、
そんなブロック土が、
満車の駐車場の様に、並んでいるのだ。
その為、ブロック土には、
ネズミの森に生えていた木々の根っこも、
混じっている。
それ以外にも、砂なども混じっている。
結果、粘土としては、使えない。
その為、今から、土の中の、不純物を排除する。
つまり、魔法で不純物除去を行った後、
その不純物が、除去出来たか、どうかを、
目で確認出来るのだ。
つまり、ここで不純物の除去を繰り返せば、
僕の魔法は進歩して、
僕も母も、不純物の除去が出来る事を確信する。
結果、塩分除去にも、その効果を発揮するのだ。
僕は、本気で、その様に思う。
魔法に関しては、芝居は通用しない・・・
『出来る・・・』
などと、芝居をしても、
本心は、その嘘を理解している。
だから、魔法は発動しない。
しかし、僕が、出来ると確信した事に関しては、
その後、不要に成っても、
その発動を止める事が困難な程、
簡単に発動する様に成る。
つまり、ここで、粘土質の土を、
粘土に変える作業を続ければ、
これが、出来るのだから、
塩分除去も出来る・・・
僕の、その様な、幼稚な発想によって、
塩分除去魔法も、向上するのだ。
しかし、
何かを、排除する場合、
何を、エネルギーに、行っているのか・・・?
排除されたモノは、どこに行くのか・・・・?
空想は出来るが、
本当の答えは解らない。
解らないという不安は、
魔法の進歩を邪魔する。
魔法は、色々と難しいのだ。
しかし、解った事もあった。
土の中の、不純物を、瞬間移動で、
排除する事は、出来ないのだ。
見えないので、
それを見て「選んで」移動させる。
それが出来ないのだ。
ネズミ水路を作った時の様に、
地面の表面が見えている場合なら、
見えている表面と共に、
地中の土も移動出来た。
物を移動させる時、そのモノの底は見えない。
つまり、見えない部分があっても、
モノは、移動出来るのだ。
これが、瞬間移動で出来る事である。
ところが、粘土の中の不純物を、排除する場合、
瞬間移動は、役に立たないのだ。
モノの中の、モノを移動させる必要があるのだ。
そして、完全に見えない状態のモノを、
移動させる事は出来ないのだ。
では、どうするか・・・?
ガンの除去である。
生前、僕は、祖母のガンを消している。
もちろん、ガンは見えないし、
どこにあるのか?
それさえも解らない。
しかし、事実として、
生前、僕の魔法で、ガンは消えたのだ。
僕の「何が」「何を根拠」に、
「必要」と「不要」を判断しているのか・・・?
それは、不明だが、
僕が不要と感じるモノは、
除去出来る。
『不要と思ったら・・・除去出来る・・・』
ある意味、恐怖を感じる魔法である。
しかし、僕の魔法は、基本、
『誰かの役に立ちたい』
その思いで発動する。
その為、突然、家族が消える様な事は、
起こらない。
僕は、その様に認識している。
などと、考えている間にも、
1番湿地帯の、ブロック土から、
不純物の排除は続いている。
ガンを消す様な気持ちで、土を見ているのだ。
この土は、
長さ100メートルもあるので、
端の1メートルだけに魔法を使っている。
続ける事10分、
母も、心を込めている。
では、確認である。
不純物の排除を行った土を、
母が、つかみ取る。
その量、野球ボール1つ分くらい。
その中には、まだ多少、不純物が残っている。
そこで、丸めて1塊にして、
手で持った状態で、
再び、排除魔法を行う。
数分後、何が根拠なのか、
僕も母も、
『これで良し!』
その様に核心して、作業を終了した。
その後、母が確認、
粘土質の土が、
本当に粘土に成っていた。
『成功だ・・・』
この方法で、バケツ2杯分の粘土を作った。
こうして、我々は、
旧・ネズミの拠点、現・燻製場に戻った。
燻製場では、父と祖母が、
地面に絵を描いて、計画を練っている。
非常に合理的な考えである。
無駄には作らない・・・
考えてから作る・・・
それは、とても大切な事なのだ。
無計画に作り、失敗作から学ぶ事など、
愚かな行為である。
今、必要なのは、失敗作では無い。
実用的に使える完成品なのだ。
遊んでいる訳では無いのだ。
生き延びる為に、作るのだ。
無価値を「ほめる」ゆとり教育・・・
失敗を美化する、間違った考え・・・
その様な、恥ずかしい文化など、
ここには無いのだ。
失敗したら、困るのだ・・・
ケガをするのだ・・・
食べ物が無駄に成るのだ・・・
父も祖母も必死だった。
最善のモノを完成させる為に、
真剣に考えていた。
そんな時に、登場したのが、
粘土であった。




