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右側に、山菜森を見ながら進む。
調査が目的なので、
300メートル刻みの瞬間移動で、
周囲を観察しながら進んで行く。
先ほどから、僕は、気に成っていた。
それは草であった。
麦の様に見えるが、
実が無い・・・
なぜか、その、通称・ワラ草は、
枯れていた。
季節は春・・・
『季節的に枯れたのか・・・?』
母に聞いたが知らない植物だった。
『ワラの代用に成る・・・?』
『一体、何を使う・・・?』
このワラ草は、
森の中に生えているのだが、
麦畑の様に、密集している訳ではない。
つまり、集めるには、
それなりの労力が必要である。
『そこまでして集めるのか・・・?』
縄文式住居には、使えそうだが、
森の中で、1本ずつ集める事に成る。
それが、何本必要なのだろうか・・・?
と悩む・・・
これが、枯れておらず、
生きている状態なら、
それを持ち帰り、
育てる事で、
今後、ワラが量産出来る。
しかし、目の前にあるのは、
枯れている・・・
実も無い・・・
『悩んでも、時間の無駄だ・・・・』
僕と母は、ワラ草集めた。
その数、100本程度、
これを、とりあえず、ネズミの拠点に運び、
放置した。
使い道が無いので、
ただ集め、ただ放置したのだ・・・
『僕は、一体、何をしているのか・・・?』
『あれば便利、使える様な気がする・・・?』
『気がする・・・?』
『何だ・・それは・・・』
僕は、自分の愚かさを痛感した。
気持ちが、あせっていた。
少しでも、結果を残したくて、
僕は、無駄な事をしたのだ。
『枯れた草100本が、何の役に立つ・・・』
僕は、自分の判断力に低さが、
残念でならなかった。
生前、賢い人間は大勢いた。
しかし、今思えば、
その人間の多くは、ただの人だった。
病名を知っている。
治療法も知っている。
しかし、その人は、
手術が出来る訳では無い。
ただの患者であった。
僕は、天才児と呼ばれていたが、
実際には、小学校の授業で習う事を、
自宅で、先に覚えていた・・・
それだけの事である。
賢い訳では無い。
先に知っていた。
その程度の事である。
賢くても、役に立たなければ、
それは、無意味なのだ。
人間は、役に立ってこそ、人間である。
僕は、その様に思った。
その後も、山菜森を右に見ながらの、
川探しを続けた。
先ほど、生き物が居なかった池、
通称、「謎池」から20キロ地点、
前方に森が見えてきた・・・
それを見て、僕は、
一瞬、動揺した・・・
『南のゴール地点・・・!』
『ジャングルに到着したのか・・・!』
と驚いたのだ。
しかし・・・
そんな訳がない。
ジャングルがあるのは、
千キロ以上先なのだ。
2千キロ以上かも知れない・・・
『では、この森は何なのか・・・?』
目の前の森は、
山菜森から、
岩塩の大地方向に、伸びている。
『どこまで続いている・・・?』
我々は、東側・・・
つまり、岩塩の大地がある方向に、
進路を変更した。
所々、獣道の様なモノがある。
右側に「謎の森」を見ながら、
東に進む。
すると、
森の密度が低くなり、
その先が見えた。
『池・・・?』
『大きな池がある・・・・』
どうやら、山菜森を出た場所に、
大きな池があり、
その周囲を、木々が囲んでいる様である。
『それにしても大きな池だ・・・』
『どこまで続いているのか・・・・?』
と思いながら、進む事4キロ、
そこで、森が途絶えた。
我々は、
本来の進行方向である南に、向きを変え、
前進する・・・
木々が、ほとんど生えていない。
その為、池が見えた。
『池じゃない・・・湖だ・・・』
それは、大きな湖だった。
『魚が跳ねた・・・!』
それを鳥がキャッチして、
飛び去った。
つまり、
『魚がいる・・・』
僕は、湖の中を見る。
『よかった・・・』
魚が泳いでいた。
もし、ここも、生物のいない、
謎湖だったら・・・
そう考え、不安だったのだ。




