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僕が、森から木を切り出し、
父と祖母に、
1メートル四方の小屋作りを、
お願いした。
本来、木の切り出しも、
2人に任せる事が、
礼儀であると思う。
自分で、考え、必要なモノを集める。
そして、自分が納得出来るモノを完成させる。
それが任せるという事である。
しかし、僕は、自分が死んでしまう事に、
あせりを感じ、あらゆる事が、
空回りしていた。
つまり、僕は、器の小さい人間なのだ。
その後、母と僕は、1番池に移動した・・・
千里眼で、池の中を見る。
最初に放流したバケツの中には、
通称・メダカが40匹ほど入っていた。
それを探す。
放流から、すでに2時間以上・・・
池の広さは300メートル四方・・・
『いた!』
『生きている・・・』
どうやら、無事の様である。
そこで、残り9個のバケツの中の
生き物も、全て池に放す。
その後、僕と母は、
ネズミの森を背に、
岩塩の大地を越え、
その先にある森・・・
通称・山菜森に戻って来た。
森の中を流れる川・・・
『石は無い・・・』
『川底は砂・・・』
『水が綺麗で、魚が見える・・・』
『川の両岸、数メートルには、木々は無い・・・』
僕は、その光景を記憶して行く。
現在、ネズミの森にも川がある。
ネズミの拠点から、3番目の川、
それは、津波前から存在している川、
通称、本川である。
本川にも石は無い。
僕は、
津波によって、石は全て、
流されたと考えていた。
しかし、山菜森の石無川を見れば、
本川にも、元々、石は無かったと考えられる。
そんな事が解って、
一体、何に成るのか・・・?
そんな事は解らない、
しかし、この山菜森で、
川の姿を見て、
それを、ネズミの森で再現する事が、
僕の目的である。
現在、ネズミの森の中には、
湿地帯がある。
津波によって、地形が変り、
行き場を失った山の水が、
ネズミの森に、湿地帯を作っているのだ。
そして、その湿地帯は、
枯れた大地まで続いている。
現在、1番湿地帯を作っていた水は、
先日、作った「ミゾ」によって、
通称、1番川と、2番川に流れ込んでいる。
2番湿地帯の水は、4番川に引き込んでいる。
その為、枯れた大地の湿地帯は、
少しずつ、小さく成っている。
1ヶ月後には、完全に消えるだろう。
しかし、ネズミの森に、広がる湿地帯は、
まだ、残っている。
木の根が、水の流れを、複雑にする為、
一部の水は、枯れた大地に流れ出せず、
ネズミの森に広がっている。
『これでは、蚊が異常発生する・・・』
つまり、ネズミの森の中にも、
川を作り、湿地帯を、消滅させる必要があるのだ。
しかし、素人が、その様な事をした場合、
一体、何が起こるのか・・・?
それが全く解らない。
そこで、山菜森の、石無川を参考にする為、
上流を目指す。
見えない手で、安全な足場を探し、
瞬間移動で、数十メートル刻みで進む。
『川は、曲がっている・・・』
川は、不自然にカーブしている。
しかし、これが自然なのだ・・・
川が出来た当時、
その場所に、木があった・・・
おそらく、その様な理由で、
水の流れに変化が生まれ、
その後、完成する川に、影響を与えたのだ。
川が、クネクネ曲がっているのは、
それが原因なのだ。
では、それを、ネズミの森で再現出来るのか?
『何を基準に川を曲げる・・・?』
これは困った問題だった。
一直線の川なら、簡単に作れる。
『それでは、駄目なのか・・・?』
『カーブは、必要なのか・・・?』
『森の中に、一直線の川を作ると・・・』
『後々、問題が起きるだろうか・・・?』
考える・・・
そもそも、川が曲がっている理由は、
木が邪魔で、
真っ直ぐ流れる事が出来なかった。
雨水は、障害物の影響を受け、
曲がり、地面を削り、
ミゾを作り、
結果、そのミゾに水が流れ、
ミゾが水で削られ、川に成った。
つまり、障害物のない地面であれば、
川は、一直線だった訳である。
しかし、本当に、そうだろうか・・・?
では、なぜ、枯れた大地の川も曲がっている・・・?
枯れた大地には、実際、何も無い・・・
『それなのに、なぜ川が曲がった・・・?』
『丈夫な草・・・・?』
『丈夫な草が障害物に成った・・・?』
おそらく、最初は、草が邪魔だった・・・
その程度の理由で、
川は曲がったのだと、考えられた。
それを踏まえ、考える・・・
『では、川が曲がっている必要性は・・・』
『無いのか・・・?』
『曲がっているメリット・・・』
『そんなモノがあるのか・・・?』
そして気付く・・・
『一直線の川は・・・』
『水の流れに、勢いがついてしまう・・・』
山の雪が溶けて、
水が流れて来る。
直線の川の場合、
『水のスピードを弱めるモノが無い・・・』
つまり、森の中に、一直線の川を作った場合、
その水は、ネズミの森を抜けた瞬間、
僕の作ったミゾを突破して、
1番湿地帯に激突する・・・
『それでは困る・・・』
ネズミの森を抜けた水には、
僕の作ったミゾを通って、
左右に別れ、1番川と2番川に、
流れてもらう必要がある。
その為には、
森の川には、カーブを作り、
水の勢いを、
減らす必要がある。
『しかし、どの程度、カーブさせるか・・・?』
山から流れて来る水には、勢いがある。
それを極端に曲げると、
あふれ出し、川が機能しなくなる。
つまり、絶妙なカーブが必要なのだ。
自然であれば、何千年、何万年もの時間をかけ、
あふれ出し、削り直しを繰り返し、
絶妙なカーブを、完成させる事が出来る。
山菜森の川が、そうなのだ。
結果、タイガー池が、あふれないのだ。
しかし、僕には、時間がない。




